第28話 水源調査②

 マタンゴ達の襲撃を退けた後、調査隊は再び水源へと続く山道を進み始めていた。先程の戦闘で毒を吸い込んだ人も居たが、幸いにも迅速な処置が功を奏して軽症で済み、若干顔色が優れない点を除けば調査に同行出来るまでに回復した。


「ワシが気に掛かったのは、マタンゴ達の様子だ」


 山道を上る最中、事実確認をするかのような慎重な口振りでバルドーが語り始め、隊員達は彼の言葉に耳を傾けた。隣にいるクローネは主人の言葉に気にも留めず、高級感を醸し出す猫さながらに悠然と歩き続けている。とどのつまりはマイペースなだけですけどね。


「前にも言った通り、アレは滅多な事が無い限り人前に現れたりしない。しかし、今回は滅多な事があったと考えるべきだろう」

「滅多な事……と言いますと?」


 隊員の一人がおずおずと尋ね掛け、バルドーは前を見据えたまま答えた。


「マタンゴ達は出会った当初から黒い胞子を飛ばしていた。あれは敵対や拒絶を意味する感情の表れだ。では、何故マタンゴは我々に敵愾心を見せ付けたのか? ワシが思うに、誰かがマタンゴの怒りを買い、尊厳を踏み躙るような仕打ちをしたのではないだろうか?」

「ちょっと待って下さい! そんな真似、俺達はしちゃいませんよ!」

「そうですよ! マタンゴを傷付けて、一体何の利益になるというんですか!」


 バルドーが打ち出したマタンゴの怒りを買ったのではという仮説に対し、調査隊の間から反論の声が上げる。

 確かにマタンゴを痛め付けて得られるものなんて虚しい優越感だけで、実益なんて皆無に等しい。単純に利益だけを求めるのならば、魔獣を倒すよりも薬草や山菜を採って持ち帰る方が遥かに賢いやり方だ。

 それに村の誰かが山への出入りをしょっちゅう繰り返していれば、他の人間がそれに気付いて噂が立つ筈だ。実際にそんな噂は聞かないという事は、村人の誰かがマタンゴを怒らせた犯人という線は無いという証拠だ。

 バルドーも彼等と同様の事を考えているらしく、彼等の反応を見て重々しく頷いた。


「その通りだ。ワシも同じ意見だ。そしてもう一つ気掛かりなのは、何故マタンゴは貴重な水源を自らの毒で冒したかだ」


 そう言って彼が指差したのは、左手の斜面を覗き込んだ先にある毒に染まった川だ。


「怒りで我を見失うという言葉があるが、どれだけ激しい怒りに支配されていても頭の何処かではきちんと本能が働いているものだ。例え怒り狂っていても、閉ざされた扉に直面したら、きちんと扉を開けて部屋を後にするように。それと同じでマタンゴ達にとっても水の貴重さは本能で理解していた筈だ。なのに、何故自分達の毒で貴重な水源を汚染したのか?」

「本能よりも復讐を最優先したとか?」

「いや――」仲間の仮説にガーヴィンが異を唱える。「それはないだろう。植物系の魔獣にとって清らかな水は生命線にも等しい存在。それを毒で汚染するのは自ら生命線を断ち切るだけでなく、この山での暮らしを破綻へ追い込む愚行にも等しい行為だ」

「それじゃ、どうしてマタンゴは水源を自分達の毒で満たしたりしたんだ?」

「さぁな。だが、水源に行けば自ずと答えが分かる筈だ」


 流石のガーヴィンも答えを見付けられず、水源へと続く山道の先を見据えると黙々と道を上り続けた。隊員達の胸中には依然として疑問の灯火が燻っているが、今この場で彼是言い合っても判明する訳ではないと弁えているらしく、ガーヴィンの言葉を信じて前へと進み続けた。

 やがて頭上を覆っていた黒雲は大分薄まり、降頻る雨も上がると青々しい匂いと冷却された空気、そして泥濘んだ大地だけが取り残された。薄鼠色の雲の隙間から神々しい日差しのスポットライトが降り注ぎ、山や海上を照らし出す。

 陽気で眩い日差しの直射を潜り抜け、そして平坦ながらも長い山道を上り切った調査隊の前に現れたのは、泉ほどの広さ(市民プールの半分ぐらい)を有した井戸水の水源地だった。

 緑豊かな山の自然そのものが地下深くからコンコンと湧き出る水を受け入れる受け皿となっているかのような水源地を見た瞬間、私の脳裏に何処かの神話に登場する清楚な泉のイメージが浮かび上がった。

 もしも純粋で清らかな真水であれば飲んでみたいという衝動に駆られたであろうが、今は赤々しい毒素で汚染されており、元の美しい泉は見る影もない。だが、食欲ならぬ飲欲を損なわせる理由は他にもあった。


「どうやら……が答えらしい」


 バルドーが見据える先に調査隊の面々も視線を這わせると、所々から息を飲む音が聞こえて来た。

 無理もない、この村だけでなく山そのものにとっても貴重な水源地は、今やマタンゴ達の水死体で埋め尽くされた悍ましい水葬地と化していたからだ。それも彼等の体は槍や弓――人間が使用する武器で身体を貫かれており、人間の仕業である事は一目瞭然だった。

 しかも、水死体となっているマタンゴは先程見た同族に比べて小柄だ。恐らく幼体なのだろう。


「これは惨い……。毒に汚染された理由はコレだったのか……」

「恐らく、この赤い毒はマタンゴの子供が身の危険を察して、咄嗟に発したものなのだろうが、結局は……」


 目の前の水面に浮かんでいるマタンゴが魔獣である事に変わりはないが、それでも年端もいかない幼体ばかりが犠牲になっているという事実に、男達は沈痛な面持ちを浮かべてやり切れない気持ちになった。

 シェルである私に顔はないが、心は彼等と同じだ。例え敵対している種族でも、アクリル程の子供が犠牲になれば心が痛むし悲しみだって覚えるというものだ。


「まだ解明されていない謎は多いが、今は水源地の浄化を最優先にしよう。シェル、すまないがマタンゴの水死体を湧水から引き揚げてくれんか? 丁重にな」


 現在の私は浄化スキルに付け加えて毒無効スキルも備わっているので、何の躊躇もなくバルドーに言われるがままに颯爽と汚染された湧き水に飛び込んだ。熟成したワインのプールを泳いでいるかのように水中も真っ赤に染まっているが、幸いにもまだ視界は利く方だ。

 水面に浮かんでいるマタンゴ達を触手で掴んでは貝殻に優しく乗せ、縁に戻って調査隊の面々に引き渡す。向こうもバルドーに丁重に扱うよう言われているらしく、壊れ物を扱うかのように丁寧な手付きで亡くなったマタンゴ達を陸地に寝かせていく。


「これで漸く事態が判明しましたね。誰かがマタンゴを傷付けて、この水源地に突き落としたんですね」

「うむ、あとは誰がやったかを突き止めるだけじゃな」


 私がマタンゴ達の水死体をせっせと陸地へと運ぶ間、バルドーとガーヴィンは未だに解明されていない謎に付いて言及し合っていたのを小耳に挟んだ。

 しかし、本当に誰なのだろうか。こんな傍迷惑な悪戯をしたのは。いや、最早これは悪戯という範疇を逸脱した、度が過ぎた悪辣極まりない行いだ。マタンゴの子供を殺して毒素を撒き散らして、水源地を汚染させて村だけでなく山そのものの生態系さえも破滅しかねない危険且つ愚かな行為だ。

 これを実行した犯人が分かったら、絶対に取っちめてやらなければ私の気が済まない。そう考えているのは、恐らく私一人だけではない筈だ。

 そうこうしている間に湧水に浮いていた三十匹以上ものマタンゴを回収し、そして最後の一匹を縁に居る調査隊の一人に手渡そうとした時だ。向かい側にある草藪の奥にキラリと輝く反射光が見えたかと思いきや、その刹那に空を切る音と共に一本の矢が飛来した。


『危ない!!』


 咄嗟に叫んだものの、今の自分が発声出来ない身である事を思い出した時には、私から死体を受け取ろうとしていた人間の頸椎に矢が突き刺さっていた。

 頸椎を射抜かれた人間は声を上げる事も敵わず、矢を受けた衝撃で前のめりに体勢を崩すと、そのまま汚染された湧き水に頭からダイブした。ステータスで確認せずとも、即死なのは明白であった。


「ドニー!」


 調査隊の人々の視線が射抜かれた仲間に釘付けになる中、ガーヴィンとバルドー、そしてクローネだけが矢の飛んできた方へと鋭く意識を向けた。すると藪の向こうに広がる暗がりの中から複数の矢が一直線に飛び出し、調査隊に襲い掛かった。


「シェル! 泡を張るんだ!!」

『バブルバリア!!』


 ガーヴィンの台詞が言い終わる前に食い気味で魔法を唱え、水源地一帯を泡のバリアで包み込んだ。数瞬後、殺傷力の高い鏃の群れが泡の壁に殺到するも、魔力で強化された泡はこれらを拒絶し、嘲笑うかのように容易く弾き返した。

 これで今みたいな攻撃に心配する必要は無くなったが、まだ安心は出来ない。この間に私は湧水に落ちたドニーを引き揚げて調査隊の人間に引き渡すが、既に故人となった彼を見る人々の表情は悔しさと悲痛が綯交ぜとなっていた。


「くそ! ドニーが……!」

「一体、何処のどいつだ!?」


 そこで漸く他の人達も仇を見るかのような鋭い眼差しで藪を睨み付けるが、微風に煽がれた草木がさわさわと物静かに揺らぐ以外に動きは見当たらない。どうやら矢を放った張本人達はあくまでも望遠に徹する気らしく、私達の前に姿を現すつもりはこれっぽっちもないようだ。


「少なくとも村の誰かではないという事は確かじゃな。シェル!」バルドーが肩越しに視線を寄越す。「この泡に穴を幾つか開ける事は可能か!? 人間の指先ぐらいの穴で十分じゃ!」


 バブルバリアに穴を開ける? 何をする気なのかという疑問はあれど、バルドーが何の考えも無しに今の提案をするとは考え難い。それに今は一つの疑問に一々構っている暇なんて無かった。

 とは言え、バブルバリアに穴を開けるなんて初めての試みだ。出来るかどうかも分からない不安を抱きつつも、試しに頭の中でバブルバリアに極小の穴を開けるイメージを思い浮かべてみると、私が張ったバリアに錐で作ったような小さい穴が生まれた。

 おっ、細かい操作や綿密なイメージが必要かと思いきや、意外と簡単に出来るものだな。そして穴を徐々に拡大させていく映像を思い描くと、その通りに穴は拡がっていきバルドーが要望した通りの穴が完成した。


「よし、それで十分じゃ! クローネ!」

「シャアアア!!」


 最高級の絹糸に匹敵する美しさとワイヤーをも凌ぐ硬度を兼ね備えたクローネの体毛で紡がれた糸がバリアに出来た穴を通り抜け、音も立てずに蛇行しながら藪の方へと毛先を伸ばしていく。成程、これならばバリアの効果を損なわない上に、藪に隠れている敵に近付く事が出来る。

 最初は慎重に探りを入れるかのように緩やかな速度で進み続けていたが、一分以上が経過すると突然ピタリと止まった。どうしたのかと思ったのも束の間、蛇のように地べたを這っていた糸がピンと張られて宙に浮き、次の瞬間には掃除機のコードのように高速で巻き戻っていく。

 それに合わせて藪の向こうから人間と思しき甲高い悲鳴と草木が慌ただしく揺れる音が山に響き渡り、やがて私達の前に引き摺り出される格好で現れたのは、クローネの体毛に雁字搦めにされた不審な男達だった。

 動物や魔獣の毛皮を身に纏い、何日も風呂に入っていないのか薄汚れた浅黒い肌は不衛生な印象を見ている者に植え付ける。そして腰に巻いたベルト代わりの布地には剥き出しの鉈が収まっており、その姿はまるでアレだ。ええっと、何だっけ……。彼等の出で立ちからすると盗賊と言うよりも―――


「こいつら、山賊か!?」

「どうして山賊が!? いや、この水源の汚染は山賊達の仕業なのか!?」


 ああ、それだ。山賊だ。というか、この世界にも山賊の類が存在するのね。

 調査隊の面々も山賊の姿を認めると、それまで浮かべていた驚愕の表情を一転させて険しさ一色に塗り潰した。

 確かに山を中心に活動する山賊ならば、マタンゴを傷付けて水源地を汚染させる事も可能だ。いや、寧ろ彼等しかいないと見るべきだろう。水源地の調査にやって来た私達を待ち伏せしていたのが何よりの証拠だ。

 しかし、分からないのは山賊達の目的だ。私の考えでは山賊を始めとする賊徒は、基本的に略奪行為を主軸とした破壊や暴行などで、私腹と欲望を満たすものだ。だが、今回彼等がした事と言えば水源地を汚染しただけだ。これでは彼等に何の利益も無いし、単なる悪質な悪戯止まりだ。

 バルドーも私と同じ考えに行き着いているらしく、眉間に深刻な谷を作りながら泡越しから盗賊達に呼び掛けた。


「おい、貴様達の目的は何だ? まさか水源を穢して終わりという訳ではあるまい? そんな子供の悪戯程度で事を終わらせるほど、山賊は可愛い生き物ではないだろう?」


 ドスを利かせた声で不可視の圧力を掛け、山賊から真実を引き摺り出そうとする姿は正に被疑者を取り調べる刑事のようだ。気の弱い人間ならばイチコロだったかもしれないが、数々の蛮行をこなしてきた山賊相手では効果は薄いらしく、臆するどころかハッと鼻先で笑い飛ばしてそっぽを向かれてしまう。

 一筋縄ではいかないぞという山賊なりのアピールもしくは強がりなのだろうが、そんなものはバルドーには通用しなかった。山賊の反応を見た彼は大きい溜息をわざとらしく鼻孔から放出すると、陸に上がったばかりの私の方へ巨体ごと振り向いた。


「シェル、すまんがバリアを解除してくれ。心配せずとも、近くに潜伏している輩はクローネが捕まえたコイツ等だけのようだ」


 念の為にクローネの方へチラリと視線を向けると、そうだと相槌を打つかのように「にゃおん」と可愛らしい鳴き声を上げた。一人と一匹の言葉を信じ、山賊と調査隊を隔てる泡の壁を解除した。

 それと同時にバルドーは大股で質問を投げ掛けた山賊の一人へと近付くと、彼を徐に蹴り倒した。流石の山賊もこれには元々頑丈でない堪忍袋の緒が切れ、感情任せに怒号を放とうとしたが―――


ズドンッ


 ―――転がされた山賊の頭の真横にバルドーが愛用しているウォーハンマーが大地を微かに揺るがす程の重々しい音を伴って置かれた途端、山賊の口から出掛かった怒号はヒュッという空気を飲む音と共に喉奥に避難した。

 傷一つなく磨き抜かれたウォーハンマーの側面に山賊の顔が反射されるが、そこに映し出されていたのは怒り狂う人間ではなく、ウォーハンマーから発せられる威圧感に只々圧倒されて蒼褪める脆弱な人間であった。


「さて、もう一度聞こう。貴様達は何が目的でこんな真似をしでかした? 何の理由があってマタンゴを傷付け、水源を汚染したのだ? 別に話したくなければ構わんぞ。只、此方も味方をのでな。相応の代償は払ってもらうぞ?」

「ひっ……」


 バルドーの台詞が単なる脅しではないと察したらしく、山賊の口から怯懦の悲鳴が零れ落ちた。他の山賊達の耳にもバルドーの言葉は届いており、余裕を含んだ笑みを浮かべていた者も今では死刑を待つ囚人になったかのように顔色が失われていた。


「そもそも貴様達は他にも悪行を成してきたのだろう? 例え生かされたとしてもギルドナイツに突き出されて裁判送りにされれば、問答無用で死刑になるか、運が良くても刑罰として奴隷に格下げされて馬車馬のように昼夜問わず働かされるのがオチだぞ?」

「ぐっ……」

「だが、もし素直に吐けばワシが口添えして刑罰を軽くすることも可能だぞ。どうだ?」


 この世界には山賊だけでなく奴隷までもが居るのか……。益々ダークファンタジー的な要素が膨れ上がっていくなぁ。まぁ、貝である私が奴隷を買うなんて絶対に無理な話ですけどね。

 それはさて置き、バルドーが使い分ける飴と鞭に山賊達の心は大きく揺らいでいた。恐らく彼等の心の中では長年に渡って培われた仲間に対する義理を貫き通すか、その義理を捨てて目先の利己に走るかで迷っているに違いない。

 そうして無言のまま睨み合った末、最初に沈黙を破ってアクションを起こしたのは山賊の方だった。苦し紛れながらもニィッと口角を釣り上げた挑発的な笑顔を見せ付け、バルドーが目の前でチラ付かせた飴を拒絶した。

 山賊としての義理と意地を貫き通したのか? いや、それだけにしては他の思惑が見え隠れしている気がする。何と言うか、こう……があるというか。バルドーも相手の反応を妙に思い、片眉を不可解そうに折り曲げた。


「何がおかしいんじゃ?」

「へへへ、俺達がどうしてこんな真似をしているかだって? 決まっているさ、アンタ達みたいな腕っ節の立つヤツを村から離す為さ!!」

「何だと?……まさか!!」


 バルドーが山賊達の思惑に気付いた直後、ドンッと遠くで花火が撃ち上がったような爆発音が聞こえてきた。その場に居た調査隊の誰もが爆発の音源を探して辺りを見回すと、誰かが「おい、アレ!」と叫んで山を見下ろした先にあるパラッシュ村を指差した。

 振り返るとパラッシュ村と山の麓の間に朦々とした黒煙が立ち上り、雨雲が去って晴れ間が見えつつあった空の一部を黒く着色していた。見下ろしている間も爆発と黒煙の花が相次いで村の傍で芽吹いており、このままでは村が破壊の花園となるのも時間の問題だ。


「ははははは!! 俺達のかしらは頭が冴えててよ! マタンゴの毒で水源を汚染すれば、それを浄化する為に村から腕の立つ人間が派遣されるに違いないと読んだのさ! そうしたら大当たりさ! お前達はのこのこと山へと入り、その隙に本命の頭達が村を襲って略奪する! 意地汚い山賊にしちゃ出来の良い作戦だろう!?」


 まるで勝負の軍配が自分達に挙がったかのように調査隊を嘲笑う山賊だったが、その笑いは長続きしなかった。バルドーがウォーハンマーの柄で彼の頭を打ち、意識を刈り取ったからだ。

 依然としてニヤニヤとかクスクスとか神経を逆撫でるように笑う山賊達も居たが、バルドーが義憤と殺気を練り上げた目で鋭く一睨みして黙らせた。そして気を取り直すように体内に溜まった余計な感情を息に乗せて吐き捨て、再度山賊の襲撃を受けているパラッシュ村へと目を向けた。


「第四班は此処に残って山賊達を見張れ! 残りは村へと戻るぞ!! 急げ!!」


 バルドーの命令が雷鳴の如く轟き渡り、隊員達は思わず背筋を正して迅速に行動へと移した。刻一刻と過ぎるにつれて墨汁を垂らしたような細い黒煙が増え、パラッシュ村の上空に黒い筋を刻んでいく。それが村に迫る危機を如実に物語っていた。

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