6分と一瞬

「要は、あのマグマに吸収されなければいい。相手に吸収できないくらいの強力な技を放てば、勝てる」


 ユウが腕を組みながら話す。


「火炎砲……車田が俺との実践特訓の中で使った技だ。やつでもあの場にいたのなら、見ていたのだろう」


 私は思い出す。あれだ、漫画好きの車田くんが、ドラゴンボールの元気玉をモチーフに編み出した技だ。


「あの技は、熱エネルギーを溜め、相手に放つ技だ。俺の時は直径十メートルだったが、あれ以上のエネルギーを溜めればいい」

「それだよ! あの凄い技ならきっとマグマも吸収できないよ!」 


 私は喜ぶ。希望が見えた、車田くんが勝てる希望が。 


 だがユウは私の心境をよそに、首を横に振った。


「問題は、あの技はチャージに時間がかかるということだ」 


 私は「あっ……」と間抜けな声を出してしまう。


「俺と戦った時は三分を要した。仮にあの時の倍の火炎砲を作るなら、単純計算で六分かかることになる。六分なんて長い時間、あのエンダーが何もしないとは俺は思えないな」

「そんな……」 


 私はうなだれる。


「ボウズ、これで終いじゃ」 


 敵エンダーが再びマグマの波を発生させ、車田くんに向かって攻撃する。


「逃げて車田くん!」 


 私は喉の奥から声を張り上げた。 


 だが車田くんは逃げなかった。 

 それどころか、何を考えているのか、マグマに向かって突進し始めた。 

 右手の燃える拳を振り上げながら、車田くんは走る。どうやらマグマを殴るらしい。無茶だ。そんな火力じゃ、マグマに吸収されるのがオチだ。


「血迷ったかボウズ……」

「うぉおおおおおおおお!!」 


 車田くんの拳と、溶岩の波が衝突する。 


 その時だった。 さきほどまで赤く燃えていたマグマが、黒い岩に変貌し、その動きが止まった。


「よっっっしゃっぁあああああ!」 


 車田くんが喜びの叫びを上げる。


「な、なんじゃと!?」 


 エンダーは驚きを隠せなかった。当然だろう。溶岩が、主である自分の意に反して、突然変化したのだから。


「これは一体……」

「どういうことですの……?」  


 そして、ユウと氷華ちゃんも驚愕していた。もちろん私もだ。


「!! ねえ、あそこ見て!!」 


 私は、マグマだった岩のある個所を指し示す。よく見ると、その岩の表面にキラキラ光る何かが付着していた。


「あれは……間違いありません、氷ですわ!!」 


 水使い……じゃなかったH2O使いの氷華ちゃんが言うのだから、本当に氷なのだろう。 


 でもどういうことだろう。どうして、マグマだった岩の表面に氷が?


「ボウズぅ! わしのマグマに何を――」 


 その時だった。 

 車田くんが両手を天に掲げる。あれは元気玉の構えだ。 


 ダメだ車田くん、その技は発射までに時間がかかる。 

 私はそう思った。 


 だけど、実際は違った。 

 彼の両手の先に、巨大な炎の球体が発生した。その大きさ、直径三十メートル。 

 一瞬だった。その球体が発生するのに、一秒もかからなかった。


「喰らえ、超火炎砲!!」 


 巨大な火の玉を車田くんは敵に向かって投げつけた。


「くっ……火山浪!!」 


 敵エンダーも溶岩で対抗する。 


 だがさきほどとは打って変わり、炎はマグマに吸収されなかった。 

 それどころか、車田くんの炎の方がマグマのエネルギーを吸収し、威力を増していた。 

 球はエンダーに直撃し、火柱となって燃え上がった。 


 しばらくして炎が消える。そこにエンダーの姿は無かった。


「はぁはぁ、どうだ! オレの勝ちだこのやろー!!」 


 熱血少年が自身の勝利を宣言する。 


 その一声で全ての力を使い切ったのか、車田くんはその場に仰向けに倒れた。

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