12 二週目 日曜日
日
頑張って働いて、昨日と同じく休憩室のレンジで温めたタッパーを持って華の家へ急ぐ。今日はグラタン。冷めない内に食わせたい。
馴染みつつある無言開錠。眠たそうな華に招かれ部屋に入ると、あの絵がなかった。消しゴムで綺麗に消したみたいに真っ白に戻っている。
「華、昨日の絵は?」
既に座って餌待ち状態の華に聞くと首を傾げてる。
「木と空の絵、どこ行っちゃったの?」
あんな大きい物が消える訳ない。でも部屋の中には見当たらなかった。
「持って行った」
「誰が?」
「持って行く人」
謎掛けみたいだ。グラタンがこれ以上冷めても困るから、待ってる華の前に座る。
「これは冷凍食品です」
華にじっと見られながら毎回の暗示。やっぱり華はグラタンが好きみたいで、持って来た分をほとんど食べた。苦しそうにお腹をさすりながらのごちそうさまでしたが可愛い。残りは華がオレに食べさせてくれて、食事が終わった。
さて掃除だって、立ち上がり気付いた。台所に高そうな弁当がある。
「華、これは食べないの?」
華は頷く。
「秋の方が美味しい」
なんだよ、それ。嬉しすぎて、かぁーっと顔が熱くなった。高級そうな店の弁当よりオレが作った飯の方がうまいとか、最高の褒め言葉。
「で、でもこれ、食べたくて買ったんじゃねぇの?」
「持って来た」
「誰が?」
「持って行く人」
一瞬父親かと思ったけど、違うみたいだ。謎掛けみたいな華の言葉を、眉間に皺寄せて考える。考えながら見回した台所は、リンゴの箱が新しくなっていて冷蔵庫の中のバナナと食パンも新しくなり増えていた。
「ねぇ華。持って行く人って、誰?」
体育座りでオレの動きを目で追っていた華の側へ戻って、オレも床に座る。華は首を傾けてオレを見てる。
「親戚の人?」
華は首を横に振る。
「家政婦さんとか?」
また首を横に振る。
「パパの会社の人」
海外にいる父親の会社の人がたまに来て世話をしてくれてるのかな? でも、部屋が酷い状態だったのを無視してたのはどうしてだろう。
「よく来るの?」
「持って行く時だけ」
「リンゴとかバナナはその人が買って持って来るの?」
「持って行く時だけ」
「持って行かない時は?」
「運ばれて来る」
世話をしてくれてる訳ではない事はわかった。パパは海外、ママはお空。華が描いた絵をパパの会社の人が持って行く。その時にご飯を持って来るけど、しょっちゅうじゃない。だからやっぱり、華の生活の世話をする人は近くにいないのか。なんとか頭の中を整理しながら、掃除機で埃の撲滅。華は何故か体育座りのままでオレをじっと観察してた。
玄関の埃撲滅を終えたオレが戻ると華は体育座りしてた場所で丸くなり眠ってた。華の前世は猫だったんじゃねぇかなんて考えながら、眠る華の側へ胡座で座る。寝顔見てたらオレも眠くなってきた。バイトの後に連日大掃除は、さすがに疲れたな。少しだけって思って、眠る華の近くに身体を横たえ目を閉じた。
「体いてぇ……」
固い床で寝たもんだから、目が覚めたら体が軋んだ。横になったまま体を伸ばして目を開ける。
「華?」
真っ暗な部屋の中に、華がいなかった。体を起こして床に座った状態で見回してみると、カーテンが揺れているのに気が付いた。立ち上がり窓の側へ歩み寄る。カーテンを潜って開いてた窓から外を覗くと体育座りした華が空を見上げてた。オレが顔を出してもそのまま空を見てるから、ベランダから見える景色を一緒に眺めてみる事にする。結構良い景色。ちょっとした夜景が綺麗だ。空も、雲がないお陰で微かに輝く星が見える。
「どうした?」
景色を堪能してから振り向くと、華がこっちをまっすぐに見ててびっくりした。
「秋」
「なに?」
「秋は、変」
華がしみじみ言うもんだから思わずぶはって笑って、オレはそっかって返す。喉の奥でくつくつ笑うオレを、華は相変わらず猫みたいにじっと見てた。
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