自称イケメンがまた現れたのよ!

 私は箕輪まどか。中学生の美少女霊能者だ。


 絶対彼氏の江原耕司君とはラブラブ。


 ちなみにAまで行った。


 え? 表現が古い? 仕方ないじゃない、作者が昭和生まれなんだから。


 


 ラブラブの江原ッチが、自称イケメンの叶秀明に酷い目に遭わされた。


 奴は「光明真言」を自分の身体に書いて、私達の攻撃を封じていたのだ。


 絶体絶命のピンチを救ってくれたのは、私の親友近藤明菜の彼で、江原ッチの親友の美輪幸治君だった。


 叶の光明真言も、美輪君の拳を封じる事はできなかったのだ。


 


 そんな訳で、私と江原ッチは、コンビニのたまり場で作戦会議。


「今度あいつが現れたら、俺がぶん殴る。で、身体に書いてある真言を消した後、まどかりんが止めを刺して」


「うん」


 何だか、非常に単純極まりない作戦だが、叶がそれほど頭がいいとは思えないので、その程度で十分なはずだ。


「じゃ、帰ろうか」


 私達はコンビニを出て、手を繋いだまま道を歩いた。


 みんながジロジロ見ているが、そんな事は気にならない。


「あ!」


 江原ッチが私を見て叫ぶ。何故か顔が赤い。


「どうしたの、江原ッチ?」


 私は不思議に思って尋ねた。


 いくら私が可愛くても、もう赤くならないで欲しいものだ。


「ま、まどかりん、スカート!」


「え?」


 私はふと自分を見た。


「げ!」


 さっきコンビニのトイレに入った時、やってしまったようだ。


 私はスカートの裾を捲り上げたまま、歩いていたのだ。


 要するに「パンツ丸見え」状態である。


「……」


 顔が破裂するくらい赤くなった。


「こら、見るな!」


 江原ッチが周りにいる人を威嚇してくれているが、余計注目されているような気がする。


 私はすぐに裾を直した。


「ごめん、まどかりん。俺が気づくべきだった」


 優しい江原ッチは私に頭を下げた。


「気にしないで、江原ッチ。私が不注意だったんだから」


 私は江原ッチの男気に嬉しくて涙が出そうだった。


 私達の絆は、更に強くなったと思う。


 そしていつもの分かれ道。


 ここで一緒に下校するルートはおしまい。


 それぞれ別の方向へ帰る事になる。


「じゃあね、江原ッチ。また明日」


「うん、まどかりん」


 私がふざけて投げキッスをすると、江原ッチは犬の真似をしてそれに飛びつく動きをした。


 そして互いに手を振り、別方向に歩き出す。


(それにしても、恥ずかしかったなあ……)


 私はさっきの事を思い出して、また顔が火照った。


「え!?」


 その時、江原ッチの声がした。


(まどかりん、逃げろ!)


 え? どういう事?


 私は心配になり、江原ッチの後を追った。


「ああ!」


 江原ッチは、高校生らしき連中に囲まれていた。


 相手は五人。しかも悪そうでバカそうだ。いろいろな髪型がいて、妙に笑える。


 でも、どうして私に「逃げろ!」と伝えて来たの?


「!」


 その時、私は高校生の後ろにいる叶に気づいた。


 あのバカ、こんな方法で江原ッチを!


 ムカついてしまう。


「おお、お姫様のご登場だ」


 叶が私を見た。するとバカ高校生のうちの三人も私を見た。


「へえ、噂通り、可愛いじゃんよ。俺、付き合っちゃおうかなあ」


 その三人の中でも一番頭が悪そうな奴が気持ち悪い笑い方をした。


 左半分だけ刈り上げている変な奴だ。


 可愛いと言われてもちっとも嬉しくない。


「まどかりん、逃げろ。こいつらは俺だけで大丈夫だ」


 江原ッチが叫ぶ。


「うるせえよ、中坊が!」


 残りの二人のうちの坊主頭が、いきなり江原ッチに殴りかかる。


「インダラヤソワカ!」


 江原ッチはその攻撃をかわし、帝釈天の真言を唱えた。


「グゲッ!」


 坊主頭は雷撃を食らい、倒れた。


「皆さん、お姫様をお願いします」


 叶の言葉に三人の高校生が私に向かって歩き出す。


「待てよ!」


 江原ッチが追いかけようとすると、


「てめえの相手は、俺だよ!」


と残った高校生が江原ッチに掴みかかる。こいつは頭頂部の髪を長く伸ばし、周りを刈り上げている。


「うるせえ!」


 江原ッチの雷撃がそいつにも炸裂した。しかし、


「効かねえよ」


 そいつの直前で、雷撃が消えた。


 まさか!


「叶君のおかげで、心配ないのさ」


 その刈り上げ君はニヤリとした。


「くそ!」


 江原ッチはそいつと距離をとった。


「ほい、お姫様」


 気がつくと私は三人に囲まれていた。


「触るな!」


 私も印を結ぶ。


「げ!」


 三人はギョッとして離れた。


 こいつらには光明真言は書いていないようだ。


「まどかさん、暴れないでよ。君が暴れると、江原君が怪我するよ」


 叶がニタリとして私を見る。


「皆さんはまどかさんが逃げられないように囲んでいて下さい。僕が彼女を捕まえますので」


 叶はまだ光明真言を身体に書いたままみたいだ。


「まどかりん!」


 江原ッチが刈り上げ君を威嚇しながら叫ぶ。


「光明真言は万能じゃない!」


「え?」


 江原ッチの言葉は謎めいていた。


「強がり言うなよ、江原君。真言を封じられた君なんて、只の中坊だよ」


 叶が江原ッチを睨んで言う。江原ッチはそんな叶を無視して、私を見て頷いた。


 そうか! そういう事か! 二人で力を合わせて、叶の力以上の真言をぶつければ、破れるはずだ!


 私も江原ッチに頷いた。そして呼吸を合わせる。


「何だい、何をするつもりさ?」


 叶は私達を交互に見てせせら笑う。


「インダラヤソワカ!」


 私と江原ッチが、帝釈天真言を同時に唱えた。


「何!?」


 するとさっき江原ッチの真言を弾いた刈り上げ君に雷撃が決まる。


「ぎえええ!」


 刈り上げ君がプスプスと音を立てて倒れる。


 更に私を囲んでいた三人にも雷が落ちる。


「ぎょえええ!」


 三人ともダウン。そして残ったのは叶だけ。


「ひ!」


 奴は見苦しいほど狼狽えていた。


「わ、わ、ごめん、まどかさん、もうしないから、許して!」


 泣きながら詫びる叶を、私は冷たい目で見て、


「許さない。二度と私達にチョッカイ出せないくらい痛めつける!」


「ひいい!」


 叶が絶叫する。私は叶に近づき、


「この!」


とデコピンした。それだけなのに、叶は硬直して動かなくなった。


「わ!」


 しかも奴は、失禁までしている。


「ばっちいな、もう!」

 

 私は慌てて離れた。


「よし、デジカメで撮ってあげよう」


 江原ッチが叶の醜態を撮影した。


「今度俺達にチョッカイ出したら、これをネットで公開するぞ」


 江原ッチの言葉が叶に聞こえていたのかは、定かでない。


 


 只、それ以降、叶は私達を見ると逃げるようになったので、聞こえていたのかも知れない。


 取り敢えず、一件落着のまどかだった。

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