小倉冬子さんが危機一髪なのよ!

 私は箕輪まどか。中二の霊能者。


 何だか、随分問題ある子みたいで嫌だわ、その自己紹介。


 


 先日、サヨカ会対策を練った私達は、サヨカ会の残党が新潟県村上市にいる事を知った。


 山形にいる西園寺蘭子お姉さん達と挟み撃ちにして、今度こそあの憎たらしい鴻池仙一をやっつけてあげるわ。


 今日はコンビニで私の彼氏の江原耕司君と待ち合わせ。


 でも、デートではない。


 江原ッチの妹さんの靖子ちゃんが、越境入学して、私と同じ中学校なのだ。


 サヨカ会は靖子ちゃんも狙って来る可能性があるので、江原ッチと私とで連携して守る事にした。


「靖子を頼むね、まどかりん」


 江原ッチは凛々しい顔で言う。ドキッとしてしまった。


 ときめいている場合じゃないのだけど。


「よろしくお願いします、まどかお姉さん」


 靖子ちゃんは深々とお辞儀をしてくれた。


 何だか照れてしまう。


 名残惜しかったが、涙ぐむ江原ッチと別れ、靖子ちゃんと共に学校へ向かう。


「おはよう、まどか」


 途中で親友の近藤明菜と会った。


 彼女も危険な可能性があるので、彼氏の美輪幸治君が一緒だ。


 本当は、美輪君は靖子ちゃんを守るために転校したのだが、明菜には、


「アッキーナを守るためだよ」


と言っている。


 それで二人がうまく行くなら、それは嘘ではないと思う。


 何しろ、美輪君は、仙一が持っていた「りん」の得体の知れない力を受け付けないという特殊能力があるのだ。


 尚の事、頼もしい。江原ッチよりもね。内緒だけど。


 楽しく話しながら、私達は学校まで歩いた。




「あ」


 校門の前に、小松崎瑠希弥さんが立っている。


「瑠希弥さん!」


 美輪君が思わず嬉しそうに手を振りかけ、私達女子の冷たい視線に気づいてやめた。


 とりわけ、明菜は氷点下の視線だった。


「おはようございます」


 何も知らない瑠希弥さんは、笑顔で私達に挨拶した。


「おはようございます」


 明菜以外は皆愛想良く挨拶を返した。明菜ったら、嫉妬深過ぎよ。


 何にしても、無事に登校できて良かった。


「ああ!」


 校庭を歩き出した時、いきなり瑠希弥さんが叫んだ。


 なになに? 忘れ物?


「まどかさん、緊急事態です! 一緒に来て下さい」


「えええ!?」


 私は瑠希弥さんに引き摺られるようにして学校から離れて行く。


「どうしたんですか?」


 美輪君が追いかけて来た。


「美輪君は明菜さんや靖子さん達を守ってあげて下さい。私達は冬子さんを助けに行きます」


 瑠希弥さんが言うと、美輪君は何かのトラウマを思い出したのか、


「あ、そうですか、わかりました」


と明菜達のところに戻って行った。


「瑠希弥さん、冬子さんが危ないんですか?」


 私はビックリして尋ねた。


「ええ。サヨカ会が接近しています」


「そうなのでございますか」


 驚き過ぎて妙な言葉を発してしまった。


 


 私達が着いたのは、学校から少し離れた公園。


 そこには、目も虚ろな公園デビュー間もないママ達十人程が集まり、冬子さんを取り囲んでいた。


「何なの?」


 その光景にギクッとする。


「サーヨカサヨカサヨカサヨカ、サーヨカサヨカサヨカ……」


 以前に聞いたあの不気味な合唱をしながら、ママ達は冬子さんに迫る。


「まどかさん、行きます!」


 瑠希弥さんが印を結び、私もそれに倣う。


「オンマリシエイソワカ」


 摩利支天の真言を唱えた。


「ひいい!」


 ママ達の何人かがたじろぐ。


「まどかさんは、ママさん達の赤ちゃんを!」


 瑠希弥さんが駆け出した。


「はい」


 私は、ほったらかしにされて大泣きしている赤ちゃんのそばに走る。


「オンカカカビサンマエイソワカ」


 地蔵真言を唱え、赤ちゃん達を落ち着かせる。


 瑠希弥さんを見ると、苦戦していた。


 ママ達にかけられた呪縛は、簡単に解けないもののようだ。


 かと言って、あまり強烈な真言を使うと、ママ達の身が危なくなってしまう。


「オンマリシエイソワカ」


 摩利支天の真言でコツコツ解いて行くしかなさそうだ。


「ああ!」


 遂に何人かのママが、冬子さんの腕や身体を掴み始めた。


「ううう!」


 赤ちゃんも心配だけど、冬子さんも……。


 瑠希弥さんもピンチだ。ママ達が取り囲み始めた。


「わ!」


 ふと振り向くと、私の背後にも、ママの別働隊が迫っていた。


 この辺り、一体何人の公園デビューママがいるのよ!?


 私も摩利支天の真言を唱えた。


 しかし、ママ達はちょっと怯むだけでまた近づき始める。


「その戦い方では、只消耗するだけですよ、お嬢さん方」


 どこからか、男の人の声がした。


 誰だ?


大元おおもとを叩かないとね」


「大元?」


 私と瑠希弥さんは思わず顔を見合わせた。


「オンマカキャラヤソワカ!」

 

 大黒天の真言が聞こえた。


「ぐげええ!」


 どこかでヒキガエルが鳴いた気がした。


 次の瞬間、バシンと音がして、何かが弾けた。


 操っていた者が倒され、ママ達が正気に戻ったようだ。


「怪我はないかい、冬子」


 男の人が、冬子さんを支えていた。


 誰?


「わたる君なの?」


 冬子さんが驚いた顔で男の人を見ている。


 


 しばらくして、男の人の正体がわかった。


 その人の名は、濱口わたるさん。決して「獲ったどー!」とか叫んだりしない、真面目そうな人だ。


 黒のスーツに身を包み、髪をキチッと七三に分けている。


 わたるさんは、冬子さんの幼馴染なのだ。


 まだ冬子さんが霊に取り憑かれる前に惹かれ合った仲らしい。


 とは言っても、幼稚園の時だけどね。


「お師匠様から、冬子が危ないと聞いて、駆けつけたんだよ」


「わたる君」


 冬子さんの目は、完全に恋する乙女の目だ。


 焼きまんじゅうに火が点いたって奴ね。


 え? 違う? 細かい事気にしないでよ。


 ちなみに焼きまんじゅうはG県の名物である。


 わたるさんは、有名な退魔師のお弟子さんだそうだ。


 冬子さんが妙な霊に取り憑かれたのを助けようと、ずっと修行していたらしい。


「結局、力になれなかったけどね」


 寂しそうに言うわたるさんに、冬子さんだけでなく、私も瑠希弥さんもキュンとなってしまった。


 闘争本能をくすぐるって奴ね。 え? これも違うの?


 ギン○ナム隊に入隊しろ、ですって? 何よ、それ?


 取り敢えず、私と瑠希弥さんは邪魔者のようなので、わたるさんが倒した術者を縛り、江原ッチのお父さんの雅功さんに連絡し、公園を出た。


「この男は、サヨカ会のナンバー2ですね」


 車で来た雅功さんが言った。


「そうなんですか」

 

 瑠希弥さんが笑顔全開で応じた。


「冬子さんを狙って来るとはね。まあ、濱口君が来てくれたのなら、もう安心でしょう」


 わたるさんは、雅功さんも一目置く実力者だそうだ。


「心強い味方が増えましたね」


「はい」


 さあ、これでメンツは揃った。


 サヨカ会の残党を一網打尽よ。


 で、一網打尽て、何?


 


 最後までボケまくるまどかだった。

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