黒幕との対決へ

第40話 あの日のウリッツァとドン班の正体

 ウリッツァ異変の翌日、ウリッツァ本人はと言うと自分のベッドで丸一日寝込んでいた。

 以前、体内魔力量を使いきったら気絶すると言ったのを覚えているだろうか。

 単に体内魔力量を使いきっただけなら、しばらくすれば起き上がれるが、何らかの理由で本来の魔力量の倍以上を使った場合は、その倍数――端数が出たら切り捨て――×十二時間寝ないと起き上がれないのである。

「ごめんなさい、ウリッツァ……。貴方に、本来の、二倍以上の、魔力を、使わせて……。私の、牽制けんせいが、及ばなかった、ばっかりに……」

 ウリッツァの耳元で謝りながら腰を打ち付けるマギヤ。え、マギヤが何をしてるかって? ……突っ込んでいるんだよ、どこに何を、とは言わないけれど。



 その翌日、あの彼――中身はウリッツァ――が飛ばした伝書鳩がプリストラやトロイノイに、そこから聖女親衛隊上層部に届いたことで、ついに先代聖女マナを死なせ、現聖女ヴィーシニャをさらった、あの完璧過ぎる大魔導師オーバーパーフェクトオーバーウィザード、ロリアス・パソビエの元へ向かうことになったウリッツァ班及び聖女親衛隊の面々。

 作戦会議の結果、彼の本拠地たる家に日常警護班の面々は関係者入り口から、聖女親衛隊の精鋭達は店の入り口から突入し、彼や聖女ヴィーシニャを見つけ次第、確保することになった。



 そのさらに翌日、つまりウリッツァ異変から三日後、聖女親衛隊日常警護班は、ウリッツァ班とドン班、ザヴィー班とフィー班――リカ班はまだ目覚めないので、参加したのは、この四班だけ――の二手に別れて、ロリアス・パソビエ及びヴィーシニャ・サンクトファクトルの居所を探ることになった。

 ウリッツァはロリアスの体ごしとはいえ、ロリアスの家を体感した身であることから、ウリッツァ班とドン班の満場一致で瞬間移動テレポート役を任された。

 二班の先頭側になったドン班。その最後尾にいるドン班長にウリッツァは声をかける。

「なあ、ドン。お前とプリストラとの部屋や他のドン班メンバーがいる各部屋と、例のあの人、ロリアスの家が鳩で繋がってたみたいなんだけど、どういうことなんだ?」

 そう声をかけられたドンは立ち止まり、ついでに前を走っていたドン班員も止まっていく。

「……おれたちドン班は、ロリアス・パソビエに代わって、今の聖女親衛隊の現状把握と、班員などのコントロール、ロリアスが何らかの理由で現聖女の誘拐を延期した場合の誘拐代行や、誘拐疑惑の隠蔽いんぺい、そしておまえたちウリッツァ班の実力把握と強化のため、ロリアス・パソビエに存在だ」

「それにしても、黙っていれば俺らを不意討ちするのも可能だったはずなのに、ちゃんと班長に声をかけるなんて、律儀と言うかなんと言うか……」

 ドンの告白と後衛位置への瞬間移動テレポートのあと、ダブルクロスボウを構えながらウリッツァの何かを皮肉るクワト。

「単に馬鹿ってだけよ。同じ頭文字ウとして、恥ずかしい」

 ウリッツァに妙な、いや、理不尽な責め文句を口にしながらウリッツァ班側へ進んでいくウーリュ。

「んもぅ、辛辣だなぁウーリュは。けどまあ、今回は、それにちょっとだけ賛成かな?」

 そう言って、よいしょっと、の一声で金棒を構えるアイン。

 ドン班と同じく、ウリッツァ班も各々の武器を構え、いつぞやぶりのドン班とウリッツァ班の戦いの火蓋が切って落とされた!



 ウリッツァ班とドン班が激突している頃、ザヴィー班は、触手生物の触手に身体を弄ばれていた。

 女子一同は言わずもがな、紅一点ならぬ白一点の班長ザヴィーも弄ばれていた……全員まだ着衣なのは幸いか。

 いや、着衣と言えど、触手に身体をまさぐられたり、服の隙間などから侵入され素肌や下着の上を這われたりして何も感じないはずがない……羞恥的にも、肉体的にも……。

 フィー班は、そのザヴィー班を救おうと懸命するが、うじゃうじゃ湧き出す上に斬ったり燃やしたり、フィー班の思い付く限りの攻撃を受けてなお復活する触手や、フィー班各員にも絡み付こうとする触手の対応に難儀していた。


 店の入り口側に聖女ヴィーシニャ等、特に目ぼしい何かがなかったので、日常警護班の応援へ向かおうとした聖女親衛隊の精鋭達は、フード付きロングマントで金色の杖を持った何者か――顔はフードでよく見えない――たった一人を相手に大苦戦を強いられていた。

 なにせこの何者か、攻撃にも防御にも全く無駄がない。

 身長の百分の一から身長の二倍の長さまで伸縮自在の金色の杖は多種多様な魔法の起点であり、それなりの長さにして正面で回転させれば強力な防御手段の一つになり、変幻自在のなかなかの武器でもある。

 精鋭たちの魔法や射撃もマント一つで無効化したり、はね返したりで何者かには全く届かない。



 いつぞやの班対抗戦よりそこそこ長い戦いの末、ウリッツァ班はドン班を撃破した。

 そしてザヴィー班らなどとは対照的に罠や触手の類いに出くわすことなく、ウリッツァ班は最深部である大部屋の奥で背を向けて立つロリアス・パソビエを見つけた。

「ああ、やっと来た? あと一分待っても来ないようなら迎えに行こうかと思ってたところだよ」

 そう言ってウリッツァ班に向き合いながら微笑みかけるロリアス・パソビエ。

 いつもの白っぽい金属……プラチナの円いピンバッチが付いた帽子、いつもの髪型、いつもの顔、いつもの服、いつものブーツ。

 ロリアスの格好の内、いつも無い物は二つ。フードの付いたロングマントと彼の背丈と並ぶ金色の杖。

「「「あれが……」」」「あの人が……」

「少年……!」

「ヴィーシニャさらい……!」

「ローレンス……!」

「ロリアス・パソビエ……!」

「さあ、ボクを倒してみせろ、ウリッツァ、プリストラ、トロイノイ、そしてマギヤ!」

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