#003-第三話「圧倒的なプレッシャー感」

 確かに、ハルアキの役割というのはそういうものだ。かつては、俺を問答無用で始末しようとしたほどだ。


「まぁ、それはそれで最後の手段として温存しておいてもらうとして――」

「ちょっとハルちゃん、それはダメだよ。ハルアキ、食べちゃだめだからね」

『……しかし、我には人類の未来への責任が』


 首を振るキツネに、リオは右手の人差し指をびしっと突き付けた。


「そもそも、ハルアキを復活させたのって、イザナミなんでしょ? イザナミはアハシマの受肉を画策してるんでしょ。それは矛盾でしょって」

『だが我は』

「ハルアキ、あなたはどうしたいわけ。諾々と神様の掌の上で踊っていたいワケ? 復活までさせられてさ」

『それは……』


 圧倒されるキツネ。リオはすっくと立ち上がり、キツネの前に仁王立ちになった。巨大なキツネが、リオの放つプレッシャーの直撃を受けて怯んでいる。


「千年とは言わないよ。五十年でも良い。アハシマをもう一回封印できないの?」

『……我は元の姿すら取れぬ程度の力しか、取り戻してはおらぬ。それこそあと五十年もあれば、ある程度の力は見込めるだろうが、今の我には……』

「でも、やるだけやってみてよ。あなただって昔は人間だったんでしょ。人類代表の一人としての資格ならあるはずだよ」


 リオはちゃきちゃきと場の空気を仕切っていく。俺は何を言うこともできずに、ただ頷いているだけだ。キツネも反論すら許されずに沈黙している。


「この物語の主役はハルくんだけじゃない。私たちみんなが主役なんだ」


 リオはキリッとした表情でそう言い放った。


 その時、テレビの前あたりに輝きが出現した。俺たちは思わず目を逸らす。


「みんなが主役。そうかもしれぬの」


 そこに立っていたのは、ツクヨミだった。相変わらずの和ロリファッションである。


「次の満月の日が、人類の運命を決めるじゃろう」


 ツクヨミは金髪を後ろに払いつつ、赤い目を細めた。そして俺をついと見る。


「ハルくんよ。何かしておきたいことはないかの。わらわにできることであれば、叶えてやろう」

「最期のお願い、みたいな扱いは御免だよ」


 俺は頭を掻きつつ答えた。


「俺はリオと結婚して、子ども作って、ずっとリオと一緒に生きていきたい」

「それ叶えなさい、ツクヨミちゃん」

「……それは」


 気圧されるツクヨミに、リオはなおも詰め寄った。


「神様でしょ。人ひとりふたりの運命くらい、どうにでもできるでしょ」

「お主らの場合、そう簡単には」

「あ、そ」


 リオは腕を組んで天井を睨み上げた。


「ならせめて邪魔しないでちょうだい、ツクヨミちゃん。私たちで何とかするから!」

「じゃが……」

「人間ごときにどうこうできるとは思えないとか言うんじゃないでしょうね。ここまで散々焚きつけておいて、やっぱり無理ですとか、そら出来ませんとか、そんな無茶苦茶言わないよね」

「神じゃぞ!? アハシマ兄上は今や最強の神の一柱じゃ。妾ですら正面切っては争えぬほどの力を持ってしまった神じゃ」

「だから?」


 リオが剣呑な表情と声で、ツクヨミに一層詰め寄る。


「私たちの想いの力は、の。誰にも邪魔させない、壊させない。私はハルくんから離れないし、私はハルくんを離さない」


 リオさん……。


 明快に言い切るリオのその横顔は、さながら戦女神ヴァルキリーのように凛々しかった。

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