謎の強盗事件を調べるのよ!
私は箕輪まどか。中学生の霊能者だ。
先日、すでに埋葬されていた遺体を掘り起こし、それに別の魂を宿して強盗をさせるという事件が起こった。
G州銀行本店営業部事件だ。
私と私の彼氏の江原耕司君、そして私以上に霊感が強い綾小路さやかの三人は、私のクラスの副担任でもあり、あの小松崎瑠希弥さんの姉弟子でもある椿直美先生と協力し、事件の解明に当たる事になった。
で。
放課後、私は親友の近藤明菜の愚痴を聞く事もなく、学校を飛び出し、校門前で待っている私の兄貴の慶一郎とその恋人の里見まゆ子さんが乗るG県警刑事部霊感課の特殊車両に乗り込んだ。
特殊車両なんて言うと聞こえがいいけど、実は廃車寸前の大型パトカーだ。
「予算がないんだよ、霊感課は」
助手席でムスッとした顔の兄貴。運転席ではまゆ子さんが苦笑いしている。
「本部長が制服に金かけ過ぎなんだよ」
「言っておくわ、本部長さんに」
私が真ん中の座席で言うと、兄貴は慌てたようだ。
「バカヤロウ、俺を左遷させる気か?」
「それも面白いわね」
更に悪乗りした。
「お前なあ……」
兄貴は項垂れてしまった。まゆ子さんはクスクス笑っている。
「そう言えば、椿先生はどうしたの? 今日はお休みだったけど」
不思議に思ったので尋ねた。するとまゆ子さんが、
「椿先生には、先に現場に行ってもらいました。危険な人がいるので」
と兄貴を睨む。兄貴はビクッとした。
バカ兄貴め、また何かしでかしたのか。仕方ないなあ。
車はやがて江原ッチとさやかのいる中学校に到着した。
江原ッチとさやかが二人で待っていたのはちょっとだけ気に入らなかったが、私は心が広いのだ。
そんな事でいちいち目くじらは立てない。
で、目くじらってどこに立つの?
何だかいい雰囲気の江原ッチとさやか。
嫉妬してしまいそう。
「まどかりん、お疲れ」
江原ッチは爽やかに挨拶して来た。そこまでは良かった。
「あれ、椿先生は?」
「江原耕司君、歩きで現場まで行きますか?」
我慢の限界だったので言ってしまった。
「ひいい!」
江原ッチはギクッとした。
「相変わらず嫉妬深いのね、まどかは」
さやかがニヤリとして言う。悔しいけど何も言い返せない。
まゆ子さん、確かにナイス判断でした。
椿先生がいたら、江原ッチがどうなっていたかと思うと、またイラッとしてしまう。
そんなこんなで、私達の乗る車は、G州銀行本店営業部に到着した。
そこはG県と埼玉県を結ぶ国道沿い。M市とT市の境付近だ。
今日は霊感課が捜査をするので、臨時休業にしてもらった。
「お待ちしておりました」
中に入ると、椿先生が銀行の人と出迎えてくれた。
椿先生、早速霊感課の制服を着ている。
瑠希弥さんが着ていたものほどギリギリな感じはないが、やっぱりスカート短いし、胸元が開いている。
「おお!」
兄貴と江原ッチが反応したが、私とまゆ子さんは無視した。
だって、椿先生の隣に立っている銀行の人も、チラチラ椿先生の胸元を見てるんだもん。
男って奴は……。
「ここにはほとんどあの遺体の痕跡はないですね。但し、重要な事がわかりました」
椿先生は、兄貴が胸元から目を離さないのを気にしていないのか、普通に会話している。
「何でしょうか?」
それでも兄貴は胸元から目を離さない。
「課長!」
堪りかねたまゆ子さんが、兄貴の足の甲を思い切り踏んだ。
「ぎゃっ!」
兄貴は大声を上げて飛び跳ねた。バカめ。向こうに行ってなさいよ。
私も椿先生が何に気づいたのかわかった。さやかもわかったようだ。
但し、江原ッチは椿先生の胸元の方が気になっているようで、全然気づいていない。
「江原耕司君、帰りは歩きでどうぞ」
「ひいい!」
江原ッチはビクッとして私を見た。
「続きをどうぞ」
まゆ子さんは兄貴に小言を言ってから椿先生を見た。
椿先生は頷いて、
「協力者がいるのがわかりました」
「協力者?」
兄貴とまゆ子さんは、いろいろあるけどやっぱり恋人同士ねという絶妙のハモりで尋ねた。
「はい」
椿先生は、隣にいる銀行の人を見た。やっぱりね。
「な、何ですか? あ、いや、私は別に貴女の胸を見ていたのではなくてですね……」
そう言いながらも、その人は
「逃がさないわよ。知ってる事、全部話してもらうわ」
さやかが背後に回りこんだ。
「く、気づいていたのか……」
その人の顔つきが変わる。おかしい、この人、死んでる?
「ええ、気づいていたわ。ここに来る前からね」
椿先生はフッと笑った。何だかカッコいい、先生!
「オンマリシテイソワカ」
椿先生と私と江原ッチ、そしてさやかが摩利支天の真言を同時に詠唱した。
「ぐはあ!」
その男は悶絶した。だがそれでも逃げようとする。
「はい!」
さやかと椿先生がお札を投げ、男の動きを封じた。
「もう逃げられないわよ。さあ、全部話してちょうだい」
椿先生がズイッと男に近づいた。
「お、俺は何も知らない!」
男は言い逃れようとしている。
「そんなはずないわ。貴方が手引きして実行したのよ、あの事件は。誰が黒幕か答えなさい」
椿先生の顔が怖くなった。思わずビクッとしてしまう。
「俺は指示されたとおりに動いただけだ。何も知らないし、誰が上にいるのかもわからない」
その時だった。
何もない空間に亀裂が走り、黒い影が現れた。
「何?」
椿先生が数珠を取り出して身構える。
私と江原ッチもその不可思議な影に凶悪な何かを感じ、後ろに飛んだ。
「神田原明徹!?」
さやかが叫んだ。誰、それ?
「綾小路のところの小娘か。久しいな。元気そうで何よりだ」
影が喋った。さやかと知り合いなの?
「椿直美、お前の事、知っておるぞ。相当な使い手のようだな。だが、私達のする事を邪魔するのは許さぬ。そして、この件はこれ以上調べさせぬ」
また影が喋った。
「何ですって!?」
椿先生はキッとして影を睨んだ。
「ぐわああ!」
次の瞬間、男が苦しみ出した。
「魂を砕くつもりなの!? させない!」
椿先生は印を結んだ。
「オンマカキャラヤソワカ」
大黒天の真言が放たれ、影にぶつかった。
「無駄だ」
影は全く影響を受けた様子がない。私達は唖然としてしまった。
「ぐぎゃああ!」
男の魂は影の放った呪術で砕かれた。抜け殻になった肉体は、ドサッとその場に倒れ伏した。
「我々に逆らうつもりなら、それ相応の覚悟をせよ、椿直美」
そう言うと、影はスウッと消えてしまった。
私達はあまりの出来事にしばらく動けなかった。
それからどれほど時間が経ったのだろうか?
私達は我に返り、倒れた男の身体を調べた。
「思った通りです。この人は三ヶ月ほど前に殺され、魂を入れ替えられています」
椿先生が言った。兄貴とまゆ子さんは驚愕している。
元々の肉体の持ち主も魂を砕かれているようだ。
何て酷い事を……。
「先生、やっぱり手を引いた方がいいです。神田原明徹は私達が敵う相手ではありません」
強気なさやかが弱気な発言だ。
無理もない。彼女のお父さんは、そいつが率いている復活の会に殺されたのだから。
「心配しないで、綾小路さん。私はもっと強いわよ」
椿先生がニコッとして言った。
瑠希弥さんの姉弟子で、江原ッチのお父さんの雅功さんが信頼しているのだから、相当強いのだろう。
「いずれにしても、もう後には引けないわ」
椿先生はギュッと拳を握りしめた。
悔しそうだ。先生の怒りが感じられる。
とんでもない敵の登場に緊迫するまどかだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます