第79話 回収の騎士達

 彼等は、日も高くなった頃に現れた。


「こちらがライズ=テイマー卿のお屋敷でしょうか?」


 華美な装飾を刻み込まれた鎧を着込んだ騎士達がライズの事務所へと入ってきた。

 当然受付室にいた客達は何事かと騎士達を見る。


「ライズ様に御用ですか?」


 しかし受付のラミアは慌てず騒がず冷静に対処する。


(この装飾は実戦で戦う騎士のものではありませんね。となると近衛騎士でしょうか? ですがライズ様に近衛騎士がなんの御用でしょう? もしかして何かトラブルが?)


 ラミアは長い尻尾を伸ばし、騎士達から見えない受付の裏側で業務をしていたドライアドのスカートに危険を知らせる合図を送る。

 ドライアドもまた、脚から見えないようにスカートから伸ばした蔦でラミアの尻尾に承知したと返事を返す。


「我々は王都の神殿から来ました大地母神様に仕える聖騎士隊の者です。ミティック様よりの要請を受け、ライズ様が預かっている品を受け取りに参りました」


 聖騎士と聞いて、ラミアは彼等が悪魔の力を封じた術宝を回収に来た神殿関係者だと理解する。


「神殿の方でしたか。ではライズ様をお呼び致しますので、応接室でお待ちくださいませ」


「承知した」


 ◇


「やぁやぁ、ようこそおいでくださいました王都の聖騎士殿達」


 聖騎士達が待っている応接室にライズが入ると、聖騎士達は椅子から立ち上がりライズに一礼をしてくる。


「始めましてテイマー卿、私は大地母神様に使える聖騎士隊にて隊長を勤めておりますジンラと申します」


  ジンラと名乗った聖騎士が頭を下げると、部下の聖騎士達もまた名を名乗り頭を下げてくる。


「いやいや、俺はあくまで一代限りのにわか貴族ですよ。卿付けで呼ばれるような大した人間じゃありませんて」


(実際、この貴族の位も褒美をケチる為の方便だしな)


 平民が貴族位を与えられる情況というのは、基本大きな活躍を行った者に対する褒美の代名詞として扱われる。

 しかしその実態は、適切な褒美を与えるには活躍が大きすぎたりして相応しい褒美を与える事が出来ない状況での民の不満対策であった。


 たとえば小国で国家を救うほどの大偉業を一兵士が成し遂げても、その褒美となると大金や財宝を支払う事になる。

 だが戦時中の小国にそんな余裕は無い。


 御伽噺ならお姫様と結婚して末永く幸せに暮らすところだが、政略結婚の材料である姫を平民如きにくれてやる理由も無い。

 かといって出世をさせようにも階級を1つ2つ上げる程度ならともかく、大出世となったらそれに相応しい教養が必要になる。

 知識が無い者に部下を指揮する事など出来ないのだから。


 そうした問題を上手くやり過ごす為、英雄には貴族の位が与えられるのだ。

 だが領地持ちでもなければ、代々続く法衣貴族ですらない名称ばかりの貴族なので、年金も微々たるものである。


「何をおっしゃいます。戦時中のライズ殿の活躍は我々の耳にも入っております。隣国の魔法使い達が行っていた悪魔召還の実験施設を襲撃し、幾体もの悪魔の使徒をなぎ払い、遂には本物の悪魔すら打ち果たしたと言うではないですか!」


「まぁ、ドラゴンがですけどね」


 ライズは苦笑しながらジンラの言葉を訂正する。

 ドラゴンは最強の生物である。

 その自負が種族全体にある為、異界より来る支配者悪魔の存在を強く拒絶した。

 いわく、この世界で一番強いのは我々だと。


(そんな訳でドラゴンが張り切って悪魔関連の施設を叩いて回ったんだよなぁ)


「そして今回新たに悪魔の使徒を二体退治し、邪悪な悪魔の力が封印された術宝を手に入れられたとお聞きしております!」


 会話が本筋に戻ってきた事で、ライズはテーブルの上に一抱えもある箱を置く。


「これの事ですね」


 そう言って箱を開くライズ。


「おお、これが……」


 箱の中から現れたのは、見覚えのある宝石。

 悪魔の力を封じた術宝だ。


「素晴らしい。よくぞこれを回収されました」


 わなわなと震えるジンラにライズは呆れた様に笑う。


「ははは、これの兄弟が原因でリザードマン達が迷惑を被ったんですけどね」


 ジンラは姿勢を正すとライズに真剣なまなざしを向ける。


「ライズ=テイマー卿、我々聖騎士隊は責任を持ってこの術宝を王都まで運ぶ事をここに誓います。貴方のこれまでの活躍に経緯を評して」


 騎士団風の敬礼でライズに礼を示すジンラに、ライズもまた騎士団風の敬礼で返す。


「よろしくお願いします」


 ◇


「ふぅ、ようやく面倒なブツを処理できたよ」


 ジンラ達が帰った後、ライズは椅子にもたれかかって大きく息を吐いた。


「お疲れ様です」


 ラミアがライズをねぎらいつつ、お茶を差し出してくる。


「ああ、ありがと」


 お茶を受け取ったライズは、ジンラ達との面会の疲れを癒すように、お茶を飲み干す。


「さーって、仕事にもどろうかなっと」


 その時だった。

 応接室をノックする音が響く。


「どうぞー」


 入ってきたのは受付をしていた筈のドライアドだ。

 しかし、ドライアドは、歯切れの悪そうな様子でライズを見る。


「どうしたドライアド?」


「それが、またライズ様に面会のお客様が」


「今日は千客万来だな。今度は誰が来たんだ?」


「それが……」


 と、そこでドライアドの後ろから誰かが応接室に入ってくる。


「失礼、ライズ=テイマー殿ですね。わたくし、王都よりミティック様の命で封魔の術宝を受け取りに参ったジンラと申します」


 そこに現れたのは、先ほどまで応接室でライズと話をしていた聖騎士ジンラであった。

 

「はい?」

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