#006 どこが好き?

#006-第一話「パートナーに求めるもの」

 結局、動物園には夕方五時、涼しさを通り越して寒くなる頃まで居座った。動物たちは午後二時には完全に見終わっていたのだが。残り三時間はだらだらと売店のココアなんかを飲みながら、点々と場所を移しつつ、各自の恋愛トークなんかに花を咲かせた。俺? 俺は聞き訳ですよ、そりゃ。これはもう女子会みたいなもので、実に取り留めのないようなものから真面目なものまで密度高く展開されたわけだけど、それを書いていると軽く十万文字を超えてしまいそうになるので割愛する。


 ……と、完全にかっ飛ばすのもアレなので、要点をまとめると……。


 黒井さんは、案外純粋(というか夢見る乙女的)な発想の持ち主であることがわかった。中林さんはというと、一見すると頼られたい属性の持ち主なのかと思われるのだが、その実態はまるで逆。何をしても受け止めてくれるような、甘えさせてくれる人こそがタイプであることがわかった。リオはというと、ずばり「ハルくんみたいな人じゃないと、っていうか、ハルくん以外ありえないし!」であった。ありがたいんだけど、すごく気恥ずかしい。


 とか、まぁ、そんな具合であった。


「まぁ、アタシもバカ鷹のこと好きだったんだけどさ」


 なんていう、黒井さんの爆弾発言も飛び出したりもしたが、リオは「知ってたよ~」の一言で片付けた。うん、俺も知ってた。といっても、それは高校一年生の時だけだろうけど。


「でも、おかげでアタシの恋愛対象はてめーみてーな野郎に限定されちまった。責任取れよ、この野郎」

「……んな身勝手な。無茶苦茶ですぜ、黒井さん」

「うっせぇ。てめーはモブキャラだけどよ、同じようなモブ探そうと思うと意外と見つかんねーんだよな」


 酷い言われようである。リオはケラケラと笑っていて援護してくれる様子はなかったし、中林さんは「なるほど」とか言っている。何がどうなって「なるほど」なのか、小一時間問い詰めたい気もする。言い負かされそうだけど。


「今だから私もカミングアウトするが、私も大鷹君はいい人だと思う。君のような人と付き合えたら、すごくいいだろうななんて思うよ」

「中林さんまで!?」


 意外な告白に、俺は口をパクパクさせた、と思う。


「俺はなんていうかさ、そんなたいそうな人じゃないってば」

「知っている」


 中林さんは悪戯っぽく言いながら頷いた。


「人生にフィットするか否か。パートナーに求めるのはそれだけだろう? 必要なのは容姿とか才能とか、そんなものじゃない。それは付随的な要素にすぎないのだ。それらのオプションを主として求める相手とする恋愛は、恋愛というよりはビジネスと表現するべきだろうと私は思っている」

「なるほどねぇ」


 俺とリオは同時に頷いた。


「私は恋愛経験なんてないが、大鷹君と鹿師村さんは、すごく良い関係に見えるよ。決して邪魔しようとは思えないし、邪魔しようとする人がいるというのなら、私はその人のことを心底軽蔑できるだろう」


 邪魔しようとする人……じゃないけど、いるんだよな。俺は心の中でこっそりと溜息を吐いた。


「ま、そういうわけだけどさ。おめーら、ちゃんとゴム買っとけよ。は社会人になってからやんなよ」

「お、おう」


 黒井さんの的確過ぎるアドバイスに、俺は視線を宙に彷徨わせた。リオは「あはははー」と乾いた笑いを漏らしている。黒井さんは意地悪く唇を吊り上げ、そして右手を上げて改札を通って行った。あっさりしたものである。


 中林さんもその後を追うようにして帰り、改札前には俺とリオが取り残される。待ち合わせの人たちも、次第次第に数を減らし、いつの間にか改札前は閑散としてきていた。


「俺たちも帰ろっか」

「そうだねぇ」


 リオは俺の左腕に、自分の右腕を絡めてきた。


「ハルくん、大好きだよ♡」


 リオは周囲に誰もいないことを確認して、そんなことを囁きかけてきたのだった。

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