二人は演技派

 氷華ちゃんはスカートを翻しながら、私達の所へ戻ってきた。 

 私は彼女に抱き着く。


「おめでとう氷華ちゃん!」

「ふふ、ありがとうございます、やつでさん」

「賭けだったな」 


 ユウが氷華ちゃんに話しかける。


「NEXの時にも水蒸気を発生させ、車田を気絶させたようだが……もしエンダーが酸素を必要としない種族だったら、どうするつもりだったんだ?」

「ご安心を。その時は、熱々の熱湯で攻撃するつもりでしたから」 


 氷華ちゃんがニコリと笑う。 

 私は預かっていた麦わら帽子を返した。


「熱湯、か。そういえば熱湯もH2Oだったな。……最初に見た時から思っていたが、やはりお前は只者ではないな」

「ふふ、お褒めの言葉として受け取っておきますわ」


「三回戦を始めましょう! 戦士はフィールドに!」 


 エンダーがこちらに大声で話しかけてくる。声から苛立ちが感じられた。相手も焦っているのだろう。

 二戦中二勝、次も勝てば私達の勝利だ。


「よし! 次はオレに任せろ!! ここで勝ってゲームセットにしてやる!!」

「車田か……」

「なんだよユウ、また何か文句あるのか!」

「いや、文句というほどではないのだが……」

「なんですの?」 


 ユウは少し間をおいて、答えた。


「もし車田が負けたら、声のでかい奴がいなくなるから、敵との会話が不便になるなと思っただけだ」

「オレはスピーカーかよ! つーか負けるの前提!?」

「ああ、確かにそれは不便ですわね。車田くん、ここはユウさんに譲った方がよろしいのでは」

「吹雪までオレをスピーカー扱いかよ!! てか、俺は負けねえ!」

「相変わらず暑苦しいお方ですわね。こっちまで暑くなるどころか、逆に体温を奪われて、冷静になってしまいそうですわ」

「なんだと!」 


 車田くんがギャーギャー騒ぐ。私は心底どうでも良かったけど、どーどーと車田くんを宥める。


「くそ見てろよ! 絶対勝って、お前らの鼻を明かしてやるからな!!」 


 プンスカ怒りながら、車田くんはバトル場へと向かった。


「……作戦、成功ですわね」

「ああ」 


 え、作戦?


「車田の能力は炎だ。そしてその源は、あいつの気迫にある」

「わざと車田くんを怒らせて、発破をかけたというわけですわ」 


 なるほど。というかいつの間にそんな作戦を立てたのだろう。私も誘ってくれれば良かったのに。


「やつでは演技下手だから、今回は除外させてもらった」

「……私が火系の能力者なら、今頃ユウは炎の中だよ」

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