ちょっと新展開なのよ!

 私は箕輪まどか。中学生で霊能力もある、ちょっとした美少女だ。


 はあ? 何よ、「ちょっとした美少女」って? 意味わかんないんですけど?


 


 先日、サヨカ会の残党が起こした事件で、また一気に緊迫した感じだったが、数日何もないと少し安心する。


 いよいよ三年生達は高校受験だ。皆、顔つきが違っている気がする。


 エロ兄貴は、成績も優秀だったので、塾にも行かなかったし、私の記憶が正しければ、試験の前日も遊び呆けていたはず。


 それで志望校に行ってしまうのだから、本当に申し訳ないほど世間を舐めている男だ。


 一度くらい挫折を味わった方が、人生経験になると思う。


 でなければ、世の中間違っている。


「また明日ね」


 私は親友の近藤明菜と校門の前で別れ、いつものように私の絶対彼氏の江原耕司君が待ついつものコンビニへと向かう。


 その時だった。


「一年の、箕輪まどかさんだよね?」


 不意に私の目の前に前生徒会長の原西誠司さんが現れた。


 学校一のイケメンで、常に成績トップの人だ。でも、何故か誰とも付き合っていないのだ。


 一時は、「あっちの方?」と噂をされたらしい。


 で、あっちってどっち?


 周囲の女子達が、私に対して「これでもか!」というくらいの敵意と嫉妬の感情をぶつけて来た。


 心配しなくても、そんな話じゃないわよ、皆さん。


 原西さんだって、私が江原ッチと付き合っているのは知ってるんだから。


「何でしょうか、原西さん?」


 私は誰にも負けないくらいの笑顔で尋ねた。


 すると原西さんは、東幹久も逃げ出すような白い歯を見せて微笑み、


「前から好きでした。付き合って下さい」


と言った。


 周囲にいた女子達の嫉妬が殺気に変わるのがわかる。


 何だか、野次馬がたくさん集まり始めた。


「ごめんなさい、原西さん。私、付き合ってる人がいるんです」


「知ってます。それを承知で告白してるんです。それだけ真剣なんです」


 原西さんは、こんな事を冗談で言うような性格ではない。


 とにかく真面目で、女子のプレゼントには全部お礼状を付けてお返しをする紳士である。


 江原ッチに出会っていなかったら、交際をOKしていたかも知れないのだ。


「でも……」


 私は困ってしまった。


 こんなにモテる人からの告白なんてされた事ないし、こんなに注目された事もない。


「返事は今でなくてもいいです」


 原西さんは爽やかな笑顔で立ち去った。決して「俺やで」とは言わない。


 途端に私は上級生の女子達に囲まれた。


「どういう事、箕輪さん?」


 その中でも凄まじい形相だったのが、生徒会の副会長を務め、学校一の美人と言われている三年生の隅田真保さんだ。


 隅田さんは常に成績で原西さんとトップを争う人で、原西さんと付き合っていると噂された事もある。


 実際には付き合っていなかったのだが。


 しかもその噂の震源地が、当の隅田さんらしいというのだから、怖い。


「どういう事もこういう事もないです。お聞きになった通りで、私はお断りしましたから」


 私は隅田さんの迫力に圧倒され、後退りして答えた。


「断わるのは当然です。貴女には、原西君と付き合う資格などないのですから」


 うわあ。何だ、この高飛車度は? あの女医より凄いぞ。


「そうですね。では、そういう事で」


 私はサッサとその場を逃走した。


「お待ちなさいよ、まだ話は終わっていないわ!」


 更にヒートアップしている隅田さんのせいで、他の上級生達は白けてしまったようだ。


 うざったいので、ちょっと脅かす事にした。


 摩利支天の真言を唱える。


「オンマリシエイソワカ」


 すると、バシュウッと何かが弾ける音がした。


「ヒン!」


 隅田さんはピョンと跳ねて、倒れた。


「憑依現象?」


 ちょっと驚いて隅田さんに駆け寄る。


 あれ程いた野次馬と敵意の塊達は恐れをなして逃走した。


「まさか!?」


 ほんの微かだが、隅田さんからサヨカ会の念を感じた。


「まどかりん!」


 そこへ江原ッチが駆けつけてくれた。


「心配で来てみたんだ。何があったの?」


 私は洗いざらい事情を説明した。


 原西さんに告られたところで、江原ッチの顔が引きつったのがわかった。


「この人、サヨカ会に入っていたのかな?」


 江原ッチは気を失っている隅田さんを嬉しそうに見ている。


「江原耕司君、何、その顔?」


 私は江原ッチの背後に立ち、言った。


「わああ、誤解だよ、まどかりん! そんなつもりでは……」


 ホント、こいつ、底なしの女好きかも。


 


 江原ッチは、手回しの良い事に小松崎瑠希弥さんに連絡していた。


 瑠希弥さんは車で駆けつけてくれて、隅田さんを後部座席に乗せた。


「江原先生に診てもらいましょう」


「はい」


 私は、江原ッチを置き去りにし、瑠希弥さんと共に江原ッチの家に向かった。


「まどかりーん、許してよお」


 江原ッチが叫びながら、走って来る。


 


 江原ッチの邸に到着すると、雅功さんが待っていて、すぐに道場に隅田さんを運んだ。


「この子は、何も知らないようです。完全に操られただけですね」


 雅功さんのその言葉に、私はギクッとした。


「サヨカ会の残党が、すぐ近くまで来ているという事ですね」


 小倉冬子さんが道場に入って来て言う。また奇麗になったみたいだ。


「何も覚えていないでしょうから、心配いりません。只、まどかさんは気をつけて下さい」


 雅功さんが言った。


「俺、転校しようか、まどかりん?」


 江原ッチが息を切らせながら言った。今着いたのね。


「私が、学校に入ります」


 瑠希弥さんが言った。


「すぐに転校に手続きを……」


 江原ッチは、誰のために転校するのかわからない笑顔で言う。バカめ!


「そうですね。まどかさんの学校には、教育委員会を通じて話をつけておきます」


 完全に無視された形の江原ッチは項垂れている。


「そうなんですか」


 雅功さんの言葉に驚いてしまった。


 貴方は一体何者なんですか?


 


 それにしても、新展開なまどかだった。

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