一難去ってまた一難

「……大丈夫か、やつで!」 


 ユウは再び湖の底に降りてきて、私の方に駆け寄る。


「だ、大丈夫」 


 まだちょっとだけ身体が痺れるけど、吸収解砲で周りの毒を除去してくれたおかげで、だいぶ楽になった。


「できれば、私達の心配もしてほしいですわね」

「……」 


 氷華ちゃんと空くんがフラフラした足取りで、私達二人のもとに歩いてくる。 

 車田くんはといえば……。


「ガーガー!」 


 のん気にいびきをかきながら眠っていた。毒を吸いこんだことにも気づいていないのだろうか。


「私達、勝ったんだね……!」 


 私は身体を伸ばし、空を仰いだ。空が青い。太陽がまぶしい。良い天気……。 


 ……!!


「ねえ、見て!」 


 私は太陽の出ている方を指差す。 

 そこには、太陽の隣には赤い点が、隕石があった。


「何で!? エンダーは倒したはずなのに!!」

「どうやら、エンダーを倒しても隕石は消えないらしいな」  


 そんな……。 

 ユウの言う通りだとしたらまずい。 

 何とかして、この島を脱出しないと。 


 でも、身体の痺れている私達が島を脱出するには時間がかかる。それに船に連絡してここまで来てもらうのにも時間を要する。


「そうだ、空くん! 空くんのどこでもドアで脱出すれば……!」

「……無理」 


 私の提案は、寡黙少年のその一言で却下された。


「……僕の能力は、僕以外の人間を転送することはできない。皆を運ぶことはできない」

「隕石本体を転送することは?」 


 そうだ、どこでもドアで隕石を跳ね返せば……。 


 でも、空くんは首を横に振った。


「……隕石は大きすぎるから転送できない」

「万事休すですわね」 


 私は頭をフル回転させて、何か方法を考えてみる。何とか助かる方法を。 


 でも私の頭は答えを導いてくれなかった。 


 私が頭を抱えていると、ユウがポケットから何かを取り出した。スマホだ。 

 ユウはスマホを操作して、どこかに電話を掛ける。


「ああ、俺だ。……エンダーは倒した。大至急迎えに来てくれ。全員、毒を受けて満足に動けない。島の中央、湖のある場所だ」 


 スマホから小さく『分かった』と聞こえた。内容から察するに、ディーノさんに救助要請をしたのだろう。 

 でもダメだ。船が迎えにここに来るまでにきっと隕石は島に激突する。時間が足りない。


「まだ手はある」 


 そう言って、ユウはまたポケットから何かを取り出した。今度は紙切れだ。ただの紙切れではない。それには私が描いたある絵が描いてある。


「来い、『天使の加護』」 


 ユウは紙に書かれた絵を実体化させる。 

 天使の加護。天使の羽をイメージした装備品だ。これには攻撃機能はない。でも背中に装着することで、自由に空を飛ぶことができる。 

 ユウは天使の加護を背中に装備する。


「ちょ、ユウまさか!!」

「空中で破壊する」 


 そう言って、ユウは空へ向かって飛んだ。 


 ユウの姿がどんどん小さく見える。 


 やがてユウの陰と隕石の陰が重なり、しばらくすると赤い点は消えた。

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