第一二話 ムカムカ! イライラ!
ムカムカ、ムカムカ! イライラ、イライラ!
未だ言語化出来ぬ感情がサクラの中で盛んにして鎮まりを見せず。
「あ~もう折角の気分が台無しよ!」
湯上り肌が時間と怒りにより台無しだ。
たかが男一人に裸を見られただけで――
たかが男一人にちっちゃいと言われただけで――
何故こうも感情が荒れ狂う。
サクラはインナーを着込みながら理解不能だと愚痴を吐き出し続けていた。
『気持ちは分かりますが度合いを考えて攻撃してください』
「黙れ元凶その一!」
涼しげに言うカグヤをサクラは殴りたい衝動に駆られた。
だが、カグヤのあの姿は立体映像であるため、殴る行為は無意味だ。
この母艦〈シートン〉内にあるAIユニット本体を叩けば別だが、どのような悪影響が出るか分からない。サクラ一人では〈シートン〉を動かすことができなかった。
仕返しとしてAIユニットに〈肉〉とペンで書いておこう。
太古の地球、それも日本では一時期、額に〈肉〉と書くことがイタズラで流行ったとか。
「それで、あいつは?」
『ソウヤさんですか? サクラの一撃が効いたのか、ぐっすりと眠っています』
モニター越しに映るソウヤは白目を剥き、床上に身体をだらしなく伸ばしていた。
数値と現状からして気絶であり、明らかに睡眠ではないが、アホな姿を見た途端、サクラの胸中に蠢くイライラとムカムカは鎮まりつつあった。
「……身体のほうはどうなの?」
『一通り検査はしましたが異常は見当たりません。ですが経過観測は継続中です』
「……そう」
短く受け答えしたサクラはコンソールデスクの前に座った。
タッチモニターを操作して世界地図を呼び出し。
現在地は二ホン列島のキュウシュー地方。かつてベップと呼ばれていた場所だ。
既にアフリカ大陸にある〈ドーム〉からニホン列島へと移動していた。
アフリカ大陸からニホン列島までの一週間、追っ手を警戒していたのだが呆気なく辿りつけてしまった。
警戒に警戒を重ねて迂回するだけなく、〈シートン〉の船体を不可視フィールドで包み込むステルス航行を行ったというのに拍子抜けである。
あの〈マザー〉が異物の侵入に気づかないはずがない。
ソウヤが〈ドーム〉から消えた時点で既に気づいているはずだ。
何かある、と思考するも確定材料がない以上、判断は厳しかった。
「まあともあれ」
襲撃がないのなら構わない。今のうちに目の前にある問題を片付けよう。
サクラはコンソールデスクから円冠状のデバイスを取り出せば、頭へと装着する。
コンソールデスクとデバイスの有線接続を確認。システム起動。背中をシートに預けたままゆっくりとまぶたを閉じた。
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