皆の望み
「……ゴホっ、ゴホっ」
突然、空くんのお母さんがせき込みだした。
「だ、大丈夫ですか!?」
「ええ、ゴボ、大丈、夫。すぐに収まりますからっ、ゴホ」
大丈夫と彼女は言うが、どう見ても大丈夫には見えない。むしろ席が悪化しているように思える。
「おーい、凩! 売店でメロン買ってきたぞ! これ喰って、元気……!?」
「……!! お母さん!!」
車田くんと空くん、二人が戻って来た。
母親の異常な状態を見た空くんが、売店の袋を持った車田くんを押しのけて、病室に入ってくる。
「お母さん! お母さん!」「やつでさん、ナースコールを!!」
氷華ちゃんに言われるがままに、私はナールコールのスイッチを押した。
しばらくして看護師さんとお医者さんがやって来て、ストレッチャーに乗せてママさんを手術室へ連れて行った。
手術室の前で、私達四人は治療が上手くいくように祈る。
「空くん。お母さん、どこか悪いの?」
私は空くんに尋ねた。
「……名前は難しくて分からないけど、働きすぎが原因の病気。……治すには、たくさんお金がかかるらしい」
ママさんは親戚から借りたお金を返すために、かなりの無理をしたらしい。そのせいで病気になったという。
お金がかかる。その言葉で、私はピンっときた。
「もしかして、空くんがNEXに出場したのって、お母さんの治療費を稼ぐため?」
空くんは頷いた。
私は、凄いと思った。こんな小さな子が母親の病気を治すために、戦っているなんて。
「空くんは偉いね。ちゃんとお母さんを守っていて」
「……お父さんはもういないから、僕がお母さんを守らないと」
寡黙少年暗い目の向こうに、決意の色が見えた。
「誰かのために、何かをする。素敵なことですわね」
氷華ちゃんが空くんの頭を撫でる。
「実は、わたくしにも両親がいません。わたくしは小さい頃から孤児院で暮らしていました。……唐突とは分かっていますが、仲間である皆さんには聞いてほしいのです」
氷華ちゃんが改まったように話し始める。
「孤児院には私より小さな弟や妹が大勢います。でもお金が足りなくて、現在の経営はとても不安定なものです。もし閉園などという結果になれば、子供達全員が路頭に迷うことになってしまう。そんな時です、DCからNEXの開催が発表されたのは」
氷華ちゃんはNEXで優勝し、賞金で孤児院の経営を立て直そうと試みていたらしい。その目標は、エンダーとの戦いに発展しても変わらないようだ。
「常盤空くん」
膝を曲げて氷華ちゃんは、空くんと同じくらいの目線の高さになる。
「方向は違えど、私とあなたは崇高な目的を持つ者、同志です。共にエンダーを殲滅し、夢を叶えましょう」
そう言って氷華ちゃんは空くんに手を差し伸べる。彼女は握手を求めているのだ。
「……」
空くんは静かに、氷華ちゃんの握手に応じた。相変わらずの無言だったが、がっちりと閉まった状態だった彼の心が、少しだけ開いた気がした
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます