第35話 Posobiyeとウリッツァ

 ウリッツァは聖女親衛隊及び警察組織から任務を受けて「手作り人形 Posobiyeパソビエ」に一人でやってきていた。

 ちなみに他のウリッツァ班員は、パソビエの名を聞いて主にマギヤが、あの人に警戒されるかもしれない、と危惧したのを理由に別の仕事に当たっている。

 この店の開店時間の午前中に話を聞くべき人物がいると聞いたウリッツァは、店のショーウィンドウ越しに見知った顔がレジ台の後ろに座っているのを見つけた。

 白っぽい金属の円いピンバッジのついた灰色のキャスケットからのぞく前髪は眉辺りでまっすぐ切り揃えられていて、後ろ髪は肩にかからない程度の長さで、店の出入口とショーウィンドウを交互に見つめる緑色の瞳は眠そうに伏せられてて……要するにかき氷とかの少年である。



 ウリッツァが入店する際、ベルがチリンチリンと鳴り、少年のいらっしゃいませー、 と言う平坦な声がかかる。

 どの人形もすごいな……と言いながらウリッツァが人形を眺めていると、その左斜め後ろから少年が話しかけてきた。

「……ボクが作った人形もあるんですよ」

「え、そうなのか?! どれだ?」

 この辺全部です、と少年がウリッツァの目の前のケースに入れられた人形達を指差す。

 その場で生きているような精密な人形達を見て、ウリッツァは「へえ~、すっげえな少年」と感嘆の言葉を漏らす。

 ウリッツァにそう言われて少年は一瞬、目を丸くし、少年から見て左に視線を向けた直後、一言。

「……『少年』って呼ばれる度に思うんですけど、ボクをいくつだと思っているんですか?」

 そう聞かれたウリッツァは、しばらく少年を見た後、高く見積もって十二~三歳ぐらいと思っているが、と正直に答える。

「ああ……でしょうね。

……ボク、これでも二十歳はたち超えてるんですけど、初めてボクを見た人は皆、十代前半とか、二十歳以上って前提ヒントをあげても二十代前半に偏っちゃって……ってそんな話を聞きにわざわざ朝から来た訳じゃあないでしょ? 用件はなんです?」

 ああ、そうだったな……とウリッツァは呟きながら聖女親衛隊上層部やマギヤに言われたことを思い出す。


「オレは少年に、完璧過ぎる大魔導師オーバーパーフェクトオーバーウィザードについて話を聞きに来たんだ」

「オーバーパーフェクト……ああ、ロリアス・パソビエのことですか」

「しょ、少年、どうしてロリ……、ロリ……!? どうしてその名前を言えるんだ?!」

「……ボクの父がロリアス……さんのお兄さんだから。この敷地にいる身内には名前を呼べるようにしてるみたいです。

じゃないと毎回オーバーなんとかとか称号で呼ぶの不便でしょって。

で、ロリアスさんの何を知りたいんですか? 十年前? 十五年前? まさか学園生時代とか幼少期とかまでさかのぼりますか?」

「少年が知ってること全てだ」

 ウリッツァの強気な言葉に、少年は数十秒呆然としたあと、こう提案する。

「……奥で話しましょう。ボクの知る全てとなると、かなり長い話になるでしょうから」

「店番はいいのか?」

「大丈夫ですよ。がやってくれますから」



 それでウリッツァは少年からロリ以下略の話を聞くことになったのだが……。

「じゃあ、まずは今から十五年前の夏の終節二十六日の……」

「当時医者だったロリさんが検査入院中の元聖女マナ様の寝込みを襲った話なら知ってるぞ?」

「じゃ、じゃあ、今から十年前の夏の終節初頭や冬の中節の二週目以降などで……」

「ロリさんが何度も高所から落ちたり動脈切ったりと自殺未遂をしては元聖女マナが検査入院した部屋に運ばれた話なら、この前調べたぞ?」

「……そっちから質問があるならどうぞ」

「今年いっぱいのロリさんは、少年から見てどんな様子だった?」

「ええ? ……夏の……中節辺りは生意気巨乳女三人を触手でいったぶっれる~とか言って上機嫌な感じでしたけど、冬に入ってからは、いつも通りボーッと仕事とかしてましたね」

「普段通り過ごしてて、なんでここにこの人が!? って思ったことはあったか?」

「……ありませんね」

「あと、もう一個だけいいか? ……オレ、多分今まで一度も少年に名前とか職業とか名乗らなかったけど、少年はオレが何者か知ってるのか?」

「……ウリッツァ・サンクトファクトルさん、年齢十六才。聖女親衛隊日常警護部実働班の一つ、ウリッツァ班班長で、今日、他の班員はロリアスさんを警戒して別の仕事をする……ってロリアスさんから聞きましたけど、ボクじゃなく本人が出てきて、戦う事態になったらどうするつもりだったんですか?」

「……応援要請を、する?」

「……そうですか、もう質問がないならお帰りください。……昼食、取りたいんで」

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