またあいつらが動き出したのよ!

 私は箕輪まどか。中学生ながら、霊能力で殺人事件の捜査の手伝いをしている。


 おお。久しぶりに自己紹介が様になったわね。


 


 てな訳で、自己紹介通り、私は殺人事件の捜査協力のため、エロ兄貴と里見まゆ子さんと共に現場に行った。


 私の住んでいるG県M市は、たびたび紹介している通り、空っ風が吹きすさぶところだ。


 昨日も、


「台風?」


というくらいの強風が吹き荒れた。


「ああ、昨日のは春一番よ」


 運転中のまゆ子さんが教えてくれた。


 え? そうなの?


「相変わらず、バカだな、かまど」


 助手席のエロ兄貴がヘラヘラ笑いながら言う。


「瑠希弥さんとメールしてる人に言われたくない」


 私の言葉に兄貴は蒼ざめ、まゆ子さんは兄貴を睨みつける。


 やば。まゆ子さんがいるのに、いつものノリで言ってしまったわ。


「あはは、何言ってるのかな、まどか。お前は本当に可愛い妹だなあ」


 兄貴の棒読みの賛辞に、私は背筋をゾッとさせた。


「慶一郎さん、後でお話があります」


「はい」


 まゆ子さんが「慶一郎さん」と呼ぶ時は、強烈に怒っている時だ。


 哀れな兄貴。


 


 そして、現場に到着。G県の三山の一つ、H山に行く途中の急カーブの一角。


 やや広い空き地のような所があり、トラックドライバーなどの休憩所になっている。


 当然の事ながら、本日は誰も休憩している人はもいない。


 すでに他の鑑識の人や、捜査一課の刑事さん、所轄の方々もいらしていた。


「おお、まーどかちゃん、待ってたよ」


 宮川さんまでいた。


 この前、宮川さんの別の一面を知り、少しは気を許せるかなと思ってはいるのだけど。


「被害者は、若い女性と思われますが、身元を示すものが何もありません。犯人が持ち去ったか、どこかに遺棄したものと思われます」


 若い刑事さんが、現場を見に来ている捜査一課の課長さんに説明している。


「おう、箕輪。妹さんを連れて来てくれたか」


 課長さんが私達に気づき、近づいて来た。


「よろしくお願いします」


 私は笑顔で挨拶した。課長さんもニコッとして、


「じゃあ、頼みますよ」


「はい」


 兄貴とまゆ子さんに伴われて、私は遺体が発見された場所に近づいた。


「あれ?」


 発見場所には、殺された女性の気配は残っているけど、霊がいない。


「殺人現場はここじゃないわ、お兄ちゃん」


 私は兄貴を見上げて言った。そこにいた全員が私を見る。


 い! 注目され過ぎ。


「おおう、さーすが、まーどかちゃん。そんな事がわかっちゃうんだあ」


 宮川さんが嬉しそうに近づいて来る。


 刑事さん達はジッと私を見ている。


「あああ!」


 私は霊視を広げていって、恐ろしい事に気づいた。


 サヨカ会。あいつらが関わっている。


 サヨカ会自体は、何かの法律で解体させられたらしい。


 でも、残党は時々活動している。


 女性はサヨカ会のG県本部があったM市のビルの一室に監禁され、この辺りに生息している植物の種を服のポケットに入れられたり、付近にある川の水を飲まされたりした挙げ句、殺された。


 そして、ここまで運んで来られたのだ。


「どうした、まどか? 何が見えたんだ?」


 兄貴の問いかけに我に返った私は、見た事、感じた事を説明した。


 サヨカ会の名前が出ると、刑事さん達がどよめいた。


「被害者の女性は、サヨカ会の信者だった人です。昨年、会が解体され、幹部達が逮捕されたりしましたが、宗主だった鴻池大仙氏の子供は、うまく捜査の目を逃れ、今でも何人かの人間と共にどこかに潜伏しています」


 私の説明に、課長さんは腕組みして考え込む。


「そいつの居場所はわからないのか?」


 兄貴が当然の質問をする。


「わからないわ。付き従っているのが陰陽師で、結界を張っているの。私には見えないわ」


「そうか。ならば、瑠希弥さんに応援を要請……」


 兄貴がそこまで妄想を繰り広げると、


「江原耕司君のご一家に協力を要請しましょう」


 まゆ子さんが兄貴を押しのけて、課長さんに言った。


「そうだな。まどかさん、頼みますよ」


「はい」


 江原ッチを公然と呼べるので、私はつい嬉しくなってしまった。


 


 江原ッチに電話をすると、そばで聞いていた江原ッチのお父さんの雅功さんが電話を代わり、


「まどかさん、現場の風景を念で送ってみて下さい」


ととっても難しい事を言って来た。


「わかりました」


 私は意を決して、目の前の風景を念じた。


「ありがとう、まどかさん。お陰で実行犯達が誰なのかわかりました。課長さんと代わって下さい」


「はい」


 私は携帯を課長さんに渡した。


 いい大人が、私の携帯で真剣な話をしていると笑いそうになる。


 携帯ストラップがたくさんついていて、派手派手なのだ。


「はい、まどかさん」


 課長さんは話を終え、私に携帯を返してくれた。


「まどかさん、成長してますね。さっきの念の送信、耕司にはまだできませんよ」


 雅功さんが褒めてくれた。電話の向こうで、「それは言わないでよお」と叫ぶ江原ッチの声がした。


「そうなんですか」


 褒められて気が緩んだせいで、うっかりニヤニヤしてしまった。


 


 雅功さんの霊視で判明した建物に警察が乗り込み、実行犯は逮捕されたが、そこまでだった。


 実行犯達は、黒幕の事を何も知らないのだ。


 金で雇われた元暴力団の構成員だった。


 


 私は、現場から家に帰ると、すぐに江原ッチの家に行った。


「サヨカ会、潰したつもりでしたが、息を吹き返しているようですね」


 雅功さんが言った。


「全く彼等の気配が感じられなかったのは何故でしょうか?」


 瑠希弥さんが言った。そうなのだ。私はともかく、雅功さんや菜摘さん、瑠希弥さんに気づかれないなんて。


「もしかすると、大仙が持っていた術具は、あの独鈷だけではなかったのかも知れません」


 菜摘さんが水晶を見ながら言います。


 私は思わず江原ッチと顔を見合わせてしまった。


「とにかく、警戒するしかありません。耕司は、まどかさんを何があっても守りなさい」


 雅功さんが言ってくれた。嬉しいです、未来のお義父とうさん。


「もちろんだよ」


 江原ッチが私を優しい目で見て言う。私も江原ッチを見上げる。


 


 不安だけど、絶対に負けないと誓うまどかだった。

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