#013-第二話「花吹雪と予定調和」

「予定調和……?」

『いわば、神の自作自演。もっとも、彼女ら自身がそれに気付いているかといえば、はなはだ懐疑的にならざるを得ぬが』


 ええと、つまり……。


 俺はハルアキの言葉を脳内で必死に整理する。


「つまり、俺とアハシマを巡るあれやこれやの出来事には、ツクヨミアマテラスの希望のようなものが反映されていて……?」

『そういうことになるのではないかと、我は考えておる』

「冗談じゃないよ、それ。俺たち、神様の夢に付き合わされてるってこと?」


 思わず憤慨した俺の顔を、白キツネはじっと見つめている。その眼力に、俺は思わず息を飲む。


『森羅万象、事物は悉皆しっかい、神の夢の内にあると言っても良い。我はそう思うのだ』

「神の夢の内……?」

『うむ。そして神とはまた、人の夢によって生み出された存在』

「つまり、人間の夢でもある?」

『そうとも言える。お主は思わぬか。なぜこの宇宙に於いて、この惑星に人が存在するのか。なぜにこうも都合よく、大いなるこの宇宙は、この惑星をここまで人に適したように調整したのか。人が此処に存在するために、宇宙は……畢竟ひっきょうするに神が、神々が、斯様かようにこの世界を創ったのだと考えることもできるのではないか』


 白キツネはゆっくりと桜の木の方に頭を巡らせた。俺もつられてそっち――ツクヨミの方を見る。


 ツクヨミはいつの間にか、木の幹に背中を預け――つまり、俺たちの方を見て――佇んでいた。俺たちが見えているのかはわからない。ただ、ぼんやりとした表情で、霧に包まれた俺たちの方を眺めていた。その赤い瞳はハッキリとわかるほどに潤んでいて、目の周りは真っ赤になっていた。やはり泣いていたのだ。


「ハルアキ、ツクヨミには俺たちの姿は見えていないの?」

『わからぬ。ここは我とツクヨミが共有する記憶の内。なぜに貴様が此処にいるのかの方が疑問ではある』


 それもそうか……? よくわからないので、適当に頷いておく。


『我は――』


 その時、いきなり強い風が吹いた。それまで全く無風だったのですっかり油断していた俺は、舞い散る桜の花びらに、視界も呼吸も完全に塞がれる。


アマテラス姉上……」


 ツクヨミが花吹雪の向こうで呟いた。

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