生徒会長はイケメンなのよ!
私は箕輪まどか。遂に少女から大人の階段を昇り始めたシンデレラだ。
え? 「死んでれら」の間違いだろう、ですって? 訳のわからない事言わないでよね!
先日、妙な気を放つ人物が生徒指導の坂田郁代先生を操って、私達に何かを仕掛けようとして来た。
幸い、私の彼の江原耕司君の妹さんである靖子ちゃんがその優れた感応力で危険を察知してくれたので、事なきを得た。
一体あれは誰だったのか? 未だに謎のまどかである。
それから数日後。ゴールデンウイークを目前にした金曜日。
「お兄ちゃん、あれから何も起こっていない?」
江原ッチとの合流地点に行くと、靖子ちゃんが一緒に来ていた。
あの日以来、靖子ちゃんは毎日放課後になると様子を見に来てくれた。
本当に兄思いの優しい子なので、ちょっと嫉妬してしまう。
「大丈夫だよ。それより、お前、学校で評判になってるから、あまり来ない方がいいぞ。力丸も心配しているから」
江原ッチが言った。靖子ちゃんは可愛いので、たちまち噂になってしまったのだ。
現に私や江原ッチに靖子ちゃんの事を訊いて来る男子がいる。
「妹だけど、何か?」
江原ッチは普段はとても穏やかなのに、靖子ちゃんの事になると、昔の悪い癖が出てしまうらしい。
親友の美輪幸治君と「やり過ぎコウジ」と呼ばれていた頃の顔になってしまうのだ。
「すみませんでした!」
大抵の男子達は、江原ッチが美輪君の親友だと知った時点でビビって尋ねて来ないんだけど、それに加えて、江原ッチも実は怖いと知れ渡ったので、ほとんどの男子が靖子ちゃんを諦めたようだ。
「うん、わかったよ、お兄ちゃん」
靖子ちゃんは心なしか、寂しそうだった。私にも兄がいるから何となくはわかる。
但し、どうしようもなく女性関係がだらしない兄だけどね。もうすぐ奥さんのまゆ子さんは出産のはずなのに。
少しは心を入れ替えて欲しいものだ。
「今度からさ、明蘭さんに来てもらうようにするよ」
江原ッチがニヘラッとして靖子ちゃんに小声で言うのが聞こえた。
神田原明蘭さん。黒尽くめファッションで、長い黒髪の美人だ。しかも、今年で二十歳の大人の女性。江原ッチがデレッとしてしまうのも仕方がないのだけれど。
靖子ちゃんは半目で江原ッチを見て、
「最低、お兄ちゃん」
そう呟くと、去って行った。
「最低ですわね、江原耕司さん」
私もすかさず、背後にピタッと立って絶対零度の声で告げた。
「ひいい! 冗談だよお、まどかりん」
江原ッチは素晴らしい土下座をして言った。どこかで土下座教室でもあるのかしら?
「おはよう、江原。もうそろそろ、一緒に登校しても大丈夫じゃねえか?」
美輪君が私の親友の近藤明菜と現れた。しかし、江原ッチは、
「まだ安心できないよ、もう少し、様子を見た方がいい」
「靖子ちゃんが大変だろうから、明蘭さんに頼んだらどうだ?」
美輪君がニヘラッとした顔で言った。ああ、知らないぞ!
「美輪君、後でじっくりお話しましょう、今後の事について」
明菜得意の血も凍るような冷たい声。
「ひいい!」
美輪君ばかりでなく、江原ッチも、たまたま近くを通りかかった男子までも、悲鳴を上げてしまった。
本当に男っていう生き物は学習能力がないのか? バカばっかり。
「ああ、靖子ちゃん、帰っちゃったのか、箕輪?」
遅れて来た靖子ちゃんの彼である力丸卓司君ががっかりして言う。
「あんたが遅いからよ。もっと早く来なさいよ、リッキー」
呆れてそう言い返すと、
「コロッケあげるから、怒るなよ、箕輪」
揚げたてコロッケ一個で私を懐柔しようとしても無駄だ。
ところで、懐柔って怖いの?
そんなコントみたいな事を繰り広げながら、私達は学校に着いた。
「君が噂の箕輪まどかさんかな?」
どこからか、男子の声が聞こえた。江原ッチが途端に殺気立つ。私はその声に聞き覚えがあった。
確か、入学式の時、在校生代表で挨拶をした人だ。
「おはようございます、上田さん」
私は笑顔で挨拶した。江原ッチの嫉妬指数が急上昇したのがわかる。
「おはよう。僕の事を覚えてくれているなんて、嬉しいよ」
上田博行さん。M市立第一高校の三年生で、生徒会長。その上、成績は学年トップで、女子達の憧れの的。
まさに非の打ち所のない人だ。美形なのは言うまでもない。かけている黒縁眼鏡も決まっている。
「上田君、早朝会議に遅れるわよ」
上田さんと私の間に割って入って来たのは、副会長の高橋知子さん。
高橋さんは、全高男子のマドンナ的存在で、私もこの人には負けたと思うくらいの美人だ。天然なのか、フワフワッとした巻き毛がよく似合うエキゾチックな顔立ちだ。もしかしてハーフなのだろうか? え? お前なんかじゃ比べようがない、ですって? 余計なお世話よ!
噂だと、二人は付き合っているらしい。まさに絵に描いたようなカップルだ。
「ああ、そうだった。じゃあ、また後でね」
上田さんはキラッと白い歯を見せて言うと、高橋さんと校庭を歩いて行った。
「け、ちょっとカッコいいからって、誰でも自分に夢中になると思ったら大間違いだぞ」
江原ッチはムスッとして呟いた。その嫉妬は嬉しいけど、別に私は上田さんには全然興味ないから、心配しないで欲しい。
「まどか、上田さんて、素敵よね」
明菜がウットリした顔で言ったので、私はびっくりしてしまった。それ以上に驚いたのは、美輪君だ。
「えええ!? アッキーナ、何言ってるの? さっきの仕返しのつもりなら、もう俺、何度でも謝るから、勘弁してよ」
美輪君は酷く狼狽えて明菜に泣きついた。でも明菜は、
「はあ? 誰、あんた?」
絶対零度を超えるような凄まじい台詞を吐き、スタスタと歩いて行ってしまった。
「アッキーナ……」
美輪君は血の涙を流しそうなくらいショックを受けていた。どういう事? どうしちゃったのよ、明菜?
嫌な予感がしまくりのまどかだった。
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