即身仏は強烈なのよ!

 私は箕輪まどか。中学生の霊能者。人は私の事を「霊感少女」と呼ぶ。




 私は、憧れの女性である西園寺蘭子お姉さんがいる山形に行くため、蘭子お姉さんのお弟子さんである小松崎瑠希弥さんの車に乗っている。


 バリバリのスポーツカーは、やがて新潟県の胎内市で高速を降りた。


 って言うか、ここで高速終了なのだ。


 山形までずっと高速だと思っていた私はちょっとだけ驚いた。


「ここからは一般道になります」


 瑠希弥さんがにこやかに言う。


 走り始めの頃は、妙な気のせいで眉間に皺を寄せていた瑠希弥さんだったが、真言のおかげで気を追い払う事ができ、嬉しそうだ。


「どこかでお昼を食べましょう」


 私達は沿道のお蕎麦屋さんに立ち寄った。


「あちゃあ」


 駐車場に車を停めて歩き出すと、店の前で事故死した女子高生の霊が現れた。


「携帯貸して。家に電話しなくちゃ。帰り、遅くなるって」


 その人は死ぬ直前の記憶を固定され、ずっとそう言っているようだ。


「はい、どうぞ」


 瑠希弥さんが自分の気を変化させて携帯電話のようなものを作り、彼女に渡した。


「ありがとう」


 女子高生のお姉さんは瑠希弥さんに笑顔で礼を言い、そのまま消えた。


 ようやく縛りが解けたのだ。良かった。


「凄いですね、瑠希弥さん。今度教えて下さい」


「いいですよ」


 私達は店に入り、ざる蕎麦を頼んで食べた。


「もう一息ですね。行きましょうか」


 少し休憩してから、再び山形を目指す。


 高速道路ではないので、信号で停まったりがある。


 そのたび、交差点で事故死した霊に遭遇した。


 全部祓いながら行く事はできないので、寄って来る霊以外は相手にせず、先を急ぐ事にした。


「こんなに事故死している人の霊が多いなんて、驚きました」


 私が言うと、瑠希弥さんは、


「私のせいなんですよ、まどかさん。事故死した霊は普段は霊威がほとんどないので、意識しないと見えないのです。でも、私が影響してしまって、鎮まっている霊まで出て来ているんです」


「そうでしたか」


 私はなるべくそちらを見ないようにした。


 


 しばらく進むと、日本海が間近に見えて来た。


 太陽は西に傾き始めているので、海面がキラキラ光っている。


 日本海は、小学校の臨海学校以来だ。


「もうすぐ山形に入るわ」


 瑠希弥さん、疲れないのかな? 運転を替われないので、どうにもならないけど。


「瑠希弥さん、休まなくて平気ですか?」


 それでも言ってみた。


「大丈夫。ありがとう、まどかさん」


「そうですか」


 何か申し訳ない。


「あ」


 その時、県境の標識を越えたのに気づいた。


 山形県鶴岡市だ。


 とうとう来た。何だか、感動している。


 私、東北地方に来たのって、生まれて初めてだったから。


 鶴岡市。


 そこには即身仏があるお寺が何軒かあるのだ。


 即身仏とは、生きたまま土の中に埋められたりして瞑想状態のまま亡くなった高僧の事。


 私にはよくわからないのだが、もの凄い力を持っていらっしゃるのだとか。


 蘭子お姉さんが、


「是非寄って来て」


と瑠希弥さんに言ったそうだ。


 私は霊は怖くないのだが、死体は怖い。


 即身仏って、確かミイラなのよね。


 平気かなあ。瑠希弥さんの前で倒れたりしたら、恥ずかしい。


 瑠希弥さんの車は快調に海沿いの国道を走り、鶴岡市の市街へと向かった。


「お!」


 我がG県の大手企業であるY田電機の看板だ! 凄いぞ、Y田電機! 山形にもあるのか!


 何だか妙に嬉しい。


 


 やがて車はあるお寺に着いた。


 即身仏で有名なお寺なので、観光客がたくさんいる。


 誰もが即身仏の霊力にすがりに来ているのだ。


「さあ、行きましょう」


 瑠希弥さんに促され、私はゴクリと唾を飲み込むと、境内に足を踏み入れた。


「わあ」


 途端に感じた。壮大な慈悲の心。


 何という温かい波動。本当に人間のものなのか、と思うほど、凄い。


 やがて人垣の向こうに即身仏が見えて来た。


 ミイラ。一言で言ってしまうとそうなのだが、実際は違う。


 この世のあらゆる苦しみを一心に背負ったような大きな心を感じた。


 生きたまま土の中に入り、そのまま死を迎える。


 想像がつかないほどの苦行だ。


 だからこそ、そのお姿は尊いし、ありがたいと思った。


 私は知らないうちに手を合わせ、涙を流していた。


「まどかさん、大丈夫?」


 瑠希弥さんが動かなくなった私を心配して声をかけてくれた。


「は、はい、大丈夫です」


 私はハッとして瑠希弥さんに答えた。


「行きましょうか」


「はい」


 瑠希弥さんも泣いていたようだ。


 それはそうだ。


 このお坊様の苦行を感じて泣かない霊能者はいない。


 同時に、自分の存在の小ささを改めて思い知らされた。


「先生の修行場は羽黒山です。もう少しですよ」


 瑠希弥さんが行った。


 早く蘭子お姉さんに会いたい。


 あれ? もう一人誰かいるんだっけ?


 まあ、いいや。

 

 


 とにかく、貴重な体験をしたまどかだった。

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