#011 神の決意

#011-第一話「天照の望み」

 ここにこんな大きな木、あったっけ?


 アマテラスに導かれて辿り着いた先にあったのは、本当に見事な桜の木だった。淡い桃色の花が、これでもかと言わんばかりに咲き誇っている。風が吹くたびに幾枚かの花びらが散り、ふわりと舞っては何処かへと消えて行く。


 見慣れた景色であるはずなのに、この桜の木は全く記憶にない。


 俺とボク神様は、道路の真ん中で、無言でその木を見上げていた。


「この木はな、とうの昔に朽ちたものだよ、ハルくん」

「え?」

「ここで朽ちたのかもしれぬし、他の地で朽ちたのかもしれぬ。場所などさしたる意味はない。なれど、もうすでに何処いずこにも存在せぬ樹木」


 そんなことも起きるのかもしれない。そういえばここ、ハルアキの結界の中だって言ってたし。


「或いは……はるあきの内にある、思い出の木なのかもしれん」


 そう、かもしれないな。


 俺は満開の桜の花が、まだ冷たい初春の風に揺れるのを眺める。


「ハルくん。お主はこの桜木に何を想う?」

「何って……」


 なんだろう。美しいなとか。やっぱり桜は日本の心だよなとか……?


「それはなにゆえ?」

「ええと……そう感じるから。それ以外、説明のしようがないよ」

「そうだろうな」


 ボク神様は静かに頷く。


「僕にも、なぜ僕が、僕たちが、人を斯様かように愛してしまったのか。説明はできぬ。ただ、知ってしまっただけで、なにゆえここまで思い惹かれるのか、神たる僕にも……わからぬ」

「そういうものなんじゃないのかなぁ」


 俺がリオに惹かれるのも。姉ちゃんを愛しているのも。どうしてかだなんて、説明なんてできない。ただ、そうあるべきだからそうなっている。そんな気もする。だけど、理由はどうあっても、二人のことをこれ以上出来ないというくらいに愛しているのは本当のことで。


 そんな風に思っていると、アマテラスはふっと口角を上げた。


「事実は事実、か。まるで物事がそこに在ることの理由のようなものだな。理由はどうあれ、存在は事実。否定することなどできぬ、と」

「んー」


 たぶん、そうだ。


 ボク神様は小さく頷いた。


「さっきの話に戻そうか」

「さっきの?」

「僕の抱いている望み」

「ああ」


 俺たちは桜の木に寄りかかる。アマテラスは俺の左手を握りしめたままだ。


「それはな、ハルくん」


 ボク神様は俺を見上げる。その静謐に輝く美しさに、俺は思わず息を飲む。


、だ」

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