江原ッチが嫉妬したのよ!

 私は箕輪まどか。中二の美少女霊能者だ。しかも、モテモテである。


 泣きそうになるから、「モテモテ」はやめて。一生のお願い。


 


 この前、転校生の柳原まりさんに危ないところを助けられ、


「箕輪さんの事、真剣だから」


と言われてしまった。何故か、ドキドキした。


 その後、彼氏の江原耕司君と会って、その事を話したら、


「まどかりん、そっちの世界に行かないでよお」


と涙目で訴えられた。可愛い、江原ッチッたら。ウフ。




「おはようございます」


 校門のところで、江原ッチの妹さんの靖子ちゃんに会った。


 サヨカ会騒動が収まったので、最近は一緒に登下校していない。


 靖子ちゃんは、肉屋の力丸卓司君と一緒に登下校しているようだ。


 しかも情けない事に、リッキーは靖子ちゃんに勉強を教えてもらっているらしい。


 知らなかったんだけど、靖子ちゃんて、頭いいの。


 江原ッチより勉強できるらしいわ。


「おはよう、靖子ちゃん。今日はリッキーは一緒じゃないの?」


 私はそう訊いてしまってから、まずいと思った。


 靖子ちゃんの顔が暗くなったのだ。


「リッキーは、今日は柳原さんと一緒に学校に行くって……」


「ええ!?」


 何という事だ! コスモクリーナーが作動した時のデ○ラー総統のように驚いてしまった。


 あのコロッケヤロウ、何を思い上がってるのよ!


 あれ? でも、柳原さんは女子が好きなんだから……。えーと……。


「おはよう、江原さん」


 その柳原さんが現れた。何故かその後ろにいるリッキーは項垂れている。どうしたんだろう?


「お、おはようございます」


 普段大人しい靖子ちゃんは、柳原さんの登場にどんなリアクションをとるのかと思ったが、やっぱりごく冷静だ。多少は動揺しているみたいだけど。


「ごめんね、知らなくて。今、力丸君に注意したところなんだ」


 柳原さんは気まずそうに説明する。どういう事?


「毎朝、江原さんと登校しているのに、ボクとゲームの話をしたいので断わったって聞いたから」


「そ、そうなんですか」


 意外な展開にちょっと驚く。


「力丸君には、しっかりお説教したから、心配しないでね」


「は、はい」


 靖子ちゃん、何故か柳原さんをポオッとした顔で見ている。


「じゃあ」


 柳原さんはカッコ良く言うと、私を見て頬を染め、歩き去った。


 うーん、よくわからない。


「柳原さん、素敵……」


 靖子ちゃんのその言葉に、私はギクッとし、項垂れていたリッキーがピクンと顔を上げた。


 噂だと、何人か、柳原さんに夢中の下級生がいるらしい。


 いけない事だ。え? お前が言うな? 何でよ!?


「でも、柳原さんて、箕輪の事が好きなんだよな」


 リッキーが言った。靖子ちゃんは目を見開いて私を見る。


「ええ!? あの噂、本当なんですか?」


「ああ、その、私は靖子ちゃんのお兄さん一筋だから、安心して」


 私は慌てて言った。お兄ちゃん子の靖子ちゃんにあらぬ疑いを抱かれたくはない。


「そうなんですか。良かった」


 屈託のない笑顔の靖子ちゃん。私のダメージは大きい。


 ところで、屈託って何?


「力丸卓司君、後で話があります」


 私はリッキーの背後に回って囁いた。


「ひい!」


 リッキーはビクッとして駆け去った。靖子ちゃんは訳がわからず、首を傾げている。


「行きましょ、靖子ちゃん」


 私は彼女を促して、校舎へと歩き出した。


 


 そして、放課後。校門のところに江原ッチが立っている。


 私の親友の近藤明菜の彼氏の美輪幸治君と話しているようだ。


「まどかりん!」


 江原ッチは、もう何年も会えなかったような顔で私を見る。


「江原ッチ、どうしたの?」


 私が尋ねると、美輪君がクスクス笑いながら、


「こいつさ、あのボクッ娘が気になって、ここまで来たんだぜ」


「う、うるさいよ、美輪!」


 江原ッチは顔を赤らめて言った。


「そうなんだ」


 危ない、危ない。危うく嫉妬しそうになった。


 でも、嬉しい。そこまで江原ッチが嫉妬してくれて。


 私も罪な女だ。ムフフ。


「あ!」


 美輪君が叫ぶ。どうしたんだろうと思い、彼が見ている方を向くと、そこには柳原さんと明菜がいた。


 明菜はポオッとした顔で柳原さんを見ている。


 二人はとても楽しそうに話をしていた。


「へへへ、あれれ、アッキーナがボクっ娘と楽しそうにお喋りしてるぜ、美輪」


 江原ッチは仕返しとばかりに言った。意地悪ね、全く。


 でも、凄いな、柳原さん。


 靖子ちゃんといい、明菜といい、彼氏がいる子まで虜にしてしまって。


 しかも無意識なのが、あの小松崎瑠希弥さんと一緒だ。


 もしかして彼女、霊は見えないけど、感応力はあるのかも知れない。


「アッキーナ!」


 心配になったのか、美輪君は明菜に駆け寄った。


「あら、美輪君。いたの」


 明菜のつれない言葉に、美輪君は撃沈した。


「近藤さん、楽しかったよ。それじゃあ」


 柳原さんは名残惜しそうな明菜に手を振って離れ、また私を見て頬を染める。


 私もまたドキッとした。


「江原耕司君ですね?」


 柳原さんは江原ッチの前に立って言った。江原ッチはちょっとビビり気味に彼女を見て、


「そ、そうですが、何か?」


 柳原さんは鞄の中から封筒を取り出した。まさか、ラブレター? そんなはずないか。


「決闘を申し込みます。箕輪さんを賭けて」


 その言葉に私達は仰天した。


 えええ!? 私を賭けて、江原ッチと柳原さんが決闘?


「受けて立ちましょう」


 江原ッチは柳原さんを見据えて、バッと封筒を奪い取るように手にした。


 


 どうなってしまうのか、ドキドキのまどかだった。

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