#005-第四話「黒 vs 黒」

 歩くこと約十五分で、円山まるやま動物園の入口が見えてくる。周囲には俺たちと同じ経路で動物園に向かう集団もそれなりにいて、動物園の入場チケット売り場はかなりの活況ぶりを見せていた。


「チケット買うのに十分はかかりそうだね」

「お話してればすぐだよぉ」


 リオは振り返りながら俺の手を取った。俺はリオに導かれるまま、小走りになってチケット購入者の列の最後尾に並んだ。黒井さんと中林さんは、並んでマイペースについてきて、俺たちのすぐ後ろに並ぶ。


「見事な桜だったな」


 中林さんが自分のスマホを眺めながら、道程の感想を述べた。俺たちは揃って頷く。黒井さんも自分の真新しいスマホを満足げに弄んでいる。中林さんと黒井さんは道すがら桜の写真をたくさん撮っていた。思わず撮りたくなるほど、桜が美しく咲き誇っていた。俺も数枚、写真に収めている。リオの後姿と、舞い散る桜の花びらとのショットは、なかなかのお気に入りである。


 おびただしい数の子どもたちに包囲網を敷かれつつも、俺たちは何とか動物園の中への侵入を果たし、入ってすぐの所にあるセブンイレブンにて弁当を調達した。ここのレジの行列は、入口のチケット売り場のそれよりも長大で、決して広くはない店内の大半がその行列で埋め尽くされているほどだった。弁当にしてもジュースにしても、補充が全く追い付いていないという有り様で、さすがにこれには俺たちは閉口した。でもまぁ、ゴールデンウィークだし、桜は満開だし、動物園だし? それもまた、仕方ないかと、俺たちは苦笑を見せ合った。そもそも円山動物園内のこのセブンイレブン、週末ともなればだいたい行列ができている。それでも肉まんやホットドッグを切らさないあたりには、店員さんたちのプロ根性を感じるほどだ。


 動物園内は確かに人口密度が高かったが、それでもまぁ、身動きが取れないほどではない。座る場所の確保に難儀するくらいだ。そこここの草地で家族連れがお弁当を広げていて、よちよち歩きの子どもたちが転げ回って遊んでいる。


「おーい、みんなたちー、こっちがあいたよー」


 数メートル離れた場所で、リオがバッグから敷物を取り出しながら手を振っている。俺たちはさっそくそこに移動して、買って来たばかりの弁当を開封した。カラスが上空やそこらの木の上から、俺たちの手元を狙っているのがわかるが、そこは俺たち揃って札幌人。観光客のように易々とはやられはしない。


「あー、カラスうっせーな」


 同じ真っ黒な出で立ちの黒井さんが、弁当を死守しながらぶーたれている。実際のところ、カラスは動物園の新参者か子どもをターゲットにしているので、明らかに動物園経験者である大人の集団を狙うことはあまりない。


「こ、このカラスたちは、私を狙っているのだろうか」


 ……あ、新参者がいた。中林さん、初めてだって言ってたな。


「だいじょうぶだよ、絵里ちゃん。愛ちゃんが縄張り主張してるから、襲ってこないと思う」

「鹿師村、てめー、こら。アタシをカラスの仲間みたいに言ってんじゃねーよ!」

「だって黒一色じゃない」

「アタシの方が先に黒かったんだ!」


 無茶苦茶を言っている黒井さんである。だが、黒井さんが言うことは、白でも黒なんだろう。俺はホットドッグをモグモグやりながら、見目麗しき女子三名を眺めている。それぞれにタイプの違う美人なのだ。黒井さんもなんだかんだで(黙っていれば)綺麗な人なのだ。中林さんは知的な眼鏡美女だし、リオさんは……皆まで言うまい。


「中林さん、ザンギ気を付けて! 気を抜くとやられるよ!」


 そばの木から飛び立とうとしたカラスに気が付いて、俺はバッと左手をザンギの上に掲げる。中林さんは首を竦めて恐る恐る上を見上げ、黒井さんは「バカ鷹、素早いな!」と妙な賞賛を送ってくれた。リオはマイペースに肉まんを頬張っている。カラスの野郎は諦めて方向転換をして、アイスを持った小学生に襲い掛かっていた。すまない、名も知らぬ小学生。君のアイスはザンギの代わりに犠牲になったのだ……。


 そんな戦場的な光景が一日に数度は見られる素敵スポット、それが週末や連休中の円山動物園なのである。ここは動物の生態だけではなく、狩りのやり方や弱肉強食をも教えてくれる、そんな素敵スポットなのだ。札幌観光の際にはぜひお立ち寄りいただきたい。マルヤマン(←検索してくれ)も君を待っている。

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