大沢先生が暴走したのよ!
私は箕輪まどか。中学生の霊能者。
私の通う中学校の先生が産休に入り、その代わりにクラスの副担任として現れた大沢一人先生。
イケメンで、クラスの女子達ばかりか、全学年の女子、果ては同僚の女性の先生、更には定年間近の教頭先生まで垂らしこんでしまった。
大沢先生が気を自由に操る人なのはわかったが、その目的がわからない。
そして何よりも、私にその気をぶつけて来ないのも。
しかも、私のお師匠様の小松崎瑠希弥さんの感応力を逆に利用して、淫の気を送り込んで来るほどの力があるようだ。
侮れないし、危険だ。
翌日、憂鬱な気分で登校した。
全校の女子達が敵のような気がして来たが、
「まどかお姉さん!」
クラスメートの力丸卓司君と共に笑顔で現れたのは、私の彼氏の江原耕司君の妹さんの靖子ちゃんだ。
彼女は江原ッチに大沢先生の事を聞いていたので、お母さんの菜摘さん直伝の邪気の跳ね除け方をマスターし、大沢先生の虜になっていなかった。
「さすが、靖子ちゃんだよねえ」
リッキーはニヘラッとして靖子ちゃんを誉める。
「そんな事ないよ、リッキー」
照れる靖子ちゃんは可愛い。
「おはよう、箕輪さん、江原さん」
そこにボクッ
全校の女子で、先生を含めてまともなのは私達三人だけ。
状況的にかなり不利だ。
「大沢先生はどこにいるのかしら?」
私は学校全体を探ってみたが、わからない。
「大沢先生は体育館にいるよ。何て事を!」
柳原さんが急に怒り出して駆け出す。
「どうしたの、柳原さん?」
私と靖子ちゃんは慌てて柳原さんを追いかけた。
「わわ、待ってよ、みんなあ」
リッキーは早速コロッケをかじりながらついて来た。
私達は体育館に着いた。まだホームルームも始まらないその時間に、何故か全学年の女子達が集合している。
いや、女子達だけではない。
女性の先生、そして教頭先生もいた。
演壇には大沢先生が満面の笑みを湛えて立っている。
その大沢先生をまるで教祖様でも見るような目で教頭先生や女性の先生方が見つめていた。
そして、女子達も皆、アイドルでも見るように大沢先生を見て手を合わせている。
「何、これ?」
私はゾッとして言った。するとそこにいた女子達全員が憎しみの目で私を見る。
「な、何よ?」
私は後退りしながら尋ねた。しかし誰も答えてはくれない。
(強力な気で操られているの?)
私は演壇の大沢先生を睨んだ。
「その四人は私の邪魔をする人達です。お仕置きをしてあげなさい」
大沢先生が狡猾な笑みを浮かべて言った。
「まずいよ、箕輪さん。逃げよう」
柳原さんが言ったが、すでに私達は取り囲まれていた。
「まどか、柳原さん、靖子ちゃん、今からでも遅くはないわ。大沢先生にお詫びして。そうすれば、お仕置きをしないですむから」
私の親友の近藤明菜が前に進み出て言った。しかし、明菜の目には生気がない。
自分の意志で話しているのではないのだ。
「嫌よ。誰があんな変態教師に詫びるもんですか!」
私は精一杯の強がりを言ってみた。淫の気を使うなんて、絶対に普通じゃない。
ましてや、崇めたり奉ったりする対象なんかじゃない。
「残念だわ。みんな、やってしまって」
明菜の号令で、一斉に女子達が私達に掴みかかって来た。
「靖子ちゃんは俺が守る!」
リッキーはその巨体を利用して、靖子ちゃんの楯になった。
「箕輪さんはボクが守るよ」
柳原さんは眩しいくらいの笑顔で私を見て言う。あれ? また始まっちゃったの?
「はあ!」
柳原さんの気が女子達をなぎ払う。
彼女は力を加減していて、傷つけないように攻撃している。
しかしそれではこの大人数には対処できない。
『まどかさん、柳原さん、聞いて。二人の気を合わせて、摩利支天の真言を唱えて』
瑠希弥さんの声が聞こえた。
私は柳原さんを見る。柳原さんも私を見る。
「オンマリシエイソワカ!」
私の放った真言が柳原さんの気を
「ひいい!」
体育館全体に真言の力が広がり、女子達ばかりでなく、先生方もそれによって弾き飛ばされた。
「くそ!」
大沢先生が歯軋りして演壇を離れ、非常口へと走った。
「待て!」
私と柳原さんは大沢先生を追いかけようとしたが、体育館中に倒れている女子達が邪魔で追いかけられない。
(逃げられちゃう!)
私と柳原さんは焦った。その時だった。
「逃げられませんよ、大沢先生」
非常口の向こうから、菜摘さんと瑠希弥さんが現れた。
「く!
大沢先生のその一言が命取りだった。
「ババアとは誰の事です!?」
菜摘さんがムッとして大沢先生を睨みつけた。
「ひい!」
大沢先生は、菜摘さんの強烈な視線にビクッとして硬直した。
「貴方にはこれから三ヶ月ほど、山に籠もって修行してもらいます」
菜摘さんが気を放った。それは大沢先生を縛り、完全に動けなくしてしまった。
こうして、全校を揺るがした事件は解決した。
大沢先生は、江原ッチのお父さんである雅功さんのお師匠様のところに送られた。
「まどかさん、柳原さん、そして靖子、よく頑張りましたね」
「はい」
私達は菜摘さんの労いの言葉に感動して返事をした。
「僕は?」
リッキーがコロッケをかじりながら、無粋にもそんな事を言う。バカめ!
「もちろん、力丸君のおかげでもありますよ。これからも靖子と仲良くしてくださいね」
「でへへ、ありがとうございます、お母さん」
リッキーはニヤニヤしながら言った。
「生徒さんも先生方も、もう大丈夫です。あの男の縛りはそれほど深くなかったので、後遺症は出ないでしょう」
菜摘さんは倒れている女子達を見て言った。
私達はホッとして顔を見合わせた。
「まどかさん」
柳原さんと靖子ちゃんとリッキーが体育館を出て行ってから、菜摘さんが私に声をかけた。
「はい」
私も彼女達と共に教室に行こうとしていたので、ハッとして菜摘さんを見た。
「あの男、どうやらサヨカ会の幹部だったようです」
「ええ?」
私はギクッとした。西園寺蘭子さん達と苦労して残党までやっつけたはずなのに、まだいるのか、サヨカ会め。
「鴻池大仙や仙一のように強力な力は持っていないようですが、全国に散らばった者がまだいるようです。気をつけてくださいね」
菜摘さんは私を不安にさせないためか、ニコッとして言ってくれた。
まさに慈愛に満ちた目だ。ああ、早くこの人を「お義母さん」と呼びたい(ムフ)。
「また、共に精進しましょう、まどかさん」
瑠希弥さんが言う。
「はい」
私は大きく頷いた。
まだ当分最終回はないと安心したまどかだった。
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