エピローグ

黒猫子猫

 油っぽい絵の具の匂い。ペインティングナイフに油壺。イーゼルに立て掛けられてるキャンバスは、ママの描きかけの絵。

 ママ用のアトリエには絵の道具が転がってる。お家のお部屋は綺麗だけれど、ここはパパもいじらないママの為の場所。私はよくそこに忍び込む。誰もそれを怒ったりしないから、絵を描くママの後ろ姿を床に座って見つめるの。

「百合絵?」

 私に気が付いたママが、振り返ってふんわり笑ってくれる。この瞬間が大好き。

「これ、この前パパとおでかけした公園?」

 集中してる時はお邪魔したらダメだから、ママが振り返ってくれた時にはすかさず話し掛ける。そうするとママは私に近付いて来て、絵の具だらけの体で抱き締めてくれるの。小学生になった私の事、ママはもう抱っこ出来ない。だけどぎゅってされるのも好き。

「そう。秋と百合絵と遊んだ公園」

「お砂場あそび、楽しかったね?」

 にっこり笑って、ママは頷く。

「これ百合絵でしょ? こっちはパパだね?」

 こくんて、ママは頷いた。ママの絵にたまに入れる私とパパ。それを見た時のパパって、すんごく嬉しそうな顔になるの。

 かたんて音がして、アトリエに誰かが来た。

「百合絵、ここにいたか」

 ママのパパ。私のおじいちゃん。おじいちゃんに駆け寄って、抱っこしてもらう。いつもより高くなって、これも好き。

「田所と千夏さんが探していたぞ」

 田所は透。パパのパパじゃないけど、おじいちゃん。千夏さんはパパのママ。私のおばあちゃん。だけど二人は名字が別々。なんでってパパに聞いたら結婚してないからだよって教えてくれた。大人は色々なのねってお返事した私をパパが抱っこして、とっても楽しそうに笑っていた。大きくなったんだねって言いながらいいこいいこもしてくれた。パパの抱っこと大きな手、大好き。

「ママも行こう?」

 おじいちゃんに抱っこされたままでママを誘ったら、ふんわり笑ってママが頷いた。おじいちゃんの腕から滑り降りて、私はママと手を繋ぐ。もう片方の手はおじいちゃんと繋いで、私達はアトリエから出た。

「百合絵さんはアトリエにいらしたんですか?」

 透がリビングのソファから振り向いておじいちゃんに聞いてる。そうだよって私がお返事して、ソファへ駆け寄った。

「百合絵ちゃん、おばあちゃんと遊びましょ」

 透のお隣で、にこにこ笑うおばあちゃん。パパとおんなじ笑顔で優しいの。いつもたくさん遊んでくれる。

「待て。もう飯出来る。百合絵、ママと一緒に手を洗ってこい。ママの絵の具も落としてくれるか?」

「はーい」

 台所から顔を出したパパ。パパのお仕事はメイクアップアーティスト。お休みの日には、パパが美味しいご飯を作ってくれる。パパがいない時のご飯はおばあちゃんが作りに来てくれるの。おばあちゃんのご飯も好きだけど、ママも私もパパのご飯が一番好き。

 ママの手を引いて、洗面所で手を洗う。濡らしたタオルでママのお顔の絵の具を落とすのは、私のお仕事。にこにこ笑って、ママはじっとしてる。終わるとおでこにありがとうって、ちゅってしてくれるのが好き。

「パパ! 今日はグラタン?」

 パパのグラタン大好き! 駆け寄って両手を伸ばしたらパパが抱っこしてくれて、顔中ちゅっちゅされる。くすぐったいけどこれも好き。

「華、お腹空いた?」

「空いた」

 ママも来て、パパは私を抱っこしてるのと逆の手でママをぎゅってする。それでママにもちゅっちゅっちゅってする。たくさんする。私よりも多い。

 まったくもう! 子供の前でもらぶらぶなんだからって、呆れちゃうわ。ママはパパといる時、とっても嬉しそう。ママの嬉しいお顔、私も大好き。

 チリンて、足下で鈴の音。黒いにゃんこのイチゴちゃんは私のお姉さん。パパからママへのお誕生日のプレゼント。パパとママの足にスリスリして、パパに降ろしてもらった私の足にもスリスリしてくる。

「イチゴちゃん。手を洗ったから、ご飯終わるまで待ってね。ご飯の後にあそんであげる」

 イチゴちゃんとお約束して、私はご飯が並んだテーブルへ向かう。ママはまだ、パパに捕まって来られないみたい。パパはママが大好き。たまに、絵を描いてないママを私と取り合いっこする。だけど私は大人だから、パパにママを譲ってあげるの。

「まったく。秋くんは子供の前でも相変わらずですね」

 溜息を吐く透。もっと言ってあげてちょうだい。

「ラブラブ良いじゃない! 百合絵ちゃんも、仲良しは嬉しいでしょう?」

「そうだね。らぶらぶ好き」

 おばあちゃんにお返事して、私はおじいちゃんに抱っこで椅子に乗せてもらう。もう一年生だから自分で座れるのに、おじいちゃんは私を抱っこするのが好きみたい。

「百合絵、ふーふーして食べるんだぞ」

「うん! いただきます!」

 にこにこ笑うおじいちゃんに頷いて、私はパパの作ったグラタンを食べる。ママとパパはああなるとしばらく来ないから、先に食べちゃうんだから。


 美味しいご飯を作るパパ。絵を描く大好きなママ。おばあちゃんと二人のおじいちゃん。それと、黒猫のイチゴちゃん。お休みの日に集まる私の家族は、みんなにこにこ幸せ笑顔。

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絵を描く黒猫 よろず @yorozu_462

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