見つけた、ずっといた。
第38話 『彼』の名は。
ウリッツァの体がウリッツァではない誰かに乗っ取られていた同日の朝、やっと目を覚ましたウリッツァが見たものは、白濁まみれの金髪翠眼の美少女の顔だった。
「誰?!」
ウリッツァは自分が発したはずの声に覚えがあった。あの少年の声だ。
発声前後の呼吸ついでに、栗の花だの、さらし粉だの、イカだのと例えられがちな精液の臭いをこの上なく感じた後、自分も目の前の美少女もほぼ全裸体な上に、棒と穴が
ウリッツァはいろいろ気になりながらも、とりあえず棒を抜く。
すると、穴から大量の白濁がこぼれ落ち、例の棒はまた
ウリッツァは、そのへそを超さんばかりの長さに釘付けだった。
――――射精を喉奥で受け止め飲み込んだ後、ウリッツァは改めて目の前にいた美少女の顔を見てみる。
下ろされた金色の髪、かの白濁がなじんでみえる白い肌、大きく見開かれた緑色の瞳。
ウリッツァは、この美少女が少年の作った人形か、まさかの本物か確認するべく、あのー、もしもーし、などと呼びかける。
……返事がない。刺激を与えて起こす作戦に切り替えて彼女に触れた刹那、ウリッツァは彼女の体が温かくないことに気付く。
ちょっと失礼しますね、と脈拍を確認すると……脈は無かった。
瞳のそばに火を近づけても何の反応も示さない。……ウリッツァは考えた末、彼女を少年の作ったその場で生きているような精密な人形だと思うことにし、彼女のあちこちにいっぱい付いていた精液を、そばにあったちり紙で拭う。
彼女の左脇の下に魔王因子の紋章があることや女性器――ウリッツァは童貞なので本物を直接見たことはない――を始めとした体の各部に少々ドキドキしながら彼女をきれいにした。
ウリッツァは自分の着る服を探すついでに辺りを見回すと、天井がいつもと違って高いことに気がつく。
これが少年の見てる世界か、ウリッツァがそう思いながらキョロキョロしていると、椅子に座った先代聖女マナの人形――人形というよりはぬいぐるみに近い形状だが――近くに下着類と服とエプロンがきれいに畳まれているのを見つけた。
なんやかんやで、ちゃんと服を着れたウリッツァはマナ人形を持ち上げて見る。
ぬいぐるみ状でもなかなか精巧だな、とあちこち
オレ特に魔力とか込めてないのに! ウリッツァは、そう言いながら自立しないマナを壁ドン状に支えつつ戸惑っていると、部屋の入り口をノックされる。
「ロリアス、起きてる?」
「え、ロリ……アス? オレが? ってかその声、まさかヴィーシニャ?! いやそれとも……声が似てる別人?!」
数秒の沈黙ののち、入り口の向こうから、ウリッ……ツァ? と返事が来る。
「ど、どうした、ヴィーシニャ
ウリッツァは、とりあえず壁ドン状態のマナをお姫様抱っこし、ベッドにそっと寝かせた後、部屋の鍵と扉を開け、誰が来たのかちゃんと確認する。
白いワンピースがよく似合う、背中にかかる長さで桜色のウェーブがかった髪と、髪とお揃いの色の瞳と唇を持つ美少女……間違いない、ウリッツァ達が探していた聖女ヴィーシニャ本人である。ロリアスから見ると、ヴィーシニャの方が少しだけ高く見える。
「……あれ、ブーツ履かないの?」
「? ……あ」とウリッツァは自分が靴下しか履いていないのに気が付き、履き物を探すとベッド近くに、少年のブーツがあるのを見つけた。
それを履くべく、ベッド上の女子二人をちょっとごめんな、と言いながら奥側へやって、座るスペースを確保し、右足から入れると、中に細い異物感を覚えた。
ブーツを逆さに振ると、赤と黒の切れたミサンガのような物が入っていた。
ウリッツァが、それを拾い上げて、なんだこれと言った後、ヴィーシニャは「あ、それ……」の後、こう続く。
「ロリアスへの誕生日プレゼントだったんだけど……切れ、たの……」
ヴィーシニャの言葉が途切れ途切れになった理由。それはウリッツァの……正確にはロリアスのベッドの上で、全裸な上に開眼しぱなしの金髪翠眼の美少女と、服を着て目を閉じている先代聖女マナが寝転がっていたから。
ウリッツァはもう片方のブーツを履いて立ち上がり、自分と同程度の高さになったヴィーシニャの表情を見て、今度はどうしたヴィーシニャ? と心配する。
「えっと、その二人は……?」
「オレもよくわかってないんだけど、少年……ロリアスの作った滅茶苦茶精巧な人形達じゃねーの? マナ様人形の方はちょっと前までぬいぐるみ型だったんだけど、突っついたらなんかでっかくなってさ。特に魔力とか込めた覚えはないんだけど……」
などと言うウリッツァの言葉を受けて、ヴィーシニャは二人に一人ずつ触れてみた。
「……じゃない」
ヴィーシニャが二人に触れた後、震える声でそう呟く。ウリッツァは、え? とヴィーシニャの顔を覗く。
「二人ともロリアスが作った人形じゃない……。ロリアスが、ロリアスが……二人を……死なせて……多分因子の能力で、人形に……。しかも……何度も、人形じゃない状態で……え、エッチな、ことを……」
その言葉を聞いたウリッツァはこの体で服を着る前、勃起するアレのついでに黒い王冠の紋章が左脇腹にあるのを見ていたことを思い出す。
そしてウリッツァは今までウリッツァ自身の体で見聞きしたあれこれも思い出し、ヴィーシニャに改めてこう尋ねる。
「ヴィーシニャ、もう一回教えてくれ、この体の持ち主のフルネームを……!」
「この家で初めて目覚めたとき、『ロリアス・パソビエ』って名乗っていたわ……」
「……この家、全部調べよう……!」
ウリッツァがそう決意を固めた直後、二人の腹が鳴る。
「朝ごはん食べたら……!」
今日の朝ごはんは、昨日二人――ウリッツァがその人数を聞いて、ロリアスの双子の兄とかにローレンス・パソビエって奴がいないかとヴィーシニャに聞いたら「いない」と返された――で作りおきしたと言うおにぎりと玉子焼きと野菜の味噌汁である。
「それにしても……果物ジュースの種類量すごかったな……二人で飲みきれるのか?」
「ロリアスがノンアルコールカクテルって言うのに凝ってて、時々何種類か混ぜて飲んでるから意外と大丈夫」
そう話しながら食器の片付けが終わった後、二人が向かったのは二階のサンルームである。
というのも、ウリッツァがヴィーシニャにこの家で鳩がいる場所を知らないかと尋ねたからだ。
ヴィーシニャの言うとおり、サンルームの片隅に大量の鳩がいる小屋があった。洗濯物を干すついでに、彼がよく鳩に手紙や小物を持たせて飛ばしていたと言う。
「ずいぶん大人しい鳩だな……」
目は開いているのだが、ウリッツァが餌を置いた手の平を差し出しても、もう片方の手でつついてみても、ちっとも動かない。ヴィーシニャがそっと鳩達に触れてみる。
「この鳩達は全部ロリアスが作った人形で、用があるときに魔力を込めてあちこちに飛ばしてたみたい」
そっかーと呟きながらウリッツァはドン、アイン、クワト、ウーリュ……ドン班各員の名前のついた鳩がいるのを見つけた。
「ヴィーシニャ、ドン班のこと覚えてるか?」
「覚えてるって言うか、朝ヴィーシニャって呼ばれて思い出したけど……なあに?」
「この鳩達ってさ、ドン班と関係あるか見てくれねぇか?」
そう聞いてヴィーシニャは鳩達に触れる。
「うん。それぞれの名前の通りの部屋に鳩が行くみたい」
その後、本物のロリアスから入らないように言われていた部屋を調べたり、部屋の中のあれこれを調べてたりして知ったことを、読んだ者を発狂させない範囲でまとめあげ、ドンとアインの鳩に託す。
夜の入浴時間、ウリッツァは自分の……少年、ロリアス・パソビエの左脇腹に魔王因子の紋章があるのを鏡と目視でしっかり確認する。
それと同時に、夕食中、ロリアスの年を聞いたことあるかと、ヴィーシニャに尋ねた時を思い返す。
「会ったその日にロリアスの年を聞いたら、キミの年を聞いたら教えるって言ったの。それで昨日十六になったって言ったら『じゃあその二倍以上だね。もう少し早く引き取ってたら三倍ピッタリだったのに』って言ってたから多分四十五……あ、待って。この前誕生日迎えたから四十六歳ってことに……」
こうしてちゃんと髪や顔や裸を見ていても全く四十半ばの男とは思えない。
色こそ黒に近い灰色――生まれつき桜色とか金色、銀色の髪だとしてもあまり話題にされない世界なので元からかもしれない――ではあるが、髪そのものは部分的にも全体的にも薄さがないサラサラストレートを維持している。
顔立ちも童顔で中性的で整っていて、本人が実年齢を言わなければ少年と誤解する者が大多数になるだろう。
それに裸も……朝にも見たと言えば見たが、あの棒に夢中で他の部位はあまり気に止められなかった……全体的にムキムキは言いすぎなものの、余分な肉のない引き締まった体つきをしている。
そして風呂から上がって、彼もといウリッツァは、先代聖女マナの綺麗な遺体と、ヴィーシニャも心当たりがないという金髪美少女――寝る前に金髪美少女の服を探すだけ探したらピンクのロリータ服が見つかったのでとりあえず着せた――の遺体と同じかけ布団を共有し、眠った。
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