豪華メンバー揃い踏みなのよ!

 私は箕輪まどか。中学生の美少女霊能者。でも貧乳。


 おい!


 どうしていつも、まともな自己紹介させてくれないのよ!?


 そ、それに、私、「貧乳」じゃないし!


 ……。


 ごめんなさい、もうウソは吐きませんから……。


 


 先日、M市の市営プールで出会った霊能者の小松崎瑠希弥さん。


 私の憧れの西園寺蘭子お姉さんのお弟子さんで、しかも私の絶対彼氏である江原耕司君を惑わせるような抜群のプロポーションと美貌の持ち主だ。


 私は危機感を抱いたが、瑠希弥さんは江原ッチには全然興味がないらしく、江原ッチはあっさり撃沈した。


「お仕置きだベー」


 私は瑠希弥さんと別れた後、江原ッチにお説教した。


「私の目の前で、他の女性に気を取られないでよ、江原ッチ!」


 すると江原ッチは頭を掻いて、


「ごめん、まどかりん。多分、あの人、霊的な力で男を惑わせているんだよ」


「フーン」


 私は軽蔑の眼差しで江原ッチを見た。


「わわ、もうまどかりん以外の女の子に気を取られたりしません!」


 ミエミエのウソがバレたと悟った江原ッチは、土下座した。


「わかればよろしい」


「ははー!」


 まるで遠山の金さんだ。


 


 そして私達は、思った以上に早く片づいた幽霊騒動のおかげで時間ができ、プールデートを満喫した。


 そして帰り道、途中の喫茶店で休憩。


 ムフフ。一つのアップルジュースを二つのストローで飲む。


 小さい頃から憧れていた光景だ。


 私達は、客観的に見ると恥ずかしいくらい見つめ合い、ジュースを飲んだ。


「ブ!」


 私は思わずジュースを吹いてしまった。


「ひっ!」


 当然すぐ目の前にいた江原ッチにかかってしまう。


「ひどいよ、まどかりん……」


 泣きそうな顔で言う江原ッチ。私はそれどころではなく、


「あ、あれ見て、江原ッチ!」


と江原ッチの後方を指差した。


「え?」


 江原ッチはおしぼりで顔を拭きながら振り向く。


「あ」


 そこには、あの悪役少女の綾小路さやかが男子といた。


 しかも一緒にいるのは、かつて私が付き合っていたかも知れない気がする牧野徹君ではなく、江原ッチの親友で、私の親友近藤明菜の彼、美輪幸治君だったのだ。


「み、美輪……」


 さすがの江原ッチも驚いている。私もビックリだ。明菜が知れば、卒倒しているはず。


「あーら、偶然ね、箕輪さん、江原君。ご機嫌いかが?」


 さやかは、その悪役ぶりを存分に発揮し、ニヤリとした。


「おい、美輪、何やってるんだよ? アッキーナはどうしたんだ?」


 江原ッチは頭に血が上ったらしく、いきなり美輪君の襟首をねじ上げた。


「何するんだよ。あいつとは別れたんだよ。放せよ」


 美輪君はムッとした顔で言い返す。


 おかしい。彼はさやかに操られている様子はない。


 そしてウソを吐いてもいない。


 でもどうして?


 私達がプールに行ったのは、二人に幽霊騒動を教えられたからなのに。


「出ましょう、美輪君。乱暴な方とは関わらない方がよろしくてよ」


「ああ」


 美輪君は、江原ッチの手を振り払い、席を立つとレジに向かう。


「待てよ!」


「江原ッチ!」


 追いかけようとする江原ッチを、私は止めた。


 何だろう? さやかが何かしたのは確かなのに、あいつからは何も感じない。


 私は携帯を取り出し、明菜に連絡した。


「はい」


 元々ハスキーな声で、電話だと暗い印象がある明菜の声だが、その時はもっと暗かった。


 私は時間が惜しかったし、文字数が大変なので、単刀直入に尋ねた。


「本当だよ。美輪君とは、昨日別れた」


「ええ?」


 私は江原ッチと顔を見合わせた。


「とにかく、今から会えない? 話がしたいの」


 渋る明菜を説得して、私達は明菜の家に行った。


 


「どうぞ。誰もいないから」


 玄関で出迎えてくれた明菜は、目が真っ赤だった。


「俺、遠慮しようか?」


 江原ッチが気まずそうに言う。でも私は、


「一緒にいて」


と彼を引っ張って、明菜の家に入った。


「何があったの、明菜?」


 私は明菜の気を探ってみたが、彼女の心が閉ざされてしまっていて、何もわからない。


 で、直接訊いてみた。


「隣町の中学の男子に声をかけられたの。私は無視して歩き出したんだけど、そいつはいつまでも私をつけて来て……」


 私は息を呑んだ。そいつがいきなり明菜に飛び掛り、強引にキスしたのだ。


 その光景が、まるで雪崩のように私の頭に押し寄せて来た。


 明菜の感情の気が爆発し、解放されたのだ。


 しかも、そいつから、さやかの気を感じた。


 あの女! 一気に怒りが頂点に達した。


 明菜はその時、その男子からさやかの気を移され、さやかの操り人形になった。


 明菜はあろう事か、その男子と共に美輪君を訪ね、


「今度この人と付き合う事にしたから」


と言い捨てたのだ。


 全部さやかの仕業。美輪君には一切何もせず、明菜と別れさせた。


 そしてさやかは傷心の美輪君に泥棒猫のように近づいたのだ。


「ひでえ……」


 江原ッチもその光景を見たようだ。両手をワナワナと震わせている。


「どういうつもりなんだ、あの女は!?」


 江原ッチがいきなり怒り出したので、事情がわからない明菜は仰天していた。


「ありがとう、明菜。心配しないで。正義は必ず勝つから」


「え、ええ……」


 唖然とする明菜を残し、私と江原ッチはさやかを探すために明菜の家を出た。


 


 どこに行ったのか、さやかの気は感じられなかった。


 私達は街中の空き地にいる。


 仕方ないので、私はあまり使いたくない切り札を使う事にした。


「何、それ?」


 ドン引きの江原ッチに苦笑いし、私はオカリナを吹いた。


 甲高い音が鳴り響き、辺りに妖気が漂い始めた。


「え? これってもしかして?」


 江原ッチも思い出したようだ。電柱の陰に立つ黒尽くめの女性。


「まどかちゃん、どうしたの?」


 小倉冬子さん。私のエロ兄貴の高校の同級生で、兄貴のフィアンセだと思い込んでいる人だ。


「冬子さん、この前私を苛めた女が今度は私の親友を苛めているんです。どこにいるかわかりますか?」


 随分と虫のいい話だが、冬子さんはその顔を引きつらせて、


「そう。まどかちゃんの親友は私にとっても大事な人。その人を苛める女は私が許さない」


 冬子さんは、何やら聞いてはいけないようなおぞましい声で呪文を唱え始めた。


 江原ッチはすでに泣きそうだ。


「こっちよ、まどかちゃん」


 冬子さんは、ユラーッと走り出す。私と江原ッチは慌てて彼女を追いかける。


 私達は、しばらく走って街外れに出た。


 そこは新しい道路ができる予定地で、近くに立ち退いたのだろうか、無人の家があった。


「あの中よ。お札で自分の気を消しているけど、私には通じないわ」


 冬子さんはまた顔を引きつらせた。多分、笑ったのだろう。


「行きましょう!」


 私達はその空き家に踏み込んだ。


「げ!」


 そこには驚くべき光景が広がっていた。


 ビキニ姿のさやかが、海パン姿の美輪君を寝かせて、妙な油を降りかけていたのだ。


「わ、まどか!」


 さすがにこれほど早く私達が来るとは思っていなかったのだろう、さやかはいつになく慌てていた。


「美輪!」


 江原ッチがさやかを突き飛ばして美輪君に近づく。美輪君は気を失っているらしく、反応がない。


「江原ッチ、美輪君を連れ出して!」


 私は冬子さんと共にさやかを追い詰めながら言った。


「了解!」

 

 江原ッチは美輪君を担ぐと、空き家を飛び出した。


「さやか、あんた、一体どういうつもりよ!」


 私は今度という今度は、絶対に彼女を許せなかった。


 私に嫌がらせするだけなら我慢するけど、関係ない明菜や美輪君まで巻き込んで!


「あいつがいけないのよ!」


「え?」


 さやかが泣いている。何だ?


 今、さやかは純情満開だ。どうしたんだろ?


「あ、あいつが、プールでおぼれかけた私を助けてくれて、それで、すっごく優しくしてくれたのよ! だからいけないのよ!」


 何だ。要するに、さやかが美輪君に「ほの字」だったのね。


 そこ! 「久しぶりに出たな、死語の世界」とか言うんじゃないの!


「だから、だから、いけないのよ……」


 さやかは泣き伏してしまった。


「わかる、その気持ち……」


 冬子さんがボソリと呟いた。


 私の怒りも消えていた。


 結局さやかは、術で惚れさせていた牧野君ともうまくいかず、精神的にヘロヘロだったのだ。


「人のものを盗ったりしたらダメだよ、さやか」


 私はそれだけ言うと、空き家を出た。


「友達になれそう」


 冬子さんはそう言うと、


「まどかちゃん、またね」


と引きつり笑いをしながら、行ってしまった。




 こうして、明菜と美輪君は元の鞘に戻った。


 無事解決してホッとする。


 冬子さんとさやかが友達になる?


 なんだか怖いけど、さやかもちょっとだけ可哀想だしね。




 今回は「いつもより余計に回しています」のまどかだった。


 それ、どういう意味?

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