第11章 誕生

不動ユウの誕生日

 幼少の時、今の空くんくらいの歳の頃、私はイジメられていた。 


 アビリティリングが開発されてから、子供の序列はバトルの強さで決められた。 

 当時、まだリングを買ったばかりで、能力を上手く扱えてなかった私は、バトルの強い子にイジメられていた。 私は悲しくて、泣いた。 


 悲しみに沈む私を癒してくれるのは、絵を描いている時だった。 

 私は絵を描くのが好きだった。『妄想創造』のリングを選んだのも、絵が実体化するという売り文句に惹かれたからだ。 

 私は描いた絵を異空間フィールド内で実体化させるのが好きだった。色とりどりの花畑、素敵な妖精さん、可愛い魔女さん。とにかく実体化させた。能力を使って異空間フィールドをメルヘンな世界に変えた。 


 でも異空間フィールドはバトルのための場。 

 子供の私が作った妖精も魔法使いも、全部強いイジメっ子に倒されてしまった。 


 私はまた泣いた。悔しくて悔しくて、泣いた。家に帰っても泣き続けた。 

 泣きながら、私は画用紙を広げて描いた。強い人を、イジメっ子から私を守ってくれる勇者を描いた。

 ナイトが使う武器も書いた。カッコいい炎の剣、どんなものでも吸い込んで吐き出す大砲、空を飛べる天使の翼などなど。 


 描き終えた私は、勇者に名前を付けた。


「あなたのなまえは、ユウ。わたしをまもってくれるゆうしゃさん。ゆうしゃだからユウ」 


 その時だった。 


 私のリングが光り輝いたのだ。この時にアビリティリングのリミッターが解除されたのだと、今は思う 

 そしてナイトが実体化した。


「……俺は、ユウ。やつで、お前を守ってみせる」 


 こうして、不動ユウは生まれた。  






 私は白紙の画用紙を見つめる。この画用紙は、ユウが描かれていた画用紙。ユウはこの画用紙から飛び出し、私の前に現れた。 

 言ってしまえば、この画用紙は、ユウの本体だ。この紙が無事な限り、ユウは生きている。逆に言えば、この紙を破棄すれば、ユウは消滅する。 


 異空間フィールドは、使用者が死ぬか気絶するか、どちらかの現象が起こるまで消滅することはない。 

 ユウはきっと気絶せずに、異空間フィールドで生き続けることを選ぶだろう。 


 私は悩んだ。ユウはこれから一生、一兆人の敵と共に生き続けることになる。 


 この紙を破れば、ユウを苦しみから解放してあげることができる。 

 私はそう思い、紙を破こうとした。 


 でも、できなかった。 


 もし異空間フィールド内でユウが死ねば、ルールに従って、一兆人のエンダーを乗せた巨大要塞が再び、この世に現れてしまう。 


 そうなったら、ユウのしたことが全て無駄になってしまう。 

 ユウが苦しんでいるというのに、生みの親である私はどうすることもできない。 

 私は自分の無力さに涙した。

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