第26話 戦闘開始!

「魔物が来たぞー!」


 城壁の上に増設された新しい物見台から、見張りの声が届く。

 彼等が立っている物見台は、通常の物見台よりも高く、補強の為に城壁の内側の地面まで伸びる支えで補強されていた。


「数と距離は!?」


 城壁に立っている報告役の兵士が追加情報を要求する。


「数え切れない!緑が8、黒が2だ! まだ増えるぞ!」


 目視での限界故に、一定量を超えた数を数えるのは不可能だった。

 そもそも数字を数える事が出来る人間が少ないので、大雑把であっても情報を送ることの出来るこの兵士は優秀であった。

 最も、そういう人材を見張りに置いたのはギルド長であるトロウの采配であったのだが。


 そして魔物の姿が肉眼で見える距離まで近付く頃には、デクスシの町の戦力も臨戦態勢を整えていた。


「よし、敵がラインを超えた時点で遠距離部隊は攻撃を介しろ!」


 新たに作った物見台兼指令室に待機していたトロウから号令がかかると、城壁に待機している冒険者と自警団員、それに民間の志願兵から雄たけびが上がる。

 彼等はそれぞれに弓や杖を構えて敵が近付いてくるのを待っている。


 町の周辺には円形の溝が3つ引かれており、そこが魔法や弓矢の有効距離であった。

 今回の戦力は訓練を受けた軍人でない為、個人の練度の低さを補う為の目印として溝を掘ってるのだ。外側から順に、弓矢魔法で戦う者や狩人用、実戦経験はあるが弓矢は使った事が無い者用、そして一番内側の円が素人が撃ってギリギリ戦力としてダメージを与える事が出来る距離だ。


 幸い、今回の敵は大量にやってくる為、狙いをつける必要が無く、そういう意味では民間人の志願兵を雇うメリットがあった。

 そしてこの民間人を起用するアイデアは、軍人であるレティの提案である。

 今回の戦いではどれだけ多くの魔物がやって来るか分からない。

 それ故、急造であっても戦力は喉から手が出るほど欲しい状況だった。


「敵、外周の円に接近!」


 見張りが声をあげると、城門の外で待機している熟練兵部隊に緊張が走る。


「まだ熟練部隊以外は弓をつがえるなー!」


 血気にはやった民間人部隊が誤射しない様に実戦経験のある隊長達が通達を出す。

 民間人を有効に使う為、一部の実戦経験者、特にチームのリーダー経験のある人間を指揮官として雇い入れたのだ。


「もう少し、あと少し……ライン到達‼」


「撃てーっ‼」


 号令を受けて最前線の兵士が矢を魔法を放つ。

 十重二十重に放たれた攻撃が魔物達の群れに吸い込まれていく。


「魔物の群れに命中確認!」


「成果は⁉」


「成果あり、ただし魔物の数が多すぎる為に焼け石に水です!」


「くそぉー!」


 見張り台からの報告に先発部隊から悔し気な声があがる。


「とにかく攻撃だ! どうせ的はそこら中にあるんだ! 狙わなくても良いから撃ちまくれー!」


「「「「おおー!」」」」


 弓兵達が次々に矢を放つ。

 その度に魔物達が傷つき、倒れてゆく。

 一見圧倒的な戦果であるが、それは逆を言えばどれだけ倒しても敵が減らないという悪夢の様な光景でもあった。


「どれだけ居るんだよ!」


 ◆


(なんという数、やはり戦場がなくなった影響は大きいか)


 司令塔で構えていたトロウは、かすかな焦りを心の奥底ににじませていた。

 だが決してそれを周囲には悟らせない。デクスシの町の戦闘指揮官である自分が不安を見せるわけにはいかない。

 だからこそ、戦いが始まったばかりのこの時点で不安を口にする訳にはいかなかった。

  

「よし、飛行部隊を出すぞ!」


「了解です」


 トロウの横に待機していたライズが頷く。

 彼はそばに控えていたラミアに指示を出すとラミアが赤い旗を振って外に指示を出す。


「飛行部隊、出撃しました!」


 ラミアの声に答える様に、デクスシの町の中から多くの翼が飛び立つ。

 それは、ライズが従える飛行能力を持った魔物達の部隊だ。

 彼らはその足に大きな袋を掴んで飛び立ってゆく。


「よろしく頼むぞ」


 町の皆の期待を背負った魔物達が、今出陣した。

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