第33話 冬の……ゅう節の三日

 チェルシーは彼と出会って比較的すぐに、自分の誕生日が彼の家で目覚める前日だったと告げるついでに、彼の誕生日を聞いていた。

 そしたら、彼は「冬の……ゅう節の三日」と答え、その直後、s音かt音か尋ねられたら少し悩んでt音、つまり中節と答えた。

 今日はその冬の中節の三日……から数週間前の日である。

 誕生日プレゼント何がいい? と尋ねるチェルシーに彼は、「……キミがいてくれるだけでいい」とあくまで無欲を装う。

 彼はチェルシーに、無断で外出しないことと、いくつかの家事やおつかいなどをすることを条件に衣食住を保障している……固い言い方だが、概ねそんな感じ……。

 現状のチェルシーにお願いしてもらっていること以外の願いがないわけではない。

 だがしかし、彼はそれを願うのは今ではないと、そう何度も何度も己に言い聞かせている。

 だからチェルシーがそばにいること以外、いや、そばにいること以上を求めないのだ。



 そんなこんなでやって来た冬の中節の三日。チェルシーは今日の彼のためにミサンガを編み、彼に手渡した。

 モンス島には、本気で願望成就させたい人のためのミサンガ専用の糸が売っている。

 願いを込めながら糸を編み、着ける前に願いを念じるなり言うなりすれば、その願いを叶えるにふさわしい色になり、ミサンガの位置も決まるのだ。

「わたしの願いはロ……スの願いが叶うことだから……」

 何を願っているのか、言える範囲でいいから教えて欲しいと乞うチェルシーに、彼はその願いを告げる。

「ボクの、願いは……これから来る戦いで望む結果を得ること」

 チェルシーの、え? の言葉をよそに、ミサンガは赤と黒に染まり、彼の右足首へ向かう。

「ねぇ、チェルシー……もしボクがその戦いに勝ったらキミを……ボクの好きにしてもいいよね?」

 そう言いながらチェルシーの首の後ろに両手を回して、まっすぐにチェルシーを見つめる彼。

「ロ、ロ……スが勝ったら……う、うん!」

 その言葉を聞いて彼は、チェルシーへ半歩進み、お互いの胸を触れあわせるように抱きしめてチェルシーの耳に囁く。

「……その日が近付いてきたらもう一回確認するから……忘れないでね」

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