山寺の決戦開始なのよ!
私は箕輪まどか。中二の霊能少女。
今、私達は、新潟県村上市の一角にある森の奥の廃寺の石段を激走している。
「待てや!」
西園寺蘭子お姉さんの親友である八木麗華さんは、短いスカートを履いているにも拘らず、猛烈な勢いと大股で石段を駆け上がっている。
「麗華、丸見えよ」
冷静な蘭子お姉さんが突っ込むが、
「知るか!」
麗華さんは後から駆けている濱口わたるさんが視線を逸らせてしまう程、お構いなしだ。
「八木先生……」
何故か、小松崎瑠希弥さんは感動しているみたい。
「私も!」
瑠希弥さんは麗華さんに触発されて、スピードアップした。タイトスカートが裂けそうな速さだ。
「お、俺も負けてられない!」
私の彼氏の江原耕司君が遥か後方から追い上げる。
「江原耕司君、後でお話があります」
私は息を切らせながらも、そう言った。
「まどかりん、お説教は後でね!」
江原ッチは何故か爽やかな笑顔を見せ、石段を二段抜きで駆け上がる。
「俺は、霊感のない人を巻き込む奴が許せない! 美輪や牧野君を利用した鴻池仙一が許せないんだ!」
「江原ッチ……」
私は江原ッチを誤解していた事を恥じた。
「わかった、江原ッチ」
感動してそう言った直後だった。
「瑠希弥さん、大丈夫ですか?」
江原ッチはよろけそうになった瑠希弥さんを支えた。
「ありがとう」
瑠希弥さんが笑顔で答える。
「江原ッチ!」
私は加速装置を使ったゼロゼロナインのように速く走った。
「ナウマクサマンダボダナンベイシラマンダヤソワカ」
私は毘沙門天の真言を唱えたのだ。
「やった!」
石段を一番最初に昇り終えたのは、私だった。
いや、そんな事はどうでも良いのだ。
「速いなあ、まどかちゃん」
麗華さんはヘロヘロになっていた。
あまりにも頭に血が上り過ぎて、真言を使うのを忘れたらしい。
そして、次に瑠希弥さん、江原ッチ、蘭子お姉さん、わたるさん、江原ッチのお父さんの雅功さんが昇り終えた。
「ほっほっほ、ようこそ、我が教団の新しい本部へ」
そこは廃寺の境内だったが、そのほぼ真ん中に立っている仙一が言った。
「随分余裕やな?
麗華さんが呼吸を整えながら言う。
「そんなものは必要ありません。あなた方の相手をするのは、私ではありませんから」
仙一は、これぞやられ役という台詞を吐いた。
「何!?」
麗華さんが一歩踏み出そうとした時だった。
「麗華、いけない、動かないで!」
蘭子お姉さんが叫んだ。
「何や?」
境内が揺れる。元々崩れかけていた灯籠が全部倒れ、廃寺の本殿も揺れている。
「あなた方は大きな勘違いをしています。我が父である大仙は肉体は滅びましたが、魂は滅んでいないのです!」
仙一が叫んだ。
そんなはずはない。大仙はあの時、地獄の使いの黒い着物の少女に連れて行かれたのだ。
魂がこの世に戻る事などできないはず。
「魂じゃないわ、まどかちゃん。大仙の残留思念。それを増幅させたもののようよ」
蘭子お姉さんが私の肩を抱き、後ろに下がる。
やばいのだ。それは私もわかったので、蘭子お姉さんに合わせた。
「欲望が一人歩きして、この世を
雅功さんが言った。
「何とでも言いなさい。我が父は無敵。いかなる真言でも倒せない。何故なら、我が父は神だからだ」
仙一は狂気に満ちた目で叫ぶ。
次の瞬間、本殿の屋根を吹き飛ばして、気持ちが悪くなりそうな念の塊が飛び出して来た。
「日本中で霊能者を拉致していたのは、このためか。人間のする事じゃない」
わたるさんが悔しそうに言った。
そうだ。とんでもない事をしたのだ、この仙一という男は。
この残留思念を増幅させるためにたくさんの霊能者の力を吸い取って殺したのだ。
「日本中の優秀な霊能者の力を頂く事が、そんなにいけない事ですか?」
仙一は肩を竦めてみせる。そして、
「後はあなた達の力をいただけば完了です。世界征服に出かけられます」
もう異常だ。どうかしている。でも、決してブラマヨ吉田ではない。
「ウチらに勝てる思うてるのか、おっさん?」
麗華さんが凄む。
「勝てますよ、簡単にね」
仙一のその言葉に呼応するように、残留思念は人の形となり、やがてあのキモいおっさんだった大仙の姿になった。
但し、その大きさは、廃寺の本殿の屋根より遥かに高い。
恐らく、二十メートルくらいありそうだ。
ほとんど妖怪だ。
もし、仙一が言うように、真言が通じないのだとすると、本当にヤバいかも知れない。
「真言が通じん訳ないやろ、ボケ」
麗華さんが印を結び、
「オンマカキャラヤソワカ!」
と大黒天真言を唱えた。
「え?」
しかし、真言は不発だった。麗華さんは唖然とした。
「結界、か」
わたるさんが周囲を見渡して言った。
「その通り。この境内は、我が結界の中。如何なる真言も使えぬ」
いつの間に来たのか、あの乗如という坊主が現れた。
「貴方、まだ懲りていないのね?」
蘭子お姉さんが静かに言うと、また坊主はビビっようだ。
「お、脅かしても無駄だ。西園寺蘭子得意の奥義も使えないぞ」
蘭子お姉さんは軽く落ち込んだ。どうして?
「さあ、ショータイムです」
仙一は、憎らしい程の笑顔で告げた。
最終回がますます濃厚で、気が気ではないまどかだった。
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