里見まゆ子さんが怖いのよ!
私は箕輪まどか。自己紹介は省略します。
私はそれ程傲慢ではないよ。
お父さんが好きだった某サンライズのアニメのドバ総司令の言葉を引用した。
それにしても暑い。
霊感少女でも、暑いのはどうしようもない。
しかも最近の暑さは、「暑い」ではなく、「熱い」なのだ。
もしやこれは妖怪の仕業……。
それでは、鬼○郎か、ぬー○ーになってしまうので、あり得ない。
作者の奴、ヒロインが自分と同名なので、ぬー○ーに嵌っているらしい。
お願いだから、露骨にパクらないで欲しい。
私の方がずっと美少女なんだから。
あ。やな奴になりそうだ……。
先日、空の国公園のお化け屋敷で一騒動あったが、私の憧れの西園寺蘭子お姉さんの話だと、あの関西のオバさんは関係ないらしい。
ホッとした。
最悪の場合、私のエロ兄貴を生け贄に捧げて、鎮まっていただこうかとも考えたほどだ。
でもそれだと、私の「お姉さん候補ナンバーワン」の、里見まゆ子さんが可哀相だし。
エロ兄貴なんてどうなろうと構わないんだけどね。
で。そんなどうでもいいエロ兄貴に言われて、また霊視の仕事だ。
でも、今日はルンルンなのだ。
え? 今時「ルンルン」なんて、林真理子だって言わないって?
うるさいわね。ほっといてよ!
今日は私の絶対彼氏の江原耕司君も一緒なのだ。
兄貴の奴、どこで知ったのか、江原ッチのお父さんが高名な退魔師である江原雅功さんである事を突き止めていた。
いつもながら、「長いものには積極的に巻かれる」という生き様を曲げない兄貴だ。
そういうところだけは、感心してしまう。
更に悪い事に、まゆ子さんが妙に嬉しそうなのだ。
普段は私が後部座席、助手席が兄貴で、まゆ子さんが運転。
しかし、今日は助手席に江原ッチが乗り、兄貴が後部座席。
ううう。
現場に到着するまでの「後部座席でイチャイチャ構想」が脆くも崩れたわ。
まゆ子さん、恋する乙女の目で、江原ッチを見ているの。
私達は、今までの
ここへ来て、ようやく兄貴もまゆ子さんの魅力に気づき、本気で狙い始めたのだ。
「耕司君、モテるでしょ?」
まゆ子さん、
この人、もしかして、ショタコン?
そんな趣味があるなんて……。ショックだわ、まゆ子さん。
で、ショタコンて何?
「ショタコンとは、半ズボンの男の子が好きという意味だ」
何故か訊いてもいないのに兄貴が答えた。
「へえ」
私は思わず、ありもしないボタンを連打した。
江原ッチは頭を掻きながら、
「モテないっすよ。それに俺は今、まどかりん一筋ですから」
「まあ」
まゆ子さんはニコッとして私をルームミラー越しに見た。
私は照れ笑いをしたが、まゆ子さんの目が笑っていない事に気づき、恐怖した。
殺される? そんな事を考えてしまったほどだ。
ふと隣を見ると、何故か兄貴は泣きそうな顔をしていた。
心配しないで、お兄ちゃん。江原ッチはまゆ子さんになびいたりしないわ。
彼、私にメロメロなのよ。
何だか、凄く嬉しい気分になった。
そして、車は現場に着いた。場所はM市の中心街のビル。
「さ、現場はこっちよ、耕司君」
「あ、はい」
まゆ子さんは江原ッチの手を掴み、サッサとビルの中に入って行く。
「行くぞ、かまど」
「う、うん」
兄貴に「かまど」と言われても突っ込めないほど、私は動揺していた。
江原ッチがまゆ子さんに盗られたりはしないだろうけど。
兄貴もイラついているようだ。
「ここです。血痕の量からして、被害者は死亡していると思われます。只、遺体が発見されていません。それを探して欲しいのです」
現場はビルの中の空き室。床一面に大量の血痕があるだけで、他に物証は何もない。
「探すまでもありません」
私は部屋中に響く声で高らかに宣言した。
「え? どういう事?」
江原ッチがキョトンとする。私はまゆ子さんを指差し、
「何故なら、ここで殺された女性の霊は、まゆ子さんに取り憑いているからです!」
「ええ!?」
兄貴と江原ッチが仰天してまゆ子さんを見た。
「江原ッチ、離れて!」
「あ、ああ」
江原ッチもまゆ子さんから発せられる得体の知れない何かを感じたようだ。
「よく気がついたわね、お嬢さん」
まゆ子さんではないまゆ子さんが言う。ああ、ややこしい!
「まゆ子さんはショタコンじゃないのよ。そんな事より、貴女を解放してあげたいの。遺体はどこ?」
私はまゆ子さんに取り憑いた霊に呼びかけた。
「そんなの、探さなくていいわ。私はこの女を乗っ取って、この女として生きて行くのよ!」
まゆ子さんの顔が兇悪になった。兄貴は言葉も出ないほど驚いている。
「そんな事言っちゃダメだよ」
江原ッチが言った。
「そんな事言っていると、貴女は本当に悪霊になってしまうよ。貴女を殺害した犯人を突き止めるためにも、教えて下さい」
何故かまゆ子さんは顔を赤くした。この霊、本気で江原ッチに惚れてるの?
「わかったわ」
あれ? あっさり承諾した。拍子抜けだな。
「でも、一つだけお願いがあるの」
「何?」
江原ッチは菩薩様のような笑顔で尋ねる。すると調子に乗った霊は、
「私を強く抱きしめて。そしたら、この女から離れるわ」
「何ーッ!?」
さすが兄妹と言われてしまうくらい、兄貴と私のハモりは素晴らしかった。
「いいよ」
江原ッチは微笑んだままでまゆ子さんに近づく。
「これでいいかな?」
江原ッチはそっとまゆ子さんを抱きしめた。
私は血の涙を流し、飛び掛ろうとする兄貴を止めた。
「ありがとう、耕司君」
まゆ子さんの身体から、フワッと女性の霊が離れた。
「おおお!」
今度は兄貴が歓喜の声を上げる。どうやら、女性の霊が見えているらしい。
こいつ、美人の霊は見えるのか? そして兄貴は魂の叫びを上げた。
「メルアド教えて下さい」
「さようなら」
女性の霊は私と江原ッチだけに自分の遺体のある場所と犯人を教えて、兄貴を無視したまま、消えてしまった。
「おっと!」
倒れかけたまゆ子さんを江原ッチが抱き止め、
「お兄さん」
と兄貴に預ける。
「俺はお前のお兄さんじゃない!」
兄貴は小姑のような事を言いながら、まゆ子さんを抱き上げた。
こうして、死体なき殺人事件は無事解決した。
ずっと霊に乗っ取られていたまゆ子さんは、どうやってここまで来たのかも覚えていない。
昨日現場検証に来た時、乗り移られたようだ。
でも、私達はまゆ子さんの事を考え、全部隠す事にした。
その方が丸く収まるからだ。
「ねえ、まどかちゃん」
車に戻りながら、まゆ子さんが小声で話しかけて来る。
「何ですか、まゆ子さん?」
「江原君て、カッコいいわね」
「は?」
ギクッとした。まさかまゆ子さん、そういう趣味があるから、あの霊に乗り移られたの?
「あんなカッコいい弟、欲しいなあ」
まゆ子さんは顔を赤らめて言い、走り出した。
大丈夫ですよ、まゆ子さん。
兄貴の気持ちは、貴女に向いてますから。
できますって。カッコいい弟が。
ついついニヤけてしまうまどかだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます