第14話
レスティナ達がいた世界は1つの信仰が大きな力を持ち、それを統括する法王領と6つの国が大陸を分けていた。
その中でも東に位置するユークリッド帝国は、歴史上数々の国が建国と亡国を繰り返す中、建国から700年以上経過しており、現在存在している他国よりも長い歴史を誇っている。
大陸随一と言っても過言ではない豊富な鉱物資源を有し、更には鉱物資源を有効化する為の技術が優れている事により、ユークリッド帝国の国力は他国に比べ高く、更に独自の加工技術により生み出されたユークリッド鋼は、大陸最強の金属であり、それらを用いた武器や防具を自国の騎士団に装備する事で戦力を格段に向上させる事が出来た。
また、その国力の高さから過去に幾度も資源を狙う勢力からの侵攻を受けたが、ユークリッド騎士団はその経験から戦闘技術を向上させていき、更に自国を守るという名目の下、兵士の意識と練度も向上していった結果、いつからか大陸最強の騎士団と称されるまでなっていった。
そのユークリッド帝国も、隣国ネグレス王国との戦争が18年前に終結して以来、平和で穏やかな日々が続いていたが、ある事をきっかけに再び戦争に身を投じる事になる。
それは大陸の中で最も国力が低いものの、穏健な政策で他国と友好関係を築いていたヒンデルグ皇国において、
全くの不意をつかれた形のレオル公国が、降伏するまでにはそれ程の時間はかからず、ヒンデルグは自分達よりも高い国力を持つレオルを易々と支配下に置き、更に軍備を拡大させる。
その事に危機感を覚えたユークリッド帝国は、隣国のエレイブ王国と同盟を結びヒンデルグを牽制するが、同じ様に同盟に加わると思われたネグレス王国が、過去に争ったユークリッドとの遺恨に加え、王の健康不安から同盟には加わらず、一方的に中立を宣言してしまい、残るシテリア王国は歴史的にも地理的にもヒンデルグとの繋がりが強い為に、必然的に静観を貫く形をとっていた。
やがてユークリッドとエレイブの2国同盟と、ヒンデルグの戦端は開かれたが、大方の予想に反しヒンデルグの抵抗は激しく、しばらくすると戦況はヒンデルグの国境付近において膠着状態に陥る。
前線がそんな状況になっていたある日、ヒンデルグ軍は突如としてユークリッドの帝都エレイシアに奇襲を仕掛けた。
ヒンデルグとユークリッドは、馬で8日かかる距離にある事に加え、2国間の主要街道の警備に自信を持っていたユークリッドは、完全に裏をかかれた形となる。
当時前線で指揮を取っていたユークリッド第2皇女であり、第1騎士団団長であるレスティナは、帝都急襲の報せを聞くと部隊の指揮を副長に任せ、自ら少人数の部下と共に僅かな休息を交えながら帝都へ4日で戻り、侵攻していたヒンデルグ軍を撃滅する事に成功した。
「姫様、お休みにはならないのですか?」
そうクロエがレスティナに向かって口にしたのは、帝都攻防の戦いが丸2日間に及び、その間レスティナは休憩らしい休憩すらとっていないにも関わらず、すぐにでも帝都から発とうとしているからである。
「前線に戻るのが先決だ」
「せっかくの帝都ですのに」
「別に家に用があって帰って来た訳じゃないだろ」
レスティナは素っ気なく答えるが、その整った顔や髪、そして鎧に至るまで埃や返り血が目立っており、その事もクロエの表情を曇らせた。
「姫様!」
その声の主は、銀髪をたなびかせながら巨体を揺らし2人のもとに向かって来るが、威圧的な程の屈強な身体付きながら、口元に携えた髭や顔に刻まれた皺から、その年齢もレスティナ達よりもかなり高いのは容易に想像出来る。
「オルハンか、準備はどうだ?」
「それは問題ありません。ワシはこの相棒さえいればどこでも戦えます」
オルハンは肩に担いだ戦斧を前に差し出すが、それは身体の大きさに相応しく通常よりも大きな物で、猛者揃いのユークリッドとは言え、その戦斧を扱えるのはオルハンしかいないだろう。
「御二人の様な体力自慢には問題ないかもしれませんが、わたくしの様な、か弱い人間からすれば、一晩でも休ませて頂けるとありがたいですね」
クロエが溜息混じりに言うと、オルハンは大声で笑い出す。
「まさか、ユークリッドの魔女ともあろう者が、か弱いなどと、そのような事を言うとは」
オルハンの笑いは、クロエが手から火球を出現させるまで続いた。
「姫様、あなたは騎士団長である前に、一国の皇女なのですから、今のその格好では笑い者になるだけですよ」
「クロエ、今は戦時だ。美しく着飾る必要など微塵もない」
「分かっております。せめてその美しい顔と髪を綺麗になさいませ」
その言葉にレスティナは困惑したように目を閉じると、ゆっくり息を吐いた。
「クロエ嬢ちゃんの言う事も一理ありますな。それに我らも皆が皆、万全という訳でもありませんので」
「それに気になる事もございます」
クロエはオルハンの援護に内心感謝しながらも、表情を崩すことなくそう口にする。
「気になる事?」
「今回これほどの規模の軍勢を、街道も使わずここまで侵攻してきた事です。どう考えても不自然ではありませんか」
「確かに、どこからやって来たのか分からない限り、同じ
オルハンもクロエの意見に同調すると、レスティナは顎に手を当て考える素振りを見せる。
「分かった、私も一旦城に戻る。クロエはその辺りの調査を、オルハンは皆に休息をとる様に伝え、また傷の深い者は無理させず帝都に置いていくように」
「承知しました」
クロエとオルハンは深々と頭を下げると、直ちにその場から離れ、残されたレスティナは愛馬に騎乗すると、そのまま城へと向かうべく馬を歩かせた。
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