第二一話 男の勘

「な、なんだっ!」

 耳を劈くけたたましいアラートにソウヤはベッドから飛び起きる。

 すぐさまコンソール前に立てばブリッジとの通信を繋いだ。

「何だよ、このアラート!」

『現在、解析中です!』

『あの光ってまさか!』

 ソウヤは備え付けのコンソールを叩きつけるように操作し〈シートン〉の外部カメラを呼び出した。

 聞くよりも直に確かめた方が早いと判断したからだ。

「光の、柱……?」

 天へと昇る光の柱。熱量と光量、そして太さですら桁違いな光は太平洋へと伸びている。

『荷電粒子反応を確認! ライブラリに該当データあり。これは〈フィンブル〉の大口径超集束荷電粒子砲、フィンブル・ノヴァです!』

「嘘だろう……」

 データから化け物染みた兵器かと思えば、化け物程度で済まされない兵器だった。

『発射地点はDT研究所。着弾予測地点は……わ、ワシントン、そ、総司令部跡地です!』

『なんですって!』

 ソウヤは震える指をどうにか走らせ世界地図を呼び出した。

〈フィンブル〉の現在地がDT研究所だとしても、太平洋を越えたアメリカ大陸に超長距離砲撃を行っている。

 真空の宇宙空間ならともかく大気圏内で撃ち出された荷電粒子ビームは空気中に漂う塵や埃の抵抗を受け、威力や推進力を進むにつれて減衰される。

 水中で拳銃を発砲するのと類似したメカニズムだ。

 銃弾は撃鉄により銃口から飛び出そうと、瞬く間に水の抵抗を大きく受けて失速する。

 一メートルも飛びはしない。

 だから、大気圏内でビーム兵器による超長距離攻撃を行うのならば、素直に弾道ミサイルを放った方がエネルギー消費量といい金銭コストといい効率的であり確実なのだ。

 もっともそれは常識的に考えた場合。

 あの〈フィンブル〉なる非常識な兵器に兵器の常識は一切通用しない。

 三〇秒以上のエネルギー放出量を持ち、荷電粒子ビームを拡散飛散させることなく、単純計算で約一〇九二〇キロメートル先にあるターゲットを狙い撃ったことになる。

『ハワイ沖上空で爆発を確認、次いで総司令部跡地に、め、命中しました……』

 愕然としたカグヤの声が響く。

 サクラですら呆然と消えつつある光の柱を眺めるだけであり、ソウヤもまたあの光に意識を呑みこまれていた。

『……〈フィンブル〉の反応をDT研究所で確認。ですがたった今反応ロストしました』

「嘘でしょう。あれだけのものを撃った直後なら機体自体がかなりの熱量を帯びて周辺には電磁波が飛散しているはずよ。探知できないの?」

『出来ません。熱反応及び電磁波反応無し。原理は不明ですが完全にロストしています』

 冷静さを取り戻しつつあるカグヤは答えた。

「……あいつがDT研究所に居たってことは、戦争があったってことか?」

 ソウヤは不思議と冷静に判断ができていた。

〈フィンブル〉が現れる地に必ずや戦争あり。

 そのように考えれば、自ずと出現場所が予測できる。予測は出来るも今回のように非常識なほどの超長距離砲撃は予測できなかった。

 悪魔と呼ばれた機械の恐ろしさを今更ながら痛感する。

「サクラ、カグヤ。DT研究所に向かおう!」

『あんたね、あそこには〈フィンブル〉が潜んでいるかもしれないのよ!』

『サクラの意見に同意します。わたしの計算では遭遇率は九〇,七%。仮に遭遇しなくても長距離からの砲撃率は七〇,三八%。危険すぎます』

「だけど、あいつは戦争ある地に必ず現れる。つまりあの地で戦争があったんだ! 何かあるんだ、あの地に!」

『根拠は!』

「勘っ!」

 迷いも無くソウヤは断言したがサクラからは唖然とした表情しか返ってこなかった。

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