第54話 異常? 正常? やっぱり異常
私がウリッツァのいない部屋で過ごすことになってもう五年……否、五日経ちました。
さすがに五年と五日を間違えるほどになった覚えはありません。
今のところ、私がウリッツァと同じ部屋に帰れないことを除けば特におかしな事態は起きていない……。
そう思っていた矢先、昼休みではないけれど、普段の休み時間よりは長い休み時間に、数学の先生が私に話したいことがあるとのことで、私は先生の待つ職員室に向かいました。
先生は、昨日私が解いた数学の宿題を見せながら、過程や回答がウリッツァという文字で埋まってて何があったのか、といったことを尋ねてきました。
「……? よく見てください先生、私はちゃんと式や回答を書いているでしょう?」
なぜか納得いかない様子の先生を理路整然と説得するも、理解してくれない先生。
それどころか「この指何本に見える?」だの遠くのポスターを指差して「あそこにある字読める?」だの妙な質問をいくつかしてきたので見たままのことを答えたら戻っていいと言われたので教室に戻りました。
六日目の夕食後、部屋のシャワースペースに入ったらなぜかウリッツァがいました。
「あれ、ウリッツァ……なんというか、全体的に縮みました? それになぜか髪も黒いですし……あの人……ならもっと縮んで見えるはずですし……?」
服を脱ぐ過程で眼鏡を置いてきたせいで視界がぼやけてますが、目の前にいるのが私の知るウリッツァではないようなのは確かです。
あれこれ目を凝らしていると、ウリッツァもどきが、こう声をかけてきました。
「俺、タケシなんだけど……」
「ああ……失礼しました」
……どうやら私の正気は一週間もたなかったようです。
タケシさんのシャワーを待つ間、私はノートを開き、昨日言われた数学の宿題を確認する。
ああ……本当に過程や回答がウリッツァで満ちている……。
つまり、私の正気は六日どころか三日しかもってなかったと? 我ながら早すぎる……。
そういえば四日目、たまには自分からウリッツァを昼食に誘おうと声をかけたらウリッツァは承諾する前になぜか戸惑いの声をあげていたような……。
あれはウリッツァ以外の誰かだったということなのでしょうか……。
次に授業があった日、私は担任の先生から男子生徒や男性教師などをウリッツァと呼んだ件について呼び出しを受けました。
思いの外大勢をウリッツァと呼び間違えていたらしく、先生からの話を終えて、タケシさんが話しかけてくるまで何も言えませんでした……。
……私が当て馬になって、もう何日経ちましたっけ?
ウリッツァと部屋で一緒に過ごせなくなったのが八日前で、えっと……二週間程でしょうか。
申請すれば当て馬手当とかもらえますかね……? 父さんに何か聞いておけば……いや、父さんは当て馬ではなく本命でしょうから聞いても参考にならないか……。
そもそもウリッツァが、プリストラと部屋交換してくれ、などと言い出したのは、ヴィーシニャさんのせいでもあります。
私に当て馬など頼まず、本人に直接不満を言えば済んだ話でしょう?
正直、私はヴィーシニャさんなんかより他の異性と触れ合いたい……例えば……ヴィーシニャさんに抱きつかれる私を見て以降、自分の胸を時々気にしだしているトロイノイとか……。
以前、トロイノイのことを考えて自慰にふけって、目の前にトロイノイがいない――よく考えれば当然の――現実を見て私……泣きましたからね。
両親が死んでも涙が出なかったのに、両親が死んで以降、大した対策をせずに玉ねぎを細かく切ったときとか、あくびをしたときとか、そういう生理的な理由でしか涙した覚えのない私が、ですよ。
あの人やウリッツァなどトロイノイ以外のことを考えてするときは射精したあと、なんとなく虚しいと思う程度だったのに。
堂々としているトロイノイはもちろん魅力的ですが、あのトロイノイもいじらしくて……はあ、抱きたい……孕ませたい……いや、孕ませるのは結婚してから、待てまずは交際を……はあぁ、トロイノイの全部が欲しい……。
……空想にふけっている場合じゃない、可及的速やかに当て馬をやめて、現実のトロイノイの誤解を解きにいかないと、孕ませるスタートラインに立てなくなる!
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