第55話 当て馬卒業、一足早い告白

 トロイノイのために当て馬をやめようと思ったその日の夕食後、私はヴィーシニャさんに呼び出されて、ヴィーシニャさんから今日のことを報告されました。


 報告を要約すると、今日の昼、ウリッツァが「ヴィーシニャの恋人ってオレ、だよな……?」と妬いたそうです。

「じゃあ、もうやめにして構いませんよね、当て馬」

「うん……今までごめんね」

「その言葉、ウリッツァにも言いましたか?」

「もちろん、なんだったらマギヤに協力してもらったことも言ったから」

「……次にウリッツァへの不満が出てきたら、まず本人に直接言ってください。話が通じないようなら手を貸してあげてもいいです」


 もっと思いっきり「二度と私に頼まないで」などと突っぱねてもよかったのですが、ヴィーシニャさん一人で対処出来ない程の事態が絶対に起きないとも限りませんからね。……ウリッツァに限ってそんな事態は、起こさないと思いますが。



 翌日、適当な口実を作ってトロイノイと二人きりになり……いけない、「トロイノイと二人きり」という言葉の響きに酔いしれるのは一人になってから、トロイノイの方を向く前に顔を引き締めて……。


 率直に……とはいえ、孕ませたいとか欲深すぎることはさすがに伏せながら……自分が異性として好意を抱いているのは、あくまでトロイノイだけで、ヴィーシニャに当て馬を頼まれてたけど、もう終わったと主張する。


 ……なぜトロイノイは呆然としているのでしょう? トロイノイの私への思いは単なる仲間としての信頼しかなかったのでしょうか? どうしましょう、トロイノイに、あまり強引な手は使いたくないのですが……。


「マギヤ……それ本気で言ってる?」

「本気ですよ」

「……あたし、が……」

「存じ上げてる上で本気です」

 トロイノイが言おうとしたのはおそらく、自分が私の両親の仇たるあの人の血縁であるのを知っているのか、ということ。


 そんなもの、私達が一年生のとき初めて会ったその日から、いや、私の両親を殺す前、あの人が幼なじみもといトロイノイの母親を殺して、彼女との間に出来たトロイノイを殺せなかったことを知った日も数えるとすれば、会う前から承知の上です。


「どんな理由であれ、私はトロイノイがいい。トロイノイ以外なんて余程の事態です。トロイノイ、私と……恋仲になりませんか」

 トロイノイは私の告白を受け入れてくれましたが……、ウリッツァへのあれも告白すべきだったかもしれないと、寝る前になって気付きました。……起きたら早めに言うとしましょう。

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