第30話 祝勝会
夜の暗闇を追い払うかの様に、町にはそこかしこに灯りがつけられていた。
「ははははっ!」
笑いながら酒を飲む者
「ガツガツガツッ!!」
只ひたすらに肉を喰らう者。
「いいぞー! もっとやれー!」
即興の芸を行なう者達。
様々な者達が、激しい戦いの勝利を心から満喫していた。
「何とか勝てたわね」
もぐもぐと倒した魔物の肉料理を食べるレティ。
彼女の精神は疲れてきっていた。
なにしろ専門の訓練を受けた軍人ではない素人達を指揮していたのだ。
そのストレスたるや並大抵ではない。
「死者こそ出なかったものの、負傷者は多いわ。ユニコーンが居てくれたお陰で命の危険は脱したけど、暫く安静にしないといけない人達が多いわね」
「その辺りは冒険者ギルドが対処してくれるらしい。今回の魔物退治は毎年やっている事だからな、割りが悪いと仕事を受けてもらえなくなる。だからこの依頼で受けた新しい傷の治療をする際は治療費をまけてもらえるんだとさ」
羨ましいねとライズは笑って答える。
彼がそんな知識を知っているのも、町の住人との友好関係を築いてきたお陰である。
「それにしても、あのカエルは何だったのかしら?」
レティは、戦いの最後に現れたカエルの悪魔、バエルの使徒を思い出す。
「そもそも悪魔ってそんな簡単に自然発生する訳? 普通は儀式で呼び出すものじゃないの?」
魔法に疎いレティはその辺りが分からなかった。彼女に知識では、悪魔とは怪しげな邪教の徒が儀式で生贄を捧げて召喚するものだからだ。もっとも、その知識は子供の頃に聞いた御伽噺が由来なのではあるが。
「悪魔は自然発生する事もある。さっきも言ったが、低級の悪魔なら、条件が重なれば召喚者無しでこの世界に現界するが出来る。おそらく今回の件に人間は無関係だろう」
それ以上の情報が無い為に、ライズは今回の悪魔現界を偶然と断定する。
「それに、悪魔が儀式でないと現界しないのなら、最初の儀式悪魔を呼ぶ方法はどうやって考えられたんだ? 存在を知らなければ召喚も出来ないだろう?」
「あ、そっか」
ニワトリが先か、卵が先か。
そんな謎かけじみた会話であったが、確かに元となる情報が無ければ悪魔を召喚しようとすら思わないかと、レティは納得する事にした。
「まぁ今日のところは楽しむとしようじゃないか!!」
◆
「ほらラミアちゃんもお食べ」
「はい、頂きます」
ご近所のオバちゃん達に無理矢理進められた食事を両手に抱え、ラミアもまた食事を始める。
この戦いにおいて、彼女はその長い体を活用して城壁の上に町の中で生産した矢や食糧を届ける役目を担っていた。
地味ではあるが、大事な兵站任務である。
「ユニコさん、ニンジン持ってきただでお食べ」
「何故だ、戦いの裏でひたすら回復をしてきと言うのに、なぜ老婆と老人しかねぎらいに来ないのだ! ポリポリ」
ユニコーンはいつもどおりであった。
そこから少し離れ、ライズの牧場近くにドラゴンは鎮座していた。
人間達のお祭り騒ぎをそっと静かに見つめていた。
まるで他人事の様に。
と、そこに複数の声が聞えてくる。
「おー、居た居た! こんな所に居たのか!」
やって来たのは町の人間達だった。
全員が酒に酔っており、それぞれの手には酒や料理の姿が見える。
「ドラゴンさんも宴に参加しなよ」
「そうそう、アンタがあのバケモノをぶっ飛ばしてくれたんじゃないか!」
「そうだそうだ、皆で楽しもう」
酔っ払い達は口々にドラゴンを祭りに誘う。
『断る。我はドラゴン。人間が恐れを抱く存在である。此度の件はわが主が望んだ故の参戦よ』
それは拒絶であった。
ドラゴンは己の存在を、ドラゴンとしての有り様を示す為に彼等の誘いを断った。
「いいじゃねぇか! せっかくの祭りなんだ、楽しもうぜ!」
「そうだそうだ! ホラ肉だぜ、食いねぇ!」
「酒も飲め!」
『お、おい貴様等……』
酔っ払い達が次々にドラゴンの指の間に肉や酒を挟んでいく。
まるで倉庫に物を詰める様な光景である。
「さー食ってくんな! 美味いぜ!!」
『くっ!』
こちらの言葉を聞きもせず、自信満々で味を保障する酔っ払い。
無視する事は容易だったが。指の間に挟まれた料理や酒の感触がうっとおしく、南無なくそれらを口まで運び、丸呑みにした。
「おおー! さっすが、良い飲みっぷりだぜ!」
「いや食いっぷりだろ!」
「ガハハハッ、どっちでもいいだろ!」
「よーし! ドラゴンにもっと料理を運べー!」
「酒もだー!」
酔っ払いに恐れるものなど何も無い。
彼等は感情の赴くままにドラゴンをご馳走漬けにしようと料理に酒を運んでくる。
『ええい酔っ払い共め!』
悪態をつくドラゴンだったが、何故か彼はその場を離れようとはしなかった。
そんなドラゴンの姿を、遠くから眺めるライズ。
「ドラゴンに酒を勧める人間達か」
彼は微笑みながら町の中で共に祭りを楽しむ人間と魔物を見つめていた。
「ようやく、この町の人間達に認められてきたみたいだな」
祭りの時間はまだ始まったばかりであった。
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