敵はエロ姉ちゃんなのよ!

 私は箕輪まどか。中学生にして優れた霊能力を持つ美少女だ。


 先日、復活の会という邪教集団の三代目宗主を名乗る神田原明鈴という西園寺蘭子お姉さんの親友の八木麗華さんも真っ青のエロ姉ちゃんが現れた。


 現れたと言っても、G県警の本部長に乗り移っていたので、霊感のない人には見えなかった訳だけど。


 彼女は霊感課にわざわざ挨拶に来た。礼儀正しい訳ではない。挑発して来たのだ。


「確かにあの格好は挑発的だった」


 私の彼氏の江原耕司君は、明鈴の胸が半分見えているようなコスチュームにメロメロになっている。


 だから、緊迫した状況にも関わらず、鼻の下が顎の下まで伸びそうだ。


「もうちょっと詳しく教えてくれ。できれば図解付きで」


 江原ッチの親友で、私の親友の近藤明菜の彼である美輪幸治君も、明鈴の姿に興味津々だ。


「コウジ君、後でお話があります」


 私と明菜は見事なハモりでダブルエロコウジに告げた。


「ひいい!」


 江原ッチと美輪君も見事なハモりで悲鳴を上げた。




 霊感課のフロアにあっさり侵入を許してしまった事を重く見た江原ッチのお母さんの菜摘さんは、


「霊感課の周囲に結界を張りましょう。でないとまた同じ事をされる恐れがありますから」


 江原ッチの邸の道場で緊急会議を開いた時、そう提言した。


「そうなんですか」


 私は笑顔全開でお題目を唱えた。今日もいい事がありそうだ。


「そうなんですか」


 江原ッチと美輪君もお題目を唱えてくれたのはいいのだが、テンションが低くて、お題目に必要な笑顔もない。


 こいつら、明鈴に侵入して欲しいのだろうか? もう一回明菜とお説教をしないといけないわね。


「それから神田原明鈴があなた達に渡そうとした身代わり地蔵ですが、あの中にそれぞれ復活の会の霊能者の霊体が入っていて、手にした人と入れ替わる手筈になっていました。彼らの霊体は、英賢様に送って、浄化してもらいます」


 菜摘さんが言った。英賢様とは、菜摘さんや江原ッチのお父さんの雅功さんのお師匠様のスーパーおじいちゃんだ。


 夏休み中に起こったH山での蘭子お姉さん達の拉致事件をたちどころに解決した物凄く強い方である。


「神田原明鈴は二代目宗主であった明徹の娘です。年齢は西園寺さん達と同じくらいでしょう」


 菜摘さんはそう言いながら明鈴の写真をみんなに配った。


 え? いつの間にこんなものを?


 江原ッチと美輪君がニヤニヤしながら見ているのが癪に障るが、菜摘さんの前でお仕置きもできないので、明菜と目配せして後できっちり倍にして反省してもらう事にした。


「それは、靖子が念写したもののコピーです」


 菜摘さんが解説してくれた。靖子ちゃんは江原ッチの妹さんだ。最近の霊能力のレベルアップには目を見張るものがある。


 私もうかうかしていられないのだ。


「でかした、靖子」


「よくやった、靖子ちゃん」


 江原ッチと美輪君が嬉しそうに靖子ちゃんを称賛したので、


「あ、ありがとう……」


 靖子ちゃんは少し引き気味に礼を言った。ダブルバカコウジめ。


「見た目は奇麗な女性ですが、力は恐らく神田原一族最強です。父親である明徹をも凌ぐと思われます」


 菜摘さんの話に私達はギョッとした。


 さっきまでヘラヘラして明鈴の写真を見ていた江原ッチと美輪君も顔を引きつらせている。


「彼女はつい最近までヨーロッパにいたようです。あちらの黒魔術を修得しに行っていたと考えられます」


 菜摘さんの話は更に私達の恐怖心を煽った。黒魔術ですって? 何て恐ろしい事を!?


 ところで黒魔術って何? 


「彼女の当面の目的は、父親の明徹の封印を解く事のようです。先程雅功からメールが来ました。彼の前にも明鈴が現れたようです」


 菜摘さんの表情が険しくなった。明徹の魂に封印を施したのは雅功さんだ。


 明鈴はその事を知って、雅功さんの前に姿を見せたのだろう。


「明鈴は雅功に明徹の封印の解除を宣言して消えたそうです。挑発的な行動が好みのようですね」


 菜摘さんの話に江原ッチと美輪君は明鈴の写真を見つめたままで大きく頷いていた。


 片時も目を離したくないのか、全く! お仕置きをハイレベルにしないといけないわね。


「明鈴は知略に長けた策士だと思われます。警戒を強めるようにしてください」


 菜摘さんは真剣な表情で私達を見た。


「特に耕司と美輪君」


 菜摘さんの声のトーンが強くなった。江原ッチと美輪君がビクッとして菜摘さんを見る。


「貴方達はすでに明鈴の魅了チャームの魔術にかかりかけているようだから、後で私がお祓いしてあげますね」


 菜摘さん、微笑んでいるのだが、目が笑っていない。私と明菜と靖子ちゃんは、江原ッチと美輪君がこの後過酷な「お祓い」をされるのを知り、二人を哀れんだ。自業自得なんだけどね。


「は、はい」


 江原ッチと美輪君も菜摘さんが発している闘気を感じたのか、蒼ざめた顔をしていた。


 その時だった。


「ああ!」


 いきなり靖子ちゃんが叫んだ。その声があまりにも尋常ではないものだったので、菜摘さんが靖子ちゃんに近づいた。


「どうしたの、靖子?」


 靖子ちゃんは菜摘さんを見て、


「まどかお姉さんのお兄さんが……」


「え?」


 私はギクッとした。私のバカ兄貴の慶一郎は今日は非番で奥さんのまゆ子さんと家でゆっくりしているはずだ。


「神田原明鈴に拉致されたみたいなの」


 靖子ちゃんは震える声で私を見て言った。


「えええ!?」


 私は仰天し、菜摘さんを見た。菜摘さんは私を見て、


「とにかく、現段階では情報が少な過ぎます。もう少し探りを入れてみましょう」


 そう言うと、靖子ちゃんと手を繋ぎ、目を閉じた。


 靖子ちゃんは菜摘さんの特訓を受け、今では私のお師匠様であった小松崎瑠希弥さんに迫るくらいの感応力を持っている。


 菜摘さんはそれ以上のものを持っているが、探知能力は靖子ちゃんが上らしい。


 但し、靖子ちゃんはまだ力をうまく制御できないので、菜摘さんの力を合わせて探知するつもりのようだ。


 それにしても、兄貴を拉致するなんて、明鈴め、卑怯な女ね。


 ちょっとだけ思ったのだけど、兄貴が明鈴の色香に迷ったという可能性もある。


 もしそうなら迷惑な話だと思うまどかだった。

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