遠野泉進さんはあの人と知り合いなのよ!
私は箕輪まどか。中学生の霊能者だ。
今、私は憧れの人、西園寺蘭子お姉さんと共に偉大な修験者の所に向かっている。
「遠野泉進様は、あの姫巫女流古神道の小野宗家の宮司様とお知り合いなの」
蘭子お姉さんが言った。しかし、世間に関心がない私は、
「そうなんですか」
と開始早々レッドカードを出してしまった。
「確か、その宮司さんの娘さんが勤めている学園が消滅したとか聞いたで」
後部座席の麗華さんが言う。すると蘭子お姉さんは、
「娘さんじゃなくて、お孫さんよ。宮司様は息子さんご夫婦を早くに喪ったのよ」
「ほう、さよか」
麗華さんはあまり関心がないようだ。私もだけど。
「その学園、しばらく前には、とんでもない悪ガキがおったらしいし。ケッタイなとこやな」
楽屋落ちのような話なので、私は聞き流した。
でも、小松崎瑠希弥さんは真剣に聞いている。
ああ、私も欲しいわ、あの純真さが。
え? お前は薄汚れているから、絶対無理ですって?
フンだ!
やがて車は高い木々で日差しが遮られた道に入った。
舗装されていない道なので、私は悪酔いしそうだ。
「大丈夫、まどかちゃん?」
蘭子お姉さんが気遣ってくれる。その優しさが今はつらい。
「大丈夫です。死んでも戻したりしません」
瑠希弥さんの車で戻したりしたら、恥ずかしくて生きて行けないわ。
「無理しないでね、まどかさん」
瑠希弥さんにまで優しい言葉をかけてもらい、私は「そっち」より涙が出そうだ。
「ま、ウチの車やないから、盛大に噴射してもかまへんけどな」
麗華さんは相変わらずだ。蘭子お姉さんにミラー越しに睨まれてギクッとしている。
そして、本当に臨界点に達する寸前に車は遠野泉進さんの屋敷に着いた。
もっと豪邸かと思っていたが、私の家より小さい。昔ながらの平屋建てだ。
「おう、これはまた、若い女の子が増えて、嬉しいぞ」
泉進さんは、もっと厳つい感じの人かと思ったが、その辺にいるお爺ちゃんという感じだ。
但し、着ているのは白装束で、山伏っぽい。
「よろしくお願いします」
瑠希弥さんが頭を下げる。私も慌てて頭を下げた。
「さてと。昨日の続きでもするか」
泉進さんはサッサと歩き出し、屋敷の裏へ行ってしまった。
「さ、私達も」
蘭子お姉さんが麗華さんを促す。
「またあれかいな。あれ、ホンマ、疲れるんやで」
麗華さんはウンザリ顔で蘭子お姉さんを追いかける。
私も瑠希弥さんと顔を見合わせてから、二人に続いた。
屋敷の裏に行くと、切り出された木が山積みになっていて、どうやら薪割りをしていたようだ。
「では、蘭子ちゃんからだな」
泉進さんはまるで親戚のお爺ちゃんのようににこやかな顔で言った。
え? 薪割りをするの? でも、木を割る物がないんだけど?
「はい」
蘭子お姉さんは真剣な表情で進み出て、切り株の上に薪用の木を置いた。
まさか!?
まさにそのまさかだった。
「はあ!」
蘭子お姉さんの気合で、木に衝撃が加えられ、真ん中から二つに裂けた。
「おう、見違えるような進歩だな、蘭子ちゃん」
何故か泉進さんは麗華さんを見てニヤリとする。
このお爺ちゃん、案外お茶目さんなのかも。
しかも私と気が合いそう。
「じゃ、麗華」
蘭子お姉さんが麗華さんを見る。
麗華さんはムスッとしたままでお姉さんと入れ替り、切り株に木を立てた。
「はあ!」
麗華さんが気合を入れた。しかし、木は少しだけ切れただけで、割れなかった。
「麗華ちゃん、力が分散しとる。容量は麗華ちゃんの方が多いのだから、もっと大きい木でも割れるはずだぞ」
泉進さんが言った。麗華さんは相変わらずムスッとしたままだ。
「容量が多いってどういう事ですか?」
私は素朴な疑問を蘭子お姉さんにしてみた。
「麗華の方が霊力の総量が多いって事。私の二倍はあるらしいわ」
「そう、ですか」
雲の上の話をされているみたいだ。
「霊力の少ない蘭子ちゃんにできて、麗華ちゃんにできんはずがない」
「は、はい!」
ようやくやる気になったようだ。
麗華さんのやる気は、蘭子お姉さんに対するライバル意識に左右されているのかも知れない。
「ふうう!」
麗華さんが集中し始めた。周囲の空気が張り詰めて行くのがわかる。
「はあ!」
麗華さんが気合を放った。すると上の木だけでなく、切り株まで二つに裂けた。
「おお! さすが麗華ちゃんじゃ! 霊力もおっぱいも蘭子ちゃんの二倍なのは伊達ではないな!」
「ハハハ」
麗華さんは照れている。
「先生!」
セクハラ発言された蘭子お姉さんは怒っている。胸を押さえているのは、恥ずかしいからだろうか?
瑠希弥さんはつい二人の胸を見比べてしまったようだ。
そして、夕暮れ時、私達は縁側でお茶をいただいた。
「滝行も、薪割りも、要は集中力の修行。集中力なくして、霊力の向上はない」
泉進さんがお茶をすすって言った。
「はい」
私達は声を揃えて応じた。
「さてと。二人が割ってくれた薪で、風呂を沸かすとしよう」
「先生、誉めてもらって何やけど、覗かんといてや」
麗華さんが言い放つ。泉進さんは豪快に笑って何も答えない。
「ええ!? お風呂覗くんですか、あのお爺ちゃん?」
私が驚いて言うと、
「心配するな。子供の裸には興味はない」
泉進さんはわざわざ戻って来て言った。
「……」
何だか、妙に悔しいまどかだった。
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