第67話 特訓の聖騎士達
「あんた、エディルさんじゃないか!」
「くぅ! 見つかってしまったか!」
ライズが驚いたとおり、荷物を運ぶ為に現れたのはかつて出会った聖騎士エディルであった。
「あら、よく見たら他の方々も……」
ラミアの
声に周囲を見回すと、他の荷物持ちの若者達も以前デクスシの町にやって来た聖騎士達ではないか。
「あ、どーもライズさん。お久しぶり……と言う程久しぶりではないですね」
ぺこりと頭を下げながらエディルの部下の副長が挨拶をしてくる。
「えーっと、なんで皆さんがここに?」
予想だにしなかった人物達との再開にライズは困惑する。
「いえね、前回ライズ殿に因縁を吹っかけた件で教会上層部が危機感を抱いちゃいましてね」
「お、おい! 余計な事を言うな!」
「悪魔を倒せなかった上にドラゴンに返り討ち。更には街中での横暴な態度が聖騎士に相応しくないとの苦情が教会に寄せられまして、これは一度身も心も鍛えなおすしかないとここに送り込まれたんです。つまるところ左遷ですね」
左遷の割にはあまり残念そうに見えない副長である。
「えーっと、左遷された割にはあんまり悔しそうには見えないんですが」
「私は心のそこから悔しいぞー!」
叫び声を上げるエディル。
「アンタはさっさと荷物を運びなさい!」
「は、はい!」
しかし大声をあげた事でタトミに目を付けられて叱られるエディル。
「まぁ傲慢だったのは実家の跡を継げなかった貴族の次男三男が多いからですねぇ。あとは平民ながら聖騎士になれた事に増長した連中ですか。聖騎士といっても、教会が認定した役職なんで、正規の騎士って訳じゃあないんですけどね」
どうやら副長の話を聞く限り、聖騎士隊には貴族の跡目にあぶれた貴族子弟が多いらしい。
「私の場合は教会内での発言力を増す為に送り込まれたんですが、まぁそのうち現れる悪魔を一体でも倒せば今回の失態はチャラに出来ますから、素直に修行をしますよ」
中々にドライな副長にライズは内心呆れる。
以前デクスシの町で傲慢な振る舞いを見せていた聖騎士達と同調して傲慢な態度だった副長だが、どうやらそれは演技で周囲の状況に合わせて振舞っていたに過ぎなかったようだ。
この変わり身に速さと躊躇無く周囲に合わせる立ち振る舞いに、騎士団に居る友人を思い出すライズ。
(この人、メルクに似てるなぁ)
「そういう訳ですので、この村での我々は修行の名目で下働きの下男と同じ扱いです。雑用をお命じの際はぜひエディル様にお願い致します」
そう言って自分も荷物を運びに向かう副長だった。
「さらりと雑用を上司に押し付けたな、あの副長」
◇
「ようこそライズ殿。歓迎するぞ」
村の奥にある神殿へとやって来たライズを、カーラの祖母にして神官であるミティックが出迎える。
(相変わらずカーラの祖母とは思えないほどの若々しさだな)
「うむ? 熱烈な視線を感じるが、あれか? 儂の事が忘れられずに会いに来てくれたのかのぅ?」
ライズの下へとやって来たミティックは、まるで思い人が自分の下へやって来た事喜ぶ少女の様にライズの体に身を寄せる。
「ちょっとライズ、この子誰よ?」
ライズの耳元で大規模氷雪魔法の如き寒さを感じさせる声が囁かれる。
レティの声だ。
「いや、この神殿の長を務めるミティックさんだよ」
「その長さんが何でアンタに抱きついてるのよ」
淡々とした言葉使いでライズに問うレティ。
「それはもちろん、ライズ殿は儂の命の恩人じゃからな。乙女として命を救ってくださった殿方に思いを寄せるのは当然の事じゃて」
「お、思っ!?」
まるで恋する乙女のような発言にレティが声を荒げる。
「ぷー、クスクス! 乙女って! プハハハッ!」
と、そこで更に後ろから笑い声が聞こえてくる。
振り向けば村の男に首根っこを掴まれて宙に浮かんだカーラが笑い転げていた。
「お婆様のお年で乙女ってちょっと盛りすぎでしょー! いい年して何恥ずかしいセリフ言ってるんですかー!」
心底楽しそうに笑うカーラ。
「ほう、修行をサボって遊び呆けていた放蕩孫娘はいう事が違うのう」
「ギクリ」
「村に着くなり報告もせずに即雲隠れした孫は言う事が
違うのう」
ミティックの言葉を聞き、村に着いてからカーラが一言も喋っていなかった事に気付くライズ。
(あの時点で既に逃げ出していたのか)
「い、いえ違うんですよ神官様。私は悪魔を倒したリザードマンさんから詳細な戦いの様子を聞いていたんです! 取材ですよ取材!」
慌てて弁解を始めるカーラに、ミティックは笑顔で頷く。
「うむ、知っておるぞ。取材もそこそこにライズ殿の魔物達と遊び呆けていたと、手紙を届けに来たハーピーが教えてくれたからのぅ」
「……え?」
何という事だろう、ミティックは事前に連絡役として送り出したハーピーからカーラの町での生活態度を聞き出していたのだ。
「安心せよ、これまでの遅れを取り戻す為にたっぷりと修行をさせてやる。連れて行け」
「はっ!」
村人達がカーラの首根っこを掴んだまま、彼女をどこかへと運んでゆく。
「修行はいやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
バタンと閉まったドアの向こうから、カーラの悲鳴が聞こえてきたのだった。
「さて、うるさいのもおらんくなった事じゃし、要件に移ろうか」
ミティックは部屋の奥へと戻り、ライズ達に椅子を進める。
ライズとレティは進められるままに椅子に座ると、ミティックもまた椅子に座った。
「たしか内容は怪しげな宝石を調べて欲しいとの事じゃったな」
ミティックの言葉にライズは頷き、腰紐にくくりつけた袋から件の宝石を取り出す。
「ほぅ、これはまた面白い物をもってきたもんじゃ」
宝石を見たミティックが声をあげる。
「ご存知ですか?」
宝石について問うライズに、ミティックは頷きで返す。
「うむ、これこそは悪魔の力を封じた魔封じの術宝じゃ」
再び、悪魔という言葉がライズの前へと姿を見せたのだった。
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