第60話 森のプリンセス
エディル達聖騎士は大魔の森へとやってきていた。
「コレより先は危険な魔物が出るので注意してください」
とてもコレまで横暴の限りを尽くしてきた男とは思えない丁寧な口調でエディルは後ろにいる人物に話しかける。
「承知致しましたわ」
応えたのはライズの従魔であるドライアドだ。
彼女はエディルの依頼である薬草採取に同行する為ここまでやってきたのである。
「ところでその、ですね……」
エディルが言いにくそうにモジモジとする。
見知った人間、それも上司の男がモジモジしている姿に部下達が渋面になる。
「どうかされましたか?」
「は、はい! そ、その大変お似合いなのに恐縮なのですが、森の中でドレスはさすがに不味いと思うのです!」
ドライアドに問いかけられたエディルは申し訳なさと話しかけてもらえた喜びで、裏声になりながらも懸念していた問題を口にする。
確かにドライアドは一見すると真っ赤なドレスを来た美女にしか見えない。
「それでしたら問題ありませんわ。こういう場所は慣れていますし、いざとなったらエディル様が守ってくださるのでしょう?」
「も、勿論です!」
元々の依頼では危険な場所でも自力で戦える戦力を求めていた筈なのに、ドライアドに良い格好が出来るという理由から、エディルは彼女を守る為に積極的に戦おうとしていた。
「では参りましょう」
ドライアドがふわりと舞う様に森の中へ入ってゆく。
「ああ! 森の中は危険です、我々が先行して……」
ドライアドを気遣おうとしたエディルだったが、当のドライアドは足場の悪い森の中だというのにまるで舗装された道の様に進んでゆく。
「さぁさぁ。早く行きましょう」
「ま、まって下さいドライアドさーん!」
あまりにも滑らかな足取りで森の奥に入ってゆくドライアドを追いかえるエディル達。
「う、うわ!」
「おっとっと!」
しかし金属鎧である事も相まって足場の悪い森の中ではバランスが上手く取れない。
「ええい、何をしているか! 早くせんとドライアドさんを見失ってしまうぞ!」
さすがは聖騎士隊の団長、エディルはよろめきつつも何とか倒れる事無くドライアドを追いかけるべく突き進んでゆく。
「ドライアドさ~ん!」
そのあまりにもひたむきな姿に部下達は呆れを込めて息を吐く。
「恋だねぇ」
◇
ドライアドさん危なーい!!」
ある程度森の奥に入ってきた所で採取を開始したエディル達だったが、そこではひっきりなしに魔物達が襲ってきた。
「はぁ!!」
エディルの剣が横なぎに振るわれると、目の前の魔物の首がスパッと切れて宙に舞う。
彼の剣はそれなりに良い物だが、普通の剣だ。ミスリルの剣は以前のドラゴンとのいざこざで折られてしまい、今は仮の剣で戦っていた。
しかしそれでも彼は聖騎士のリーダー。その剣の腕は並みの剣士とは違った。
「ふぅ、ふぅ……」
肩で息をする聖騎士達。
「は、はは、やれるじゃないか俺達……」
「あ、ああ。コレだけの魔物相手にここまで戦えるんだもんな」
戦いを聖騎士達に任せ、ドライアドは黙々と薬草を採取していた。
彼等の戦いを横目で監視しながら。
(実力はそれなりにありますけれど、動きがぎこちないですわね。それに精神状態もよろしくありませんわ。妙に緊張して興奮状態にありますの。これではまるで新兵ですわ)
ドライアドの推測は正鵠を得ていた。
実は彼等聖騎士は実戦経験などほとんど無い新兵同然の集団だったからだ。
そもそも悪魔などという存在はめったな事では自然発生などしない。
そして悪魔召還は邪悪な儀式である為、国に徹底的に禁止されていたので書物なども存在しない。
それゆえに悪魔召還が出来るのは金と資材と希少な資料を隠し持った一部の邪教の徒だけであった。
そしてそのような危険な集団を国家が見逃す筈もない。
結果悪魔召還が可能な危険人物達は国家に忠誠を誓う正規の騎士団によって処理され、聖騎士達の出番は皆無であった。
そしてたまに悪魔召還が成功しても、この数年はライズのドラゴンが悪魔を粉砕していた。
つまるところ、彼等は完全な張子の虎状態なのであった。
最もこれは騎士団と教会の力関係が原因で起きた側面もあるので、彼等の仕事を奪ったライズに非がある訳ではない。
「お怪我はありませんでしたかドライアドさん?」
荒い息を吐きながらエディルがドライアドを気遣ってくる。
「ええ、私には傷1つありませんわエディル様。ありがとうございます」
「っ! は、はは! こ、この程度大した事はありませんよ! 寧ろ敵が弱すぎで物足りない位ですね!」
と、エディルが口を滑らせる。
「まぁ素敵ですわ! では早速森の奥へと参りましょう!」
「え?」
「この辺りでは必要な薬草がすべて揃えられませんの。ですのでもっと奥まで足を運ぶ必要がありますの。でもこの奥はもっと強くて危険な魔物が沢山居て躊躇していたのですけれど。エディル様がそうおっしゃるのでしたら安心ですわね!」
「えっと……はい」
その失言故に、彼の背中へと部下達の恨めしい視線が投げ続けられるのだった。
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