上田親子の策略を推理するのよ!

 私は箕輪まどか。高校生の霊能者だ。


 G県警霊感課にエロ兄貴の娘で、私の姪でもある小町が加わった。


 小町はまだ零歳児だが、その霊能力は卓越しており、テレパシー能力においては、私の彼の江原耕司君のご両親を上回る程なのだ。


 敵である上田親子より、小町に脅威を感じてしまったまどかである。


 


 そして、今日は月曜日だけど、振替休日。


 私達は、江原家の道場に集合していた。


 富士の気脈を探っていた西園寺蘭子さん達が、今度は上田親子の居場所を探り出した。


「上田親子は日光にいます」


 蘭子お姉さんが私達を見ながら言った。日光?


「日光は東京だけではなく、関東全体の霊的安定の要。上田親子が何を企んでいるのか、見えて来ましたね」


 江原ッチのお父さんである雅功さんが腕組みして言った。


「江戸曼荼羅の破壊、ですね?」


 江戸曼荼羅とは、その昔、江戸の霊的安定を考えた南光坊天海が風水に基づいて作らせたという巨大な結界の事だ。


 北は日光、南は徳川家の菩提寺である芝増上寺、北東、すなわち鬼門の方角には上野寛永寺、神田明神。


 更に南西、すなわち裏鬼門の方角には日枝神社。


 まさに考え抜かれた霊的安定都市が江戸、現在の東京なのだ。


 綾小路さやかは真剣な表情で言ったので、私はサーヤと呼ぶのをやめた。


「心の中で言ったら、同じ事でしょ!」


 さやかがムッとして私を見た。


「富士の気脈だけではなく、日光の守りも破壊するつもりだとすれば、関東だけではなく、東日本、いや、本州全体に大きな異変が起こり、それが北海道や四国、九州にも影響を及ぼす事になるな」


 八木麗華さんが呟いた。


「ええ。上田親子はやはり、日本を支配したいのではなく、破壊したいらしいですね」


 雅功さんは麗華さんを見て言った。心なしか、麗華さんは嬉しそうだ。蘭子お姉さんが呆れているのがわかる。


「何故そんな事をするのでしょうか?」


 ずっと黙っていた神田原明蘭さんが、母親である明鈴さんと顔を見合わせてから尋ねた。


「理由は定かではありません。しかし、富士と日光に仕掛けるつもりであれば、大惨事を想定しているとしか思えません」


 江原ッチのお母さんの菜摘さんが答えた。江原ッチの妹さんの靖子ちゃんは、気功美少女の柳原まりさんと手を取り合っている。


「出羽の大修験者である遠野泉進様も来てくださいます。そしてもちろん、我が師匠である名倉英賢も来ます」


 雅功さんの言葉に一安心した。出羽のスケベジジイはともかく、スーパーお爺ちゃんである英賢様がいらっしゃれば、怖いものはない。


 そして何より、日本史上最大最凶と言われた内海帯刀を倒したメンバーのほとんどが揃っているのだ。


 負けるはずはないと思えた。ところが、


「いや、まどかさん、ある意味上田親子は、あの内海帯刀より始末が悪いかも知れないのですよ」


 雅功さんが真顔で言ったので、私はビクッとした。


 内海帯刀より始末が悪いって、まずいんじゃないの?


「上田親子は、内海帯刀から闇の仏具を受け取っているのですよ。帯刀が我々と戦った時、上田親子は傍観を決め込んだ。要するに裏切ったのです」


 雅功さんの話は衝撃的だった。


「只ね、まどかちゃん。上田親子が内海帯刀より強いという訳ではないの。問題は仏具なのよ」


 蘭子お姉さんが言った。


「確かにそうですね。サヨカ会の宗主だった鴻池大仙も、その息子の仙一も霊能力がないにも関わらず、強敵でしたから」


 我が師匠でもある小松崎瑠希弥さんが応じた。


「しかも悪い事に、上田博行と上田桂子には霊能力がある。仏具の効果も、鴻池親子の時とは比べ物にならない」


 雅功さんの言葉にまたギクッとしてしまった。


「私の祖父や父達も、何より闇の仏具の存在を気にしていました。サヨカ会を恐れたのは、そのせいです」


 明鈴さんが口を開いて話してくれた。


 明鈴さんは、かつて邪教集団である復活の会の宗主だった人だ。


 そして、彼女の祖父である神田原明丞はその昔、英賢様の弟子だった。


「祖父は英賢様から闇の仏具の存在を聞き、それに魅入られる形で復活の会を作ったのです」


 まさに全ての邪悪の根源は、内海帯刀だったという事だ。


 ちょっと心配になり、震えてしまった。すると、


「大丈夫だよ、まどかりん」


 江原ッチが後ろから優しく抱きしめてくれた。


「江原ッチ……」


 感動して見上げると、江原ッチはしっかり明鈴さんの胸を見ていた。


 折角キュンとしたのに、このバカ男は! 後でたっぷりお説教ね。


「何を待っているのかは不明ですが、上田親子は鳴りを潜めています。しばらくは動かないでしょう」


 蘭子お姉さんが言った。


「ま、仮に動いたとしても、しっかり手ェは打ってあるから、大丈夫やけどな」


 麗華さんはニヤリとした。手は打ってあるってどういう事?


『皆さん、予想が外れたみたいよ。上田親子が動き出したわ』


 何と、我が姪の小町がテレパシーで伝えて来た。道場に一気に緊張感が走った。


「日光には、ウチのおとんとおかんが行ってるねん。小町ちゃんを通じてネットワークができてるちゅうわけやな」


 麗華さんが教えてくれた。それにしても、何故動いたのだろうか?


「いや、動くように仕向けたのですよ。狙い通りです」


 雅功さんが言った。


「連中は私達の会話を確実に盗み聞きしていると想定していました。だから、意図的に聞かせたんですよ」


 麗華さんのお父さんは、確か心霊医師の矢部隆史さんだ。黒魔術も使える呪術師だと聞いた。


 そして、お母さんは岡本綾乃教授。東大に席を置く、心霊研究の第一人者だそうだ。


『さすが、江原先生ですね。富士の樹海にも上田博行の父親が現れたわ』

 

 小町が伝えて来た。え? 富士の樹海? もしかして……。


「そちらも想定内です。そこには、椿直美さんと霊媒師の里の皆さんがいます」


 雅功さんは完全に上田親子の更に裏をかいていたのだ。


「さて、第一手はこちらが有利に進められましたが、次はどうでしょうか」


 雅功さんは慎重だ。


「上田親子が持っている仏具の正体がわかっていないから、安心はできないですね」


 蘭子お姉さんが呟く。


 


 何だか最終回が近い予感がしてしまうまどかだった。

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