#014-第三話「役者は揃った」

 俺たちは反射的に立ち上がり、顔を見合わせた。時刻は二十三時半。さすがのリオさんも、顔に緊張の色が浮かんでいる。


 二人で手を繋いで玄関の所まで行き、慎重にドアの外の気配を窺う。その時、またチャイムが鳴った。


 明らかにドアの外に誰かいる。……は、当たり前か。


 意を決してドアノブに手を掛ける。腕の筋肉が強張っている。俺の背中にリオの両手を感じる。何らかのパワーが流れ込んでくるような感じすらある。情けないことに俺はちょっとだけ震えていた。それでも何とか苦労して、カギを開けてドアノブを捻った。


「……姉ちゃん?」

「先生?」


 ドアの向こうで俯いていたのは、姉だった。


 俺は慌ててドアを閉めて、チェーンを外してまた開ける。


 姉は無言でおずおずと入ってきて、そしてローソンの袋を俺に突き出した。中にはお菓子と……クリアファイル?


「わぁ、ローソンのお菓子キャンペーンのアレだよ、ハルくん」


 俺にもそれはわかる。それはまどマギのクリアファイルだったのだから。


「姉ちゃん、どうしたの、これ」

「あの、ごめんねってことで……」

「そういうのは別に良いんだけど、お菓子はもらうよ」


 俺は姉を部屋に上げる。そして三人でなんとなくリビングの中央に棒立ちになり、なんとなくそれぞれのスマホや腕時計を確認した。二十三時四十五分。あと十五分である。


 俺はイナバウアーさんのケージの横にしゃがみこみ、横目で俺たちを見つめているイナバウアーさんに声を掛ける。


「なんか変なことに気付いたら教えてよ、イナバウアーさん」

『おう。……と言いたいところなんだが』


 ダンディな声だが歯切れが悪い。


『安倍晴明がせっせと施した結界のおかげで、俺たちのネットワークが断線してやがるんだ。仲間のウサギどもの情報網に頼れない以上、俺の感覚はあまりアテにならんぞ。寄る年波には勝てねぇってこったな』

「そんなこと言わんといて下さいよ。イナバウアーさんの超感覚的なものが頼りなんですから」

『イイトシした人間が、老いぼれウサギになんざ頼るもんじゃねぇぞ。それよりもだ、日が暮れてから、あのキツネの気配が全くしねぇ』

「ハルアキが!?」


 思わず声に出した俺を、リオと姉が振り返る。二人は座って、無言でガラナを飲み始めていた。ある意味なんだか殺気立ってないか?


 ともかくも俺は、イナバウアーさんの言葉を二人に通訳した。二人は顔を見合わせて「どういうことだろう」と呟き合う。


『だが気を付けろ。俺のウサミミセンサーが、危険をビンビン伝えて来てやがる』

「危険を……?」

『まぁ、ラスボスが降臨するだろうからな。心しておけよ、小僧』


 ラスボス、か。


 なんとなく予想はできるけど。


 でも……。


 ―― 伊弉冉イザナミハ、コノ世ノコトワリヲ破壊セントスル反逆者デアル。


 蛇のようなもの――黄泉醜女ヨモツシコメの言葉が脳内で再生される。


 俺はそのあたりのことも踏まえて、リオと姉に一通り説明をした。リオは聞くのは二度目だが、それでも神妙な顔で聞いていた。


 そうこうしているうちに時間は過ぎ、いよいよもって決戦の日――五月二十二日に突入した。

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