22 四週目 水曜日

   水


「華、好き。大好き」

 腕の中には、真っ赤な顔で瞳をうるうるさせながらオレを見上げてくる珍しい反応の華。

 オレが笑顔で華を抱き締めてるのはテスト最終日、朝の教室華の席。

「秋。幸せアピール、クラスの奴らもオレもお腹いっぱい」

 祐介が隣でそんな事言ってるけどシカトだ。

 昨日あの後、華は電池が切れたみたいに寝た。絵を描くのって疲れるみたいだ。だからオレは華を腕に抱いて寝顔を堪能してたんだけど、いつの間にかオレも寝てた。気付いたら朝で、華を先に風呂行かせてオレも風呂借りて、二人でリンゴかじってから学校に来た。

 幸せが溢れて漏れ出して、笑顔が止まらない。華の可愛い反応もそれを助長させている。これでもかってくらいに見せびらかして、華はオレのもんだアピール大会開催中。誰も華に手を出そうなんて思わなくなれば良い。男も、女も。

「華、今日はうち来る?」

 華はちょっと迷ってる。

「今日も絵、描く?」

 首が縦に動いた。

「ならさ、うちで飯食って、それから華のうちじゃダメ? 華の好きな物作ってあげる」

 華はまたこくんて頷く。

「何食いたい?」

「ネコのオムライス」

「わかった! テスト頑張ったらウサギリンゴも付けるね!」

 教師が入って来たから、華のおでこにちゅってしてから自分の席に行く。祐介がげんなりした顔でオレを見てたけど、シカトだ。


「華! テスト頑張った?」

 帰りのホームルームが終わって、オレは鞄を持って華に駆け寄った。華が頷いたのを見たオレは、蕩けそうに笑って華のおでこにキスをする。

「帰ったらウサギリンゴ食おう」

 華がふわり笑って、こくんと一つ頷いた。

「秋。オレ、詳しく聞きたい」

「今度な」

 横槍入れてきた祐介には低い声で返しておいた。

 手は繋ぐだけじゃなくて指を絡めて、満面の笑みで華の隣を歩く。なんとなく華も嬉しそうで、オレはそれが嬉しくて更に笑顔が蕩け出した。

「華、華、華」

 満開の笑顔で華の顔を覗き込む。華は首傾げてオレをまっすぐ見る。

「可愛い。大好き!」

 華が浮かべるのは嬉しそうな照れ笑い。なんていう可愛いさだって、オレは内心で身悶える。いや、多分それも表情に漏れ出てると思う。

「秋。可愛い」

「オレって可愛い?」

 聞き返したら華は頷いた。

「可愛い」

 ふんわり笑う華が可愛すぎて好きすぎて、足を止めてぎゅーっと抱き締める。

「華の方が可愛い! 可愛すぎてオレ溶けそう!」

 アイスみたいにどろどろに溶け出しそうな気分。むしろアイスになって華に食われたい。

「溶けるの?」

 びっくり顔の華。オレのバカな言葉、信じてるみたいだ。

「溶ける。アイスみたいに溶けるかも」

 溶け始めの顔のまま、元に戻らないオレ。

「溶けたら困る」

 華がマジな顔で言うもんだから、オレはぶはっと笑う。

「溶けたら舐めて?」

 見上げてくる華に顔近付けて、ペロっとイチゴ味の唇を舐めた。バカップル万歳! って叫び出しそうな気分で、びっくりした後に赤くなった華の手を引いて歩き出す。秋だけど、むしろもうすぐ冬だけど、オレ的には春満開。桜も咲き乱れてる。

 うちに着いたら、冷凍ご飯でオムライスを三つ作った。母親が夜食べられるように一つはラップをかけておく。あとは、華の家で食べられるようにサンドイッチを作ってタッパーに詰める。オレが動き回るのを華が体育座りでじっと見上げていて、目が合うと嬉しそうに笑ってくれた。なんだかもう、オレの脳内ピンク色。華のはオレが猫、オレのは華がウサギを描いてくれたオムライス食って、制服から私服に着替えてサンドイッチを持ち華の家へ向かった。

「それ、動かすの?」

 華の家に着いてすぐ、着替えた華が昨日描いた絵を動かそうとしてる。重そうだし、オレが持ち上げた。

「どこ置く?」

「そこの壁」

 華が指差した壁際に立て掛けて、近くに新しい真っ白なのがあったから必要かなと思って聞いてみる。

「いる」

 華の答えを聞いて、夜空と夜景の絵があった場所に新しいキャンバスを立て掛けた。

「これ、布なんだね」

 華はこくんて頷く。華が絵を描き始めたら邪魔出来ないから、抱き寄せて華の匂いと柔らかさを堪能。

「くすぐったい」

 耳元に鼻を寄せたら華がくすくす笑って身を捩る。逃げようとするのを追いかけて、華の白い首をかぷりと噛む。びくっと震えて動きが止まった体をやんわり抱き締めて、オレは噛んだ場所に音を立ててキスした。

「お腹空いたの?」

 痛くはしてないから、華はきょとんとしてオレを見てる。不思議そうにしてる華の顔を、オレは目だけで見上げた。

「空いた。華食いたい」

 蕩けそうに笑って、華の唇をぺろりと舐める。どろどろに溶けるアイスになって、華の口に入って華の一部になりたい。

 髪に手を差し込んで、まっすぐ見つめてくる華の瞳を見返しながら、長く長く、唇押し付ける。

 どうしたらオレの気持ちは止まるんだろう。どんどん華を好きになってく自分が止まらない。

 最後にまた舌先で唇を舐めてから華を解放。華の瞳に映ったオレはとろとろに蕩けた瞳をしてて、オレを見上げる華も瞳が蕩けてる。そんな顔されたら堪らない。我慢出来ない。でも、我慢。

「華、絵、描く?」

 促してみたら華は真っ赤な顔で頷いてオレから離れた。ずっとくっついて溶け合ってしまいたいけど、絵を描く華も好き。

 壁に背中預けて座って、華の後ろ姿を眺める。オレは、華をいくら見てても飽きないんだ。

 暗くなり始めた頃に電気を付けた。華はすごく集中してるのか、それにすら気付いてない。トサって音で眠ってた事に気付いて、目を開けた先では華が丸くなって眠ってる。

 眠る華の向こう側。絵が、また完成してた。

 今度のは電車の窓からの風景。流れる景色から、ウキウキやわくわくしてる雰囲気が漂ってきてる。人が描かれてる訳じゃないのに、華の絵は華の考えが伝わってくる。オレと、母親と、華。三人で買い物に行く時に見た景色だ。

 絵の前に丸くなって眠る華に近寄って髪を撫でる。すやすや、電池が切れたみたいに寝てる華の姿に笑みが零れた。オレはタオルをお湯で濡らして、華の顔や手に付いた絵の具を拭う。キレイになった華を側に落ちてた毛布で包んで、使われた事のないだろうベッドへ運んだ。ベッドは、先週勉強に来た時いつでも使えるようシーツを替えておいたんだ。起きる様子のない華を横たえて、オレも隣に潜り込む。眠る華を腕に抱いてすべすべのほっぺにキスしたら、華が猫みたいに擦り寄ってきた。そうして柔らかい華の温もりを感じながらオレも、目を閉じた。

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