リッキーのお姉さんが本格的に登場なのよ!

 私は箕輪まどか。中学生の霊能者だ。


 私の絶対彼氏の江原耕司君のところに住み込みで修行中の小松崎瑠希弥さんと共に、憧れの人である西園寺蘭子さんがいる山形県鶴岡市に行って来た。


 すごく貴重な体験をした。得るものも多かった気がする。


「俺も行きたかったよお、まどかりん」


 江原ッチが後で知って、泣きメールを送って来た。


 多分、お母さんの菜摘さんが、江原ッチに教えなかったのだろう。


 何しろ、江原ッチは、瑠希弥さんにメロメロなのだから。


 とても腹立たしい事なのだけど、瑠希弥さんが力を制御できるまでの辛抱。


 それにいくら江原ッチがその気になっても、瑠希弥さんの眼中にはないから、その点では安心なのだ。


 瑠希弥さんの蘭子お姉さんへの思いは、もしかすると「ガールズラブ」なのかも知れないとエロ兄貴が言っていた。


 ガールズラブって、もしかして、「百合族」とかの事?


 私はそういうのは全然興味ないけど、蘭子お姉さんと瑠希弥さんだったら、ありでもいいかな。


 おっと。横道にそれ過ぎ。


 今日は、同級生の力丸卓司君の家の力丸ミートに来ている。


 べ、別にコロッケに釣られた訳じゃないんだから!


 瑠希弥さんも一緒だし。


 私達はお店の奥に通された。


 休憩室兼食堂のようなところだ。


「ごめんなさいね、まどかさん。お兄さんに無理言ってしまって」


 リッキーのお姉さんのあずささんは、リッキーとは似ても似つかない美人で、しかもエロ兄貴とは小学校・中学校の同級生だ。


 一時は付き合うのではないかと思われたのだが、兄貴のモテモテぶりに、あずささんの方が引いてしまったようだ。


 正解だったと思う。


 高校生の頃まで、兄貴は異常なほどモテてたし。


 今でこそ、落ち着いて来たけど、あの頃は私にまで近づいて来る女子達がいて、迷惑だったのだ。


 幼稚園児の私にラブレターとか頼まないで、と思ったものだ。


「いえ、大丈夫ですよ」


 兄貴め、あずささんに何ていったんだ?


 あまりある事ない事言って、妙な期待されたりすると困るんだけど。


 さっきからリッキーは一言も発していない。


 奴の目は、瑠希弥さんの胸に釘付けだ。


 交際中の江原靖子ちゃんに言いつけるぞ、エロヤロウ!


「その霊と強い因縁を感じます。お心当たりはありませんか?」


 瑠希弥さんがいきなり話し始めた。私達はギクッとして瑠希弥さんを見た。


 あずささんは泣きそうな顔で、


「全然心当たりがないんです。中年の男の人だったのですけど、霊だとは思わなくて……」


 あずささんは、霊のストーカーに取り憑かれているらしいのだ。


 それを調べて欲しいと依頼を受けたのだ。


 兄貴の同級生で、しかもその弟のリッキーは私の同級生だから、私は二つ返事で承諾したのだ。


 だからこそ、兄貴があずささんに何と言ったのか気にかかる。


「中年? 私にはあずささんと同年代くらいに感じましたけど」


 私もあずささんを霊視して感じた事を言った。


「え?」

 

 あずささんの顔色が変わった。


「お心当たりがあるのですね?」


 瑠希弥さんが微笑んで尋ねる。あずささんは瑠希弥さんを見て、


「つい先日、同級生の男の子が亡くなって……」


 それ、知ってる。兄貴も葬式に行ったから。


 中学の時の同級生で、当時酷い虐めを受けていたらしい。


 卒業するとM市から離れた高校に通い、その後長く付き合いはなかったそうだ。


 確か、自殺だった。


 高校では虐められなかったらしいのだけれど、卒業して就職した会社に中学の時の同級生がいて、また虐められていたそうだ。


 でもその虐めもすぐなくなり、その人は転職したと言う。


 だとすると、自殺の原因は何だろう?


 あずささんの後ろに見えたその人は、あずささんを怨んでいるようではない。


「ちょっと待って下さい」


 瑠希弥さんの顔つきが変わった。どうしたのだろう?


「まどかさん、場所を変えましょう。江原先生の道場がいいと思います」


「は、はい」


 私も瑠希弥さんの只ならぬ表情を見て、返事をするのがやっとだった。


 


 私達は、あずささんを伴い、ついて来たがるリッキーを振り切って、江原ッチの家に行った。


「まどかりーん」


 何故か檻に入れられた江原ッチが玄関の脇にいた。


「どうしたの、江原ッチ?」


 江原ッチは泣きそうな顔で、


「瑠希弥さんが家に戻る時は、ここに入らされるんだ」


「そうなんだ」


 涙ぐむ江原ッチに慰めの言葉をかけ、私達は邸の奥の道場に行った。


「お待ちしていました」


 そこには江原ッチのお父さんの雅功さんが正座していた。


「こちらへ」


 あずささんは雅功さんに導かれ、注連縄で囲まれたところに入った。


 途端に、バチンという強烈なラップ音がした。


 霊が現れる前触れだ。


「がああ!」


 あずささんの背後に悪霊が現れた。それは中年のオヤジだった。


 あずささんが見た霊だ。


「てめえら、何の権利があってこんな事をする!? 今すぐやめろ!」


 オヤジの霊は怒鳴り散らした。


 あずささんにはオヤジの姿も見えず、声も聞こえないようだが、怯えている。


 何かを感じているようだ。


「貴方こそ、何の権利があって、その女性に取り憑いているのですか?」


 雅功さんが冷静に尋ねる。オヤジの霊はますます凶悪な顔になり、


「うるせえ! 皆道連れだ! 一人でも多く、あの世に連れて行くんだ!」


 何だろう、こいつ? 何をそんなに猛り狂ってるの?


 あ! わかった! こいつ!


「あんた、何勝手な事言ってるのよ! ギャンブルに溺れて、借金返せなくなって、無理心中して、奥さんとお子さんだけ成仏してしまって、一人になったから、誰かを一緒に連れて行くなんて、とんでもないわよ!」


 私は大声で怒鳴り返した。


 瑠希弥さんも、あずささんも、雅功さんんも驚いていた。


 私自身、どうしてそこまでわかったのか不思議だったくらいだ。


 その時、私はオヤジの後ろに私と同年代の女の子を見た。


 このオヤジの娘さん?


 そうか、あの子が教えてくれたんだ。


「瑠希弥さん」


 私は瑠希弥さんを見た。瑠希弥さんは私の思いに気づいてくれて、女の子の霊を自分の身体に降霊した。


「お父さん、やめて。そんな事を続けていれば、お父さんは地獄に落ちてしまう。お願いだから、やめて」


 瑠希弥さんの口を借りて、娘さんが叫んだ。


 するとオヤジの霊が鎮まった。


「亜美……。すまない、すまない」


 オヤジは涙を流し、霊威を消して行った。


 私達はオヤジの霊を清め、娘さんの霊と共に霊界へと送った。


「さて。もう一つ片づけないといけませんね」


 雅功さんが言った。あずささんの背後には、同級生の男の人の霊がいた。


「ありがとうございました」


 その人はいきなりそう言った。


「へ?」


 私はキョトンとして瑠希弥さんを見た。瑠希弥さんは男の人の霊を見て、


「あなたは、あの男性の霊によって、マンションのベランダから飛び降りさせられたのですね?」


「はい。その時、ふと、力丸さんの事を思い出してしまって……」


 どうやら、この人は、あずささんにずっと片思いしていたらしい。


 虐められていた時、エロ兄貴とあずささんだけが庇ってくれたのだと言う。


 へえ。お兄ちゃん、見直したわ。


 その時からずっと、あずささんの事が好きだったけど、あずささんがエロ兄貴の事が好きなのを知っていたので、言えなかったんだって。


「僕があずささんの事を思い出してしまったせいで、あの人があずささんまで道連れにしようとしたので、何とか食い止めようとしたのですが……」


 恥ずかしそうに語るその人は、本当にいい人だった。


 何でこんないい人を道連れにしようとしたのよ、あのバカオヤジは!?


 全てを知ったあずささんは、見えてはいないのだろうけど、その同級生の方を見て言った。


「ありがとう、私を守ってくれて。貴方の事、忘れないわ」


 あずささんは泣いていた。


「嬉しいよ、あずささん。そう言ってもらえただけで、僕は満足だよ」


 やがてその人の霊も霊界に消えて行った。


「人間と同じように、霊にも相性があるのですよ」


 雅功さんが説明してくれた。


「あの人は本当にお気の毒ですが、あの悪霊と相性が合ってしまったのです。だから取り殺されてしまったのです」


「そうなんですか」


「しかし、まどかさんとあの女の子の相性が合っていたおかげで、悪霊を鎮められたのです」


 あずささんは泣き崩れた。瑠希弥さんがそれを優しく抱きしめた。


 私も思わずもらい泣きした。


「私、彼の家にお線香を上げに行きます」


 ひとしきり泣いてから、あずささんが言った。


「今日はどうもありがとうございました」


 あずささんは、ここから近いからと、一人でその人の実家に行った。


 どんな気持ちなのだろう?


 自分の事を好きだと言ってくれた人が亡くなるって……。


 今日もまた、貴重な体験をしたまどかだった。

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