第73話 ゴーレムとの戦い

「じゃあ皆、頑張ってくれ」


「任せてもらおう!」


「ガウ!」


「シャー!」


 ライズの応援の言葉に、小柄な魔物達が不敵に吠える。

 彼らは地下に潜んでいたゴーレムを倒す為に選抜された戦闘型の魔物達だった。

 本来戦闘用の魔物は一部の例外を除いて、大型の方が強い。

 だがゴーレムが隠れ潜む地下への入り口は、その形状故にサイズ制限が生まれてしまった。

 その為地下に送り込める魔物の数が限定されてしまったのだ。

地下へと向かう魔物は影を自在に行き来できるブラックドッグ、それに火トカゲであるサラマンダー、最後にリザードマンのゼルドだった。


「無理だけはするなよー。ヤバイと思ったら即座に逃げて来い。駄目だったら別の作戦を考えるから」


「なんの心配ご無用。ゴーレム如き我々だけでなんとかして見せよう!」


 ゼルドが意気込んで隠し入り口から地下へと潜っていく。

 ついでブラッグドック、最後にサラマンダーが入っていった。


「ほんと、無茶するなよ」


 ◆


「遅いぞ」 


サラマンダーが最後に降りて来ると、先に降りていたゼルドが不満げに槍の石突きで床を叩く。


「主に仕える者として、迅速な対応をする事は従者の指名であろう!」


 しかしサラマンダーは知らん顔である。

 サラマンダーは魔物というよりも精霊に近い存在だ。

 その為人間型の生物の慣習などは彼らにとってどうでもよい行いであった。


「ええい、何だその態度は! 群れで生きる以上、群れのルールに従うのは当然だろう!」


 群れの生き物であるリザードマン、その長であるゼルドがサラマンダーの態度に怒りを見せる。

 もしかしたら同じ爬虫類系の魔物であることが彼に近親憎悪を感じさせているのかもしれない。


「ガウッ!」


 と、そこでブラックドッグが吠える。


「ぬ⁉」


「っ⁉」


 ブラックドッグの鳴き声にゼルドとサラマンダーが振りむくと、通路の奥から巨大な何かが重い足音を立てながら近づいてくる姿が見えた。


「む、来たか。この話はここまでだ。ここからは主殿の命に従って行動するぞ!」


「シャー!」


 サラマンダーが承知したとばかりに吠える。

 その間にも足音の主が近づいてくる。

 そしてサラマンダーが発する炎の灯りに照らされる事でその正体が明らかになる。


「これがゴーレムか」


ゼルドの驚きに応える様に、ゴーレムが両腕を真上に持ち上げて雄たけびの様な音を上げる。

「ゆくぞ!」


 まずゼルドがゴーレムに向かって突撃してゆく。

 最初に動いたのは剣と盾を持ったゴーレムだった。

 ゼルドの攻撃を大きな盾で受け止める。

 そして反撃とばかりに槍を振りかぶったところで、ゴーレムの顔面に火の玉が当たった。

サラマンダーの火炎球攻撃だ。

だが無機物で構成されたゴーレムにとってサラマンダーの攻撃は大した脅威足りえなかった。

ゴーレムをそれを理解したのか、サラマンダーを無視してゼルドに攻撃してゆく。

しかしサラマンダーは攻撃が通じない事など知った事かと、火炎玉をひたすらにゴーレム達に向かって放ってゆく。

だが通じない攻撃ではやはりゴーレムは止まらない。

後方に待機していた杖を持ったゴーレムがゼルドに向けた杖から魔法を放つ。

それはサラマンダーの火炎球の二倍はあろうかという大きな火炎球だった。


「うぉぉぉぉぉ!」


 ゼルドが慌てて回避する。

 あらかじめコボルトが不意打ち受けた情報が無ければゼルドもまた同じ様に攻撃を受けていた事だろう。

それほどまでに狭い地下通路内での回避は困難であった。

地下の狭い場所で味方のダメージを気にせずに行われる火炎攻撃。

それは死を知らないゴーレムだからこそ出来る無茶な戦いとも言えた。

 戦況は圧倒的に不利と言えた。

 戦うのはゼルドのみ、サラマンダーの攻撃は通用しない。

 相手は頑丈なうえに味方の被害を顧みない攻撃をしてくる。

 しかしだ、何かを忘れていないだろうか?


 そう、ゴーレム達は忘れていた。

 否、正しくは途中から近くできていなかった。


 突如杖を持ったゴーレムがのけ反る。


「ガオッ!」


 雄たけびと共に再びゴーレムが揺れると、彼らの後ろから現れた黒い影がその手に持った杖を奪い取る。

 そして黒い影がゼルドの横へと降り立った。


「うむ、見事な活躍だ!」


 ブラックドッグである。

 彼はサラマンダーがそこらじゅうに放った火炎球によってできたゴーレムの影を通り、ゴーレムの真後ろに出現したのだ。

 そして後ろから杖を奪い相手の後方支援能力を奪う。

 それが最小限の戦力でゴーレムを倒す為にライズが考案した影渡り作戦だった。

 武器を奪われたゴーレムは壊れた様に腕をブンブンと振るが襲い掛かってくる気配はない。


「どうやら主の言っていた単一機能型ゴーレムとやらの様だな」


 単一機能型ゴーレム、それは決められた動作だけを行うゴーレムだ。

 決められた行動しか出来ない為、開発コストは非常に安く済むが決められた行動が出来なくなると一気に役立たずとなってしまう事で有名なゴーレムであった。

 こうしたゴーレムは後方で魔法を発動する為だけが役割の支援役に多かった。

 ライズはこれまでの戦闘経験からこのゴーレムもそうした単一機能型ゴーレムではないかと推測したのだ。

 これもまたライズの軍隊時代の経験が生きた作戦と言えるだろう。


「よし! このまま一気に決めるぞ!」


 ゼルドがゴーレムに向かって槍を突き出す。

 しかし前衛のゴーレムは堅実に盾で受け剣で攻撃してくる。

 こちらの武器は奪おうにも重くて大きいのでブラックドッグにも奪うのは困難だった。

 それにもともと前線のゴーレムは激しい戦闘で武器を失う可能性が高いので、武器を奪ってもすぐに別の戦闘手段を考案する知恵を持っていた。

 だがそれもライズには想定済みである。

 再び影を通って後ろからブラックドッグがゴーレムの背後に遭われる。

 しかしここでブラックドッグはゴーレムを攻撃する事なく少し 離れて背後からゴーレムを観察した。

 そしてゼルドとの戦いで動き回る事を観察する事数分。

 突如ブラックドッグはゴーレムの背中に飛び乗った。


「ガウガウ!」


 何かを教える様に叫ぶブラックドッグ。

 ゴーレムが自分のしっぽを追いかける様にグルグルと回りながら背中に乗ったブラックドッグを引きずり降ろそうとする。

 しかしブラックドッグは器用にゴーレムの攻撃を回避する。

 そしてその間に暗がりから近づいたリザードマンがゴーレムの背中に飛び乗った。


「ガウ!」


 ブラックドッグが右前足でゴーレムの首根っこを叩く。


「そこかぁぁぁぁ!」


 ゼルドが振り落とされない様にゴーレムにしがみつきながら何度も槍を叩きつける様に首元を攻撃する。

 槍の穂先付近をもって槍ではなくまるでノミを叩きつけるかのような雑な攻撃だ。

 ゴーレムがブラックドッグからゼルドに注意を移す。

 しかしここでブラックドッグはゴーレムから降り、その固く太い爪でゴーレムを攻撃し始めた。

 そして再び自分に注意を向けさせる。

 ゴーレムが一瞬ブラックドッグかゼルドのどちらを攻撃しようか迷いを見せた。

 結果、その迷いが戦いの明暗を分けたのだった。


 次の瞬間、ゴーレムは意図が切れた操り人形の様に崩れ落ちる。


「よし! 上手くいったぞ!」


 ゴーレムに乗ったまま、ゼルドが勝利の雄たけびを上げる。

 その彼の手元、槍の穂先には、文字が書かれていた。

 そしてその文字のうちの一つは削り取られ、残っていた文字だけを読むと、そこには『死』という言葉が書かれていたのだった。

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