柳原さんはカッコいいのよ!

 私は箕輪まどか。中学二年の霊能者。美少女でもある。


 ……。何よ?


 この前、私達のクラスに転校生が来た。


 転校生は、いつもと違ってイケメンではなく、美少女。


 しかも、私もビビるくらいの。


 その上何と、女の子が好きな子なのだ。名前は柳原まり。私と同じ匂いがする。


 更に驚いた事に、柳原さんは、私にラブレターをくれたのだ。


 え? たで食う虫も好き好きですって!? 失礼ね!


 ところで、蓼って、何?


 


 私にラブレターを渡した柳原さんは、そのまま駆け去ってしまった。


「冗談よ、きっと」


 親友の近藤明菜はそう言ってくれたが、事態はそんな展開を見せてくれないのである。


「ま、ま、まどかりん、大丈夫だよね? そっちの世界に行ったりしないよね?」


 私の彼氏の江原耕司君が動揺するほど、柳原さんはカッコ良かったのだ。


「行かないから、安心して、江原ッチ」


 私は会心の笑顔で応じた。


 


 そして、次の日。


「おはよう」


 いつものように教室に入ると、すでに柳原さんが来ていた。


「おはよう、箕輪さん」


 柳原さんは恥ずかしそうに頬を染めて挨拶して来た。


 そんなつもりはないけれど、柳原さんのようなイケメン美少女に頬を染められると、私もドキッとしてしまう。


「おはよう、柳原さん」


 私はできるだけ冷静に挨拶を返した。


「昨日はごめんなさい。箕輪さんの立場も考えずに、あんな事をしてしまって」


 柳原さんは私に近づき、頭を下げた。私は面食らった。


「ああ、別にそこまでしてくれなくても。ちょっと驚いたけど、それだけだから」


「ありがとう、箕輪さん。優しいんだね。ボク、嬉しいよ」


 柳原さんは涙ぐんで言う。私はそういう傾向はないけど、もしそっちの世界の方なら、柳原さんの涙に落ちているんだろうな。


「おはよう」


 そこに明菜と力丸卓司君がやって来た。


「あ、リッキー、昨日の話なんだけどさ」


 柳原さんは笑顔になってリッキーに話しかける。


「ああ、コロッケの事? 食べる?」


 リッキーは鞄の中からビニール袋に入ったコロッケを取り出した。


「今はいいよ。後で」


 柳原さんは楽しそうにリッキーとゲームの話をしている。


 この人、フリじゃなくて、本当に「男の子」なのか。


 しかも、いつもなら、可愛い子を見るとヘラヘラするリッキーがそんな感じではないのも奇妙だ。


「柳原さんが、あんたにラブレター渡したの、全校に知れ渡ってるわよ」


 明菜がこっそり教えてくれた。


「え?」


 ギョッとした。何、それ?


「そのせいで、男子は皆、柳原さんとお友達になろうとしてるみたい。その中でもどういう訳か、力丸君が最有力候補みたいよ」


 明菜は呆れ気味に言う。でも、私にはその理由が何となくわかった。


 リッキーは確かに可愛い子に弱いけど、決してエロくないのだ。


 それから、柳原さんが人の心を読んで、相手に合わせる事ができるのであれば、リッキーに邪心がないのがわかるはず。


 他の男子達は「お友達になりたい」とか言いながら、結局のところ、柳原さんの容姿に惹かれているだけだと見抜いているのかも知れない。


 敵にはならないだろうけど、もし彼女が誰かに利用されたりしたら、怖い事になるわね。


 


 そんなこんなで、その日の授業は終わり、帰宅部の私はサッサと下校。


 今日は江原ッチとデートのやり直しだ。


 柳原さんのせいではないけど、昨日は落ち込みまくったので、デートを延期したのだ。


 明菜と美輪君は、別の場所でデートらしい。


 あの二人、何だかすごく進んでるみたいで、最近怖いのよね。


 私もついつい、スキップしてしまう。鼻歌も混じっていたかも知れない。


「よお、彼女。楽しそうだねえ。俺らともっと楽しい事しない?」


 あともう一息で、江原ッチのいるコンビニというところで、妙な連中に行く手を塞がれた。


 どうやら、近くの高校生のようだ。五人もいる。私ってば、モテるう、とか言ってる場合ではない。


 しかも、M市では有名なヤンキー校の連中だ。でも、決して中村ト○ルはいない。


 え? 古いとか言わないでよ! 


「おお、近くで見ると、すっげえ可愛いじゃん! ますます一緒に楽しい事したいなあ」


 その中のリーダー格の奴が私を舐め回すように見る。


「失礼します」


 私はそいつらを避けて先に進もうとしたが、邪魔をされる。


「つれない事言うなよ、彼女。俺ら、優しいんだから、心配しなくてもいいよ」


 二番手らしき奴がニヤニヤしながら言う。


 言ってもわからない奴には、実力行使ね。


 私は真言を唱えようとした。


「ほらよ」


 いつの間にか、背後に回った奴がいて、私は両手を後ろに回されてしまう。


「暴れるなよ、彼女。傷つけたくはねえからさ」


 リーダーが私の顔を覗き込む。口が臭い。こいつら、タバコも酒も好き放題なのね。


 まどか、貞操の危機だ。


 ところで、貞操って何?


 そんなボケをかました時だった。


「何してるんだ、お前達?」


 救いの神が現れた。江原ッチ?


 と思ったら、何と柳原さん! いけない、いくら「男の子」のつもりでも、高校生五人を相手では……。


「おお、更に上玉が登場だぜ」


 ああ。案の定、こいつらのエロ度に火を点けてしまったようだ。


「ボクの友達に何をしているんだと訊いている」


 柳原さんはものすごい闘気を放っている。 


 何? 柳原さん、強いの? 


 高校生達には、柳原さんの怒りの凄まじさがわかっていない。


「貴方達、謝るなら今のうちよ」


 私は思わずアドバイスしてしまった。


「あ!」


 私を取り押さえている奴を除き、四人が柳原さんに一斉に突進する。


「生意気な事を言ったお前から可愛がってやるよ!」


 リーダーの目は、すぐにやられる雑魚の目だった。


「はああ!」


 一瞬の出来事だった。


 柳原さんの放出した気が、四人を吹き飛ばした。


 四人は地面に叩きつけられ、気を失ってしまった。


「ひ、ひ、ひいい!」


 その様子を見た残りの一人は、私の手を放すと、転がるようにして逃げて行った。


 すごい。柳原さん、あの修験者の遠野泉進のお爺ちゃん並みだ。


「大丈夫、箕輪さん? 怪我とかしてない?」


 柳原さんはニコッとして私を見た。


「あ、ありがとう。やっぱり柳原さん、気を操れるのね」


 私がそう言うと、柳原さんは俯いて、


「う、うん。ボク、怖い?」


「そんな事ないよ。カッコ良かった」


 嘘ではなく、そう思った。すると柳原さんは嬉しそうに私を見た。


「ボクは、箕輪さんみたいに霊感はないけど、人の心を読んだり、気を操ったりはできるんだ」


「え?」


 私は柳原さんに霊感の話はしていない。どうして知ってるの?


「力丸君が教えてくれたんだ。彼、いい人だね」


 リッキーのお喋りめ! でも、まあいっか。


「これからも友達でいてくれるかな、箕輪さん?」


 柳原さんはモジモジしながら尋ねて来た。私は笑顔全開で、


「もちろんよ。だって、柳原さんは私を助けてくれたんだもん」


「良かった。嬉しいよ、箕輪さん」


 柳原さんは私に抱きついて来た。何故かドキッとしてしまう。


「ボク、箕輪さんの事、真剣だから。じゃあ」


 柳原さん、まだ私の事を……。どうしよう?


 何故柳原さんが私の危機にタイミング良く駆けつけたのかも気になるし。


 モテモテのまどかだった。

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