第24話 狩りの打ち合わせ
「良く来てくれたな」
応接室で既に待っていた冒険者ギルドの長トロウがライズ達を出迎える。
イノから依頼を受けた翌日、ライズとレティは冒険者ギルドへとやってきた。
そして素材の買取で馴染みとなった窓口嬢のところに顔を出し、ギルド長のトロウへの面会を希望したところ奥にある応接室に案内されたわけである。
「どうも、この度は当店にご依頼頂きありがとうございます」
ライズが経営者としての顔でトロウに挨拶をすると、トロウは手を振ってやめる様に促す。
「堅苦しいのは無しだ。今回の仕事はそんなお上品な会話をしてる暇は無いからな」
「分かりました。では早速仕事の話をしましょうか」
「それは良いが、騎士のお嬢ちゃんも参加するのか?」
トロウはライズの後ろにいたレティに目を向ける。
「ええ、私もこの国を守る騎士ですから、役割上部下は居ませんが実戦経験はありますし、士官として隊を動かした経験があります」
「レティは俺と一緒に前線で戦った経験がありますから、下手な騎士団の騎士よりもよっぽど野戦馴れしていますよ」
「ほう、そいつは嬉しい誤算だな。今回の戦いは混戦が予想されるからな、指揮官経験のある人間は喉から手が出るほど欲しかったんだよ」
「それは良かった。……にしても、二人共知り合いだったんですね」
騎士であるレティと冒険者ギルドのマスターであるトロウが、顔見知りだった事にちょっと驚くライズだった。
「私は正式に騎士としてこの町に派遣されているから、町の権力者とは一通り顔合わせは済ませてあるわよ」
当然でしょうとレティが胸を張る。
「なるほどね」
「話は済んだか? 早速今後の打ち合わせといきたいんだが」
そういうと、トロウは二人にソファーへと座る様に促した後、テーブルに大きな紙を広げた。
「これは……地図か」
ライズの言うとおり、それはこのデクスシの町を中心とした周辺の地図だった。
「何処でこの地図を? 誰から買われたんですか」
突如地図を見たレティが真剣な顔でトロウに問う。
(ああ、普通地図は軍事機密だもんな。現役のレティからすれば問い詰めないとマズいか)
この世界において、地図の需要は少ない。
普通の人間は自分の町から外に出る事はめったに無く、仮にあったとしても精々ガ隣町くらいだ。
旅人は地図を作る時間で情報を集めて目的地までの道を割り出す。
そもそも街道があるので特殊な理由で街道から外れない限りは地図など必要ないのだ。
そういう意味から言えば地図を必要とする者は限られる。
そして地図を欲しがる最大勢力といえば、それは国家である。
正しくは軍だ。
次に特定の貴族に仕える特殊工作員。
最後は犯罪者のような後ろぐらい人間だ。
騎士であるレティにとって、一番まずいのが他国のスパイに地図を入手されることである。
地図があれば侵略行為を行なう際、少ない負担で兵を進軍させる事が出来る。
戦いに向いた土地、侵略する勝ちのある町や鉱山など、地図の有用性は計り知れない。
ソレゆえに、冒険者ギルドの長であるトロウが何故地図を持っていたのかをなんとしてでも知る必要があったのだ。
「これは俺達で作った地図だよ。魔物の繁殖期に対抗する為にな」
「対抗ですか?」
トロウの答えに対し、レティが疑惑を残したまま真意を問う。
「この町を囲う城壁は魔物から人々を護る為に作られたものだ。繁殖期に増えた魔物達が、森の恵みでは賄いきれなくなった時に一斉に外に出てくる。その時一番近くにあるのがこの町だ」
トロウは地図に書かれた大魔の森に指を差し、そのまま指先をデクスシの町へとスライドさせる。
「だが今まで一度たりとも国からの援助は無かった。軍は戦争で忙しいから自分達で何とかしろとな」
その言葉を聞いてレティは顔を曇らせる。
それも無理からぬことであった。
この国は何十年も隣国と戦争を繰り返してきた。
その為、両国に危機が訪れる様な大災害でも無い限りは常に小競り合いの戦闘を繰り返してきたのだ。
特に近年は戦争が最終局面に差し掛かっていた事で国境沿いじゃ激戦区であった。
その為、どれだけ町が危機的状況であろうとも、国は軍を動かすわけには行かなかったのである。
「だから俺達は地形を上手く活用する為に地図を作り、それを見ながらその年の魔物の広がり具合を見つつどこに罠を仕掛けるか、何処に主力をおくかを相談していたんだ。だからこの地図はこの町のものだ。この町を護る為だけの使われる地図なんだよ」
トロウの真剣な声に、退役して軍とは無関係になった筈のライズも神妙な気持ちにならざるを得なかった。
「その……ぶしつけな質問をしてしまい、申し訳ありません」
軍人としての負い目もあり、完全に論破されたレティがトロウに謝罪する。
「なーに、気にすんなって。軍人さんは建前が多いからしょうがないぜ」
しかし当のトロウはけろっとした様子でレティの謝罪を受けいれた。
(大人だなぁ、いや、寧ろコレも駆け引きなのかねぇ?)
「そんじゃそっちにして欲しい事なんだが、まず回復魔法の使える魔物が借りたい。ユニコーン以外にも居るか」
「回復魔法が使えるのはユニコーンくらいですね。ただポーションを作れる魔物が居るからそいつに薬を用意させましょう」
「助かる、薬は町で買い取らせてもらう。あとは戦える魔物だな。特に遠距離から攻撃できる魔物と敵の足止めの出来る魔物を貸して欲しい」
「それなら色々できるのが居ますんで、順に説明しますよ」
「だったら、私が見繕うわ。ライズの魔物は軍でも工作部隊として活躍していたから、どの魔物がどの作業に有用か説明しやすいわ」
魔物の作戦運用の話になるとレティが会話に加わってくる。
どうやら意識を切り替える事に成功したようだ。
「そいつは助かる」
「そうね、まずは……」
こうして、ライズの魔物達をメンバーに加えた大魔の森の魔物討伐作戦の火蓋が切って落とされようとしていた。
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