第47話 墓前にて

 戦闘、逮捕、聴取、その他もろもろを終えてやってきた冬の中節の最終日たる二十九日、しくも先代聖女マナの誕生日に、彼こと完璧すぎる大魔導師オーバーパーフェクトオーバーウィザードロリアス・パソビエが処刑された。

 モンス島の死刑執行方法は縦長の箱の中に刑を受ける者を寝かせ、その箱ごと炉に入れて焼く方法である。

 焼かれた後に残るものは、受刑者の遺灰と受刑者が入った箱だけである――もっとも、ロリアスは魔王因子の持ち主なので、食べると因子の能力や記憶を受け継げる丸いキャンディの入った瓶も残される……のだが、

ロリアスのキャンディ瓶の中には、骨すら灰にする高温の中にいたにも関わらず丸い形状を保っているキャンディの他に、ロリアスの姿を模したと思われる小型の人形が入っていたとか――。



 それから一週間後、雨の中ロリアスの墓前にひざまずいて手を組んでいたのはヴィーシニャだった。

「風邪ひく気?」

 そう開いた傘を自分とヴィーシニャに差し、雨具も着込んだトロイノイが言う。

 ヴィーシニャはトロイノイが来るまで傘も差さずに跪いていた。そのせいで服が雨で張り付き、グラマラスなボディラインを――よく見たら胸の突起も――強調している。

 ……もしトロイノイなどの女子以外が来ていたら、どうなっていただろうか。


「それにしても、あたしがロリアスの誕生日にここへ来て見かけてからずっと気になってたんだけど、一体誰よ……白いアザミの花束なんてもんを持ってきた奴は……すっごいトゲトゲなんだけど」

「えっと、実はその日の朝、マギヤと一緒にここへ来た時、マギヤがその花束を置いたの」

「あー、マギヤか……。わざわざこんなトゲトゲの花を贈るって、どんだけロリアスを恨んでるの……いや、恨まれて当然の所業をしたロリアスもロリアスだけど」

 トロイノイとヴィーシニャが話し合う間も、雨は降り続けている。

「……? トロイノイ、なにか言った?」

「……なんでもないわ。プリストラからお風呂沸かし終わったって連絡が来たから、早く帰りましょう」

 実はトロイノイはロリアスが処刑される数日前、聖女邸での自室の机に自分あての手紙が置かれているのを見つけ読んでいた。内容は次の通りである。



トロイノイ・ロクエへ

 今キミがこれを読んでいるってことは、キミやキミの仲間達がボクに打ち勝ち、ボクは処刑を待つ身になっていることだろうね。

 キミは今日まで自分の父親についてエリーから何か……聞いてたね、そういえば。

 あの時マギヤくん越しにキミの話を聞いてたけど、正直かなりびっくりしたよ。

 まさか、エリーがあの話を持ち出すなんてね。

 そう、キミの父親は、このボク、ロリアス・パソビエだよ。証拠としてDNA鑑定書も付けておいたから、この行を読んだらすぐ目を通してね。

 エリーはボクに何も話さないで……もしかしたらボクが仕事に励むあまり話せなかったのかも……、キミを産んで、ボクはショックで……マナにあんなことをしてしまったって、あとで聞いたよ。

 生まれたキミは、なんにも悪くない、悪いのは全部ボクなんだ。

――この一枚目の便箋の後、自分がいかに悪辣でどうしようもない人間であるかを書き連ねた文や、自分は肉親に欲情したり、悔い改めたるべき今までのことやトロイノイに読まれることを想像してたらムラムラして自慰に及んで声が出るほど射精したりしちゃう変態だ、など、二枚目の便箋の表裏両面に、自責の念たっぷりの懺悔や謝罪の言葉が変態的なまでにびっしり書かれている――

 もっとも、キミがボクと死にたいって言うなら、「あたしはロリアス・パソビエの娘」って名乗り出ていいよ。ボクは止めない。

 キミと死ぬ未来は、ずっと前から想像してたし、何度か実行に移そうと考えたこともあったけど、結局出来なかったから……もし実行してたら今この手紙を書いてないとか、そんなことを考えてもしょうがないよね。

 最後に、この手紙を読みきり、キミがボクと死なない道を選んだら、この手紙とDNA鑑定書、あと、聖女殺しの血縁者探しが続く五年の間だけDNA鑑定でボクの娘と判定される運命は、全て消え去るよ。

 死んでもキミを愛している ロリアス・パソビエより

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