正義は必ず勝つのよ!
私は箕輪まどか。現在トンデモオヤジと戦っている。
オヤジの名は鴻池大仙。「サヨカ会」という宗教団体の宗主だ。
大仙のオヤジは、死霊を操る術具を持っていて、ねずみ算式に増えて行く死霊が纏わりついていた。
すでに気持ち悪い程の数になっている。
「手早く片づけないと、とんでもない事になりそうですね」
私の彼である江原耕司君のお父さんの雅功さんが呟く。
確かに「マジヤバい」状況だ。
「間髪入れずに行くで、みんな!」
関西のオバさんが叫ぶ。
「インダラヤソワカ!」
帝釈天の真言を連発する。しかし、オヤジには届かない。
「その程度でこの私に対抗しようと言うのか? 西園寺蘭子並みの破壊力のある真言でなくては、全く意味をなさないぞ」
オヤジは嫌らしい笑みを浮かべ、私達を見ている。蝋燭の明かりがオヤジの顔を浮かび上がらせているので、キモさ倍増なのだ。
「ほならこれならどうじゃ!」
オバさんが目配せする。大黒天真言を使うつもりのようだ。それなら効くだろう。
私は江原ッチと呼吸を合わせた。
「行くで、おっさん!」
まずは関西のオバさんが真言を唱えた。
「オンマカキャラヤソワカ!」
続けて私と江原ッチのダブル真言だ。
「オンマカキャラヤソワカ!」
更に、後からやって来た小松崎瑠希弥さんも真言を唱える。
「オンマカキャラヤソワカ!」
大黒天真言の三連弾だ。これで効かないのなら、もうどうしようもない。
「うおおお!」
さすがのオヤジも効いたらしく、叫び声を上げた。
「やったか?」
雅功さんと菜摘さんが身を乗り出す。
オヤジは祭壇の上に転がりそうになった。確実に効いているようだ。
「なーんてな」
うん? いかりやさん? そんなはずはない。
「効かぬぞ。何だ、今のは? 手を抜いているのか、お前達は?」
オヤジは余裕の笑みを浮かべて私達を見た。
ムカつく! オヤジは私達をからかっていたのだ。
「何やて?」
関西のオバさんも驚いている。瑠希弥さんもだ。
「おしまいか? ならばこちらから行くぞ」
オヤジの周囲の死霊達が私達に向かって来た。
「きゃっ!」
私は死霊に急襲され、倒れかけた。
「まどかりん!」
江原ッチがそれを支えてくれた。
「皆さん、固まって下さい。一人になると危ない」
雅功さんが指示する。私達は雅功さんを中心にして円陣を組んだ。
「フン、そんな事は時間稼ぎにもならぬぞ。私の可愛いペット達の力、存分に味わうがいい」
オヤジは目を血走らせ、叫んだ。途端に死霊達がまるで竜巻のような勢いで回転し始め、私達の円陣目がけて飛んで来た。
「はっ!」
小倉冬子さんが何かを放つ。その何かは死霊に向かい、死霊を食らい始めた。
「おのれ、小倉冬子!」
オヤジは死霊の全てを冬子さんに向けた。
「くっ!」
冬子さんはさすがに捌き切れなくなっている。
「オンマリシエイソワカ!」
私と瑠希弥さんが摩利支天の真言で死霊を弾き、江原ッチが冬子さんを助ける。
「インダラヤソワカ!」
しかし、そんなものは本当に焼石に水状態だった。
死霊の数は増えるばかりだ。
「消耗戦だな……」
雅功さんが呟いた。
もしかすると、オヤジの奴、私達が疲れるのを待っているのか?
あいつは術具の力で死霊を動かしているだけだから、全然疲れてはいないのだ。
このままでは私達がどんどん消耗してしまい、力を使い切ってしまう。
「やっぱり、あの術具を奪わない事には……」
その時だった。
懐かしい波動を感じた。これは……。
私は扉の方を見た。そこには、西園寺蘭子さんが立っていた。
「蘭子!」
「先生!」
「蘭子お姉さん!」
「西園寺さん」
みんなが蘭子お姉さんを見た。蘭子お姉さんは頷いて、
「遅くなりました。さあ、最後の仕上げをしましょう」
とオヤジを睨む。するとオヤジが、
「西園寺蘭子、お前ももうほとんど力が残っておらんだろう。仲良く地獄に送ってやるから、安心して死ぬがいい!」
と言い放った。どこまでも憎らしい奴だ。
「どうして地獄なの?」
お姉さんは負けていない。するとオヤジは高笑いして、
「神であるこの私に逆らった者は皆地獄に行くのだよ!」
「誰が神よ!?」
蘭子お姉さんは関西のオバさんと冬子さんが目で合図したのを見て、
「貴方だって疲れているでしょ? 死霊の動きが乱れているわよ」
オヤジは蘭子お姉さんを嘲るように見て、
「そんな戯言に惑わされるか、小娘。神の力を見るがいい!」
死霊がまた増殖している。本当にヤバい数だ。
「皆さん、力を貸して下さい!」
蘭子お姉さんは摩利支天(まりしてん)の印を結んだ。
私と江原ッチ、そして瑠希弥さん、それから雅功さんと菜摘さんも印を結んだ。
多分これが囮なんだろう。関西のオバさんと冬子さんがオヤジの視界からソッと外れる。
「オンマリシエイソワカ!」
死霊が一瞬だけ弾き飛ばされた。
「無駄だ、その程度の力!」
高笑いするオヤジの懐にオバさんと冬子さんが飛び込んだ。
「何!?」
オヤジはビックリしていた。ざまあ見ろ。
「おっさん、ボディががら空きやで」
オバさんの左の拳がオヤジの脇腹にぶち当たった。
「ぐえええ!」
オヤジが苦しむ隙を突き、冬子さんがオヤジの手から独鈷を奪い取った。作戦成功だ。
「ざまあ見さらせ、ジジイ! これはウチのうんこの分や!」
関西のオバさんが凄い事を言い放ち、踵落としを炸裂させた。
「ぐはあ!」
オヤジはそのまま後ろに倒れた。
術具を奪った冬子さんは何やら呪文を唱え、死霊達を呪縛から解放している。
相変わらず凄い人だ。敵にしたくない。
あれほどたくさんいた死霊達はたちどころに消えてしまった。
「勝ったな」
関西のオバさんが「どや顔」で言った。
蘭子お姉さんが微笑んで私達を見た。
「危ない!」
冬子さんが叫び、オバさんを抱きかかえてオヤジから離れた。
オヤジはまだ動く余力があったようだ。立ち上がり、その右手に銃を持った。
「貴様ら、よくもここまでやってくれたな!」
オヤジは注連縄から出て来て、銃を私達に向けた。
「おっさん、無駄や。やめとき」
オバさんが近づこうとすると、
「寄るな!」
オヤジはいきなり銃を撃った。
オバさんは弾道を読んでいたらしく、見事にそれをかわした。
「よくかわしたな。次は外さんぞ」
ギョッとした。オヤジは事もあろうにこの私に銃を向けたのだ。
「まどかりん!」
咄嗟に江原ッチが私の前に立ち塞がってくれた。
「死ねえ!」
オヤジがそう叫んだ時だ。
私はビクッとした。
オヤジの後ろに黒い着物の少女が現れたのだ。何者?
少女はフッと笑った。ゾクッとする。
霊? それにしても何て威圧感なの?
オヤジが引き金を引くと、銃が暴発した。
「ぐはあ!」
その衝撃でオヤジは後ろによろめき、祭壇に倒れた。
注連縄が切れ、周囲にあった蝋燭が炎を吹き上げながらオヤジの上に落ちて行った。
「うわあああ!」
蝋燭の火とは思えない勢いで炎がオヤジを焼いて行く。
江原ッチがその惨状を私に見せないように抱きしめてくれた。
「わはははは!」
何故かオヤジは大笑いをしながら燃え尽きたようだ。
黒い着物の少女は、私達を見てゾッとするような笑みを浮かべると、オヤジの魂を伴い、消えてしまった。
戦いが終わったのを悟ったのは、それからしばらくしてからだった。
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